「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・仮痴記 5
フォコの話、300話目。
バカを演じる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
カジノ荒らしが現れ、最初は動揺していたディーラーも、順調に勝ちを重ねたことで、いくらか平静と自信を取り戻したらしい。
「どうされますか?」
「続行」
「同じく」
対するカント、モールの二人は、戦績が振るわず焦っているような態度を執って見せている。
と、モールがそっと、カントの膝を指でちょん、と突く。
(そろそろ『二段目』仕掛けようか)
(かしこまりました、お嬢さん)
フォコの方も、モールたちの様子に気付く。
(やりますね)
(あいよ)
誰にも気付かれないよう、そっとフォコとアイコンタクトを交わしてから、モールは突然、大声を張り上げた。
「……チッ、ラチが明かないね! ココはいっちょ景気付けだ、ドーンと行ってみようかねぇ!?」
モールは横に積んでいたチップを、やや乱雑げにジャラジャラと音を立てながら、卓の中央に撒いた。
「大勝負、1億だッ!」
「いち……っ!?」
額を聞き、ディーラーの声が上ずる。
「いいね、僕もそれで行こう。同じく、1億だ」
モールに合わせ、カントもチップを10枚、中央へと寄せた。
「……お受け、致しましょう」
ディーラーも一瞬、面食らってはいたが、すぐに平然とした顔を作り、チップを20枚置いた。
「……交換」「同じく」
2億の勝負となり、一気に場は静まり返る。
「どっちが勝つと思う?」
若者二人はボソボソとささやき、予想を立てる。
「いきなり賭け金を上げるなんて、いかにも『これからイカサマやるよ』みたいな感じだしなぁ」
「いやぁ……、案外ヤケなのかも知れないしな」
「俺は荒らし側が勝つと思う」
「じゃあ俺は、店側だ」
そうこうしているうちに、ディーラーがまた、上ずった声を上げた。
「あっ、アガリです! 『グループ』、2倍付け、2倍付けです!」
冷静さを欠くディーラーの態度に苦笑する者もいたが、ほとんどは落胆の声を上げていた。
「あちゃー……」
「賭け金上げたんだからアガっとけっつの」
「何だよ、期待させて……」
この結果にギャラリーたちの半数は、これ以上面白い結果になりそうもないと見切りを付けたらしく、踵を返して離れようとした。
「も、もう一回! もっかい1億ッ!」
「ようし、じゃあ僕もだ」
一方、モールたちも依然として、捨て鉢になったかのような態度を見せ付け、多額の金を賭ける。
「お受けいたします」
ディーラー自身も、相手を不調と見て安心したらしい。うっすらと笑いを浮かべ、カードを配りだした。
この後も続けて連敗を喫し、あっと言う間にモールたちの失った額は、27億に届いていた。
既にこの時、フォコたちの手持ちは残り18億となっており、この結果だけを見れば軍資金の大半を失う大敗北でしかなく、劣勢としか見えなかったが――。
(機は熟した頃だと思うが、どうかな?)
カントの目配せに、モールは誰にも見えない角度で笑みを浮かべ、応じる。
(いい頃合いだね。そろそろ『三段目』、行っちゃおうかね)
(よしきた)
モールは悲壮な表情を作り、わななくような声を出す。
「も、……もう、こうなりゃ、ヤケだね! もうどうなったって構うかってね……!」
モールは自分の側にあったチップをすべて、中央に投げ捨てた。
「全額だッ! こっちの資金、全部賭けッ!」
「お、おいおい……」
なだめる格好をするカントに、モールはバタバタと手を振って抵抗する振りをする。
「お前も全部出せぇ! もうこうなりゃ、伸るか反るかしか無いね!」
「落ち着きたまえ、君、ね?」
「落ち着いてなんかいられないね! それとも何か、ボコ負けですごすご引き下がるってのか、バクチ打ちが!?」
と、止めるふりをしていたカントが、ニヤッと笑って見せた。
「……言われてみれば、その通りだ。半端に生き残っても、意味は無し。……よし、僕も男だ」
そう言って、カントも全額を賭けた。
「さあ、大勝負と行こうじゃないか……!」
「さあ、賭けた賭けたッ!」
「……わ、分かりました。お受け、致しましょう」
ディーラーも場の空気に呑まれたらしく、チップを並べ始めた。
「交換されますか?」
カードを配り終え、ディーラーがそう尋ねたが――。
「……いや、いらない。一符できてるね」「同じく。3枚くれ」
ニヤリと笑った二人を見て、ディーラーの顔から血の気が引く。
「……ど、うぞ」
「ありがとう」「……アハハハハ」
新たに配られた3枚を受け取った途端、二人はゲラゲラと笑い始めた。
「……よーやく、このアガリが来てくれたねぇ」「何ともドラマチックじゃないか」
二人は同時に、できた役を開示した。
「『エレメンツ』だ」「面白い偶然だね。僕も『エレメンツ』ができてる」
「ひっ……」
卓の前に並べられた12枚のカードに、ディーラーはガタガタと震えだした。
「カント氏、こりゃ、どーなったっけ?」
「どうだったかな……? ええと、『エレメンツ』だから、6倍付けか」
「で、それが2人分か。いくら賭けたっけね?」
「さて、どうだったか。確か、ざっと考えても9億くらいじゃないかな? 君と折半だったし」
「そっかそっか、うん。……じゃあ、9億かける、のー、6倍付け、でー、2人分ってコトだからー」
「占めて108億かな。いやぁウフフフ、参ったねこりゃ、モールさん、フフ、ウフフッフフフ」
「アハハハハハ、あー笑いが止まんないね、アハハハハハハハハハハ」
青ざめ、今にも倒れそうなディーラーに、二人は悪辣に笑いかけた。
「さあ、用意してもらおうか、ねぇ?」
「う、う、うあ、うわあああッ……」
恐ろしい額の損害を出し、ディーラーは恐怖による混乱のあまり、叫びかけた。
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バカを演じる。
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5.
カジノ荒らしが現れ、最初は動揺していたディーラーも、順調に勝ちを重ねたことで、いくらか平静と自信を取り戻したらしい。
「どうされますか?」
「続行」
「同じく」
対するカント、モールの二人は、戦績が振るわず焦っているような態度を執って見せている。
と、モールがそっと、カントの膝を指でちょん、と突く。
(そろそろ『二段目』仕掛けようか)
(かしこまりました、お嬢さん)
フォコの方も、モールたちの様子に気付く。
(やりますね)
(あいよ)
誰にも気付かれないよう、そっとフォコとアイコンタクトを交わしてから、モールは突然、大声を張り上げた。
「……チッ、ラチが明かないね! ココはいっちょ景気付けだ、ドーンと行ってみようかねぇ!?」
モールは横に積んでいたチップを、やや乱雑げにジャラジャラと音を立てながら、卓の中央に撒いた。
「大勝負、1億だッ!」
「いち……っ!?」
額を聞き、ディーラーの声が上ずる。
「いいね、僕もそれで行こう。同じく、1億だ」
モールに合わせ、カントもチップを10枚、中央へと寄せた。
「……お受け、致しましょう」
ディーラーも一瞬、面食らってはいたが、すぐに平然とした顔を作り、チップを20枚置いた。
「……交換」「同じく」
2億の勝負となり、一気に場は静まり返る。
「どっちが勝つと思う?」
若者二人はボソボソとささやき、予想を立てる。
「いきなり賭け金を上げるなんて、いかにも『これからイカサマやるよ』みたいな感じだしなぁ」
「いやぁ……、案外ヤケなのかも知れないしな」
「俺は荒らし側が勝つと思う」
「じゃあ俺は、店側だ」
そうこうしているうちに、ディーラーがまた、上ずった声を上げた。
「あっ、アガリです! 『グループ』、2倍付け、2倍付けです!」
冷静さを欠くディーラーの態度に苦笑する者もいたが、ほとんどは落胆の声を上げていた。
「あちゃー……」
「賭け金上げたんだからアガっとけっつの」
「何だよ、期待させて……」
この結果にギャラリーたちの半数は、これ以上面白い結果になりそうもないと見切りを付けたらしく、踵を返して離れようとした。
「も、もう一回! もっかい1億ッ!」
「ようし、じゃあ僕もだ」
一方、モールたちも依然として、捨て鉢になったかのような態度を見せ付け、多額の金を賭ける。
「お受けいたします」
ディーラー自身も、相手を不調と見て安心したらしい。うっすらと笑いを浮かべ、カードを配りだした。
この後も続けて連敗を喫し、あっと言う間にモールたちの失った額は、27億に届いていた。
既にこの時、フォコたちの手持ちは残り18億となっており、この結果だけを見れば軍資金の大半を失う大敗北でしかなく、劣勢としか見えなかったが――。
(機は熟した頃だと思うが、どうかな?)
カントの目配せに、モールは誰にも見えない角度で笑みを浮かべ、応じる。
(いい頃合いだね。そろそろ『三段目』、行っちゃおうかね)
(よしきた)
モールは悲壮な表情を作り、わななくような声を出す。
「も、……もう、こうなりゃ、ヤケだね! もうどうなったって構うかってね……!」
モールは自分の側にあったチップをすべて、中央に投げ捨てた。
「全額だッ! こっちの資金、全部賭けッ!」
「お、おいおい……」
なだめる格好をするカントに、モールはバタバタと手を振って抵抗する振りをする。
「お前も全部出せぇ! もうこうなりゃ、伸るか反るかしか無いね!」
「落ち着きたまえ、君、ね?」
「落ち着いてなんかいられないね! それとも何か、ボコ負けですごすご引き下がるってのか、バクチ打ちが!?」
と、止めるふりをしていたカントが、ニヤッと笑って見せた。
「……言われてみれば、その通りだ。半端に生き残っても、意味は無し。……よし、僕も男だ」
そう言って、カントも全額を賭けた。
「さあ、大勝負と行こうじゃないか……!」
「さあ、賭けた賭けたッ!」
「……わ、分かりました。お受け、致しましょう」
ディーラーも場の空気に呑まれたらしく、チップを並べ始めた。
「交換されますか?」
カードを配り終え、ディーラーがそう尋ねたが――。
「……いや、いらない。一符できてるね」「同じく。3枚くれ」
ニヤリと笑った二人を見て、ディーラーの顔から血の気が引く。
「……ど、うぞ」
「ありがとう」「……アハハハハ」
新たに配られた3枚を受け取った途端、二人はゲラゲラと笑い始めた。
「……よーやく、このアガリが来てくれたねぇ」「何ともドラマチックじゃないか」
二人は同時に、できた役を開示した。
「『エレメンツ』だ」「面白い偶然だね。僕も『エレメンツ』ができてる」
「ひっ……」
卓の前に並べられた12枚のカードに、ディーラーはガタガタと震えだした。
「カント氏、こりゃ、どーなったっけ?」
「どうだったかな……? ええと、『エレメンツ』だから、6倍付けか」
「で、それが2人分か。いくら賭けたっけね?」
「さて、どうだったか。確か、ざっと考えても9億くらいじゃないかな? 君と折半だったし」
「そっかそっか、うん。……じゃあ、9億かける、のー、6倍付け、でー、2人分ってコトだからー」
「占めて108億かな。いやぁウフフフ、参ったねこりゃ、モールさん、フフ、ウフフッフフフ」
「アハハハハハ、あー笑いが止まんないね、アハハハハハハハハハハ」
青ざめ、今にも倒れそうなディーラーに、二人は悪辣に笑いかけた。
「さあ、用意してもらおうか、ねぇ?」
「う、う、うあ、うわあああッ……」
恐ろしい額の損害を出し、ディーラーは恐怖による混乱のあまり、叫びかけた。
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300話到達。
「火紅狐」の基本テーマが商業譚と政治経済なだけに、
難しくて込み入った話になることがしばしば。
特に第6部は話の流れが二転三転する、
書き手としても読み手としても難航する、あるいは難航するであろう展開でした。
「火紅狐」を書き終わったら、次はもっと単純明快に読める話を書きたい。
300話到達。
「火紅狐」の基本テーマが商業譚と政治経済なだけに、
難しくて込み入った話になることがしばしば。
特に第6部は話の流れが二転三転する、
書き手としても読み手としても難航する、あるいは難航するであろう展開でした。
「火紅狐」を書き終わったら、次はもっと単純明快に読める話を書きたい。



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総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

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双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 2;火紅狐

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