「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・仮痴記 6
フォコの話、301話目。
トランプ翁の検分。
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6.
と、その時だった。
「ちょいと待ちな、そこの四人組さんよ」
錯乱しかけたディーラーの肩を抱き、このカジノの主――トランプ翁が現れた。
「なに? オーナー直々にお金持ってきてくれるって……」「バカ言ってんじゃあねえよ、『賢者』のお姐ちゃんよぉ!?」
トランプ翁はガン、と卓を蹴り付け、場を無理矢理に静めさせた。
「……おっと?」
「今の勝負、物言い付けさせてもらうぜぇ……!」
トランプ翁と、その背後に並ぶ子分たちに凄まれ、流石のモールも黙り込んだ。
「……いいよ。言いたきゃ、どーぞ」
「おうよ。……と、姐ちゃんよ」
トランプ翁はさっと素早く、モールの手をつかむ。
「手は、卓の上に置いてくんな」
「……分かった」
「リオンの旦那もだ」
「いいでしょう」
カントとモールの二名が卓に、手のひらを上にして置いたところで、トランプ翁は子分の一人に向かってあごをしゃくった。
「へい。……『フォースオフ』」
魔杖を持っていたその子分は、卓上に向かって魔術封印の術を唱えた。
「……さて、と。皆さん方、今の今まで、この卓を血眼になって見つめてたことと思うが、ちょっと聞きてえことがある。
今の役は、何だった?」
ギャラリーの一人が、それに応じる。
「二人とも、『エレメンツ』を出してた」
「ほう、そうかい。……じゃあ、こりゃ一体、なんだ?」
トランプ翁が卓上、モールの前に置かれたままのカード6枚を指差す。
「……あれっ?」
「バラバラ……?」
卓の上に置かれたカードは、何の役も成していなかった。続いてトランプ翁は、カントの前に置かれたままのカードも指し示した。
「さて、こっちは? ……おおっと、これもてんでバラバラと来たもんだ。
皆さん方よ、こいつらがカードを見せてから今まで、俺たちもカードは触ってねえし、こいつらも触れちゃいねえ。なのに、『エレメンツ』だったはずのカードは、今こうして改めて見てみると、バラバラ。
おかしなことが起こってやがるな、えぇ、おい?」
そう言ってトランプ翁はナイフを抜き、モールの首に当てた。
「う……っ」
「姐ちゃんよ、てめえのカラクリはもう見破ってんだ。
てめえら二人とも、カードを魔術で誤魔化してたんだ。カードの表面を、魔術で上書きしてな」
そこでもう一度、トランプ翁が指示する。
「解除してみろ」「へい」
子分がもう一度魔杖を振り、封印術を解除する。
「……あっ」
「カードが変わった……!」
カードの表面が変わり、また「エレメンツ」を映し出した。
「と、まあ。こうやって、てめえらは好き放題に、カードの目を操れたわけだ。そりゃ何十連勝もできるし、ここ一番でどデカい役もできあがるわな。
……さーて姐ちゃん、そしてリオンの旦那。申し開きは、あるかい?」
「……」「……」
二人とも蒼い顔になり、黙り込んだ。
「分かってると思うが、賭場でのイカサマはご法度だ。当然、今までの勝負は全部無効ってわけだ。
今すぐ稼いだ金を全部出して、とっとと失せな。さもなきゃ……」
トランプ翁は、ここで言葉を切る。それと同時に、子分たちが一斉に、武器を構えた。
と――。
「それは残念な話だ、……トランプ翁にとっては、だが。折角、27億も稼いだと言うのに」
「……あぁん?」
カントが額に汗を浮かべつつ、口を開いた。
「まあ、イカサマしたのは事実だ。認めよう。でも我々が使用したのは、この局でだけだ。
それなのに卓に着いてからの、すべての勝負を無効に? おぉ、なんと慈悲深いことか!」
「何をふざけてやがる、バカ旦那」
「ふざけてなどいないさ。
事実、今の局以外はほぼ、負けっ放しだった。僕たちの負けが込んでいた。その額、27億だ。これも含めて全部を無効にしてくれると言うなら、僕たちにとってはありがたい話以外の、何物でもない」
「屁理屈こねやがって……! 通るかよ、んな理屈」
呆れるトランプ翁に対し、カントは強気に出る。
「呑めないと? じゃあ、この勝負は有効、即ち僕たちが108億を獲得するのを認めると言うことで、よろしいか?」
「アホか」
「アホどころか、理屈に叶っていると思いますがね。
トランプ翁、あなたは『今までの勝負は全部』無効だと言った。なら、僕たちが払う金はない。最初から無効なら、賭けた事実は存在しないわけですからね。
もし有効だと言うなら、あなたの言葉通り、『今までの勝負は全部』有効と考えてもらわないと理屈に合わない。
魔術のかかったこのカードでディーラー君は勝負し、我々から27億を巻き上げたわけですからね」
その一言に、トランプ翁のつるつるの額にビキ、と青筋が走る。
「俺の子分を貶めるのか、このクソ野郎が……ッ!」
「じゃあ、証明できますか? あなたの可愛い子分、この優秀なディーラー君が、我々の魔術を逆用していないことを。
証明ができなければ、それこそ27億の獲得は無効と見てもらわねば」
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トランプ翁の検分。
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と、その時だった。
「ちょいと待ちな、そこの四人組さんよ」
錯乱しかけたディーラーの肩を抱き、このカジノの主――トランプ翁が現れた。
「なに? オーナー直々にお金持ってきてくれるって……」「バカ言ってんじゃあねえよ、『賢者』のお姐ちゃんよぉ!?」
トランプ翁はガン、と卓を蹴り付け、場を無理矢理に静めさせた。
「……おっと?」
「今の勝負、物言い付けさせてもらうぜぇ……!」
トランプ翁と、その背後に並ぶ子分たちに凄まれ、流石のモールも黙り込んだ。
「……いいよ。言いたきゃ、どーぞ」
「おうよ。……と、姐ちゃんよ」
トランプ翁はさっと素早く、モールの手をつかむ。
「手は、卓の上に置いてくんな」
「……分かった」
「リオンの旦那もだ」
「いいでしょう」
カントとモールの二名が卓に、手のひらを上にして置いたところで、トランプ翁は子分の一人に向かってあごをしゃくった。
「へい。……『フォースオフ』」
魔杖を持っていたその子分は、卓上に向かって魔術封印の術を唱えた。
「……さて、と。皆さん方、今の今まで、この卓を血眼になって見つめてたことと思うが、ちょっと聞きてえことがある。
今の役は、何だった?」
ギャラリーの一人が、それに応じる。
「二人とも、『エレメンツ』を出してた」
「ほう、そうかい。……じゃあ、こりゃ一体、なんだ?」
トランプ翁が卓上、モールの前に置かれたままのカード6枚を指差す。
「……あれっ?」
「バラバラ……?」
卓の上に置かれたカードは、何の役も成していなかった。続いてトランプ翁は、カントの前に置かれたままのカードも指し示した。
「さて、こっちは? ……おおっと、これもてんでバラバラと来たもんだ。
皆さん方よ、こいつらがカードを見せてから今まで、俺たちもカードは触ってねえし、こいつらも触れちゃいねえ。なのに、『エレメンツ』だったはずのカードは、今こうして改めて見てみると、バラバラ。
おかしなことが起こってやがるな、えぇ、おい?」
そう言ってトランプ翁はナイフを抜き、モールの首に当てた。
「う……っ」
「姐ちゃんよ、てめえのカラクリはもう見破ってんだ。
てめえら二人とも、カードを魔術で誤魔化してたんだ。カードの表面を、魔術で上書きしてな」
そこでもう一度、トランプ翁が指示する。
「解除してみろ」「へい」
子分がもう一度魔杖を振り、封印術を解除する。
「……あっ」
「カードが変わった……!」
カードの表面が変わり、また「エレメンツ」を映し出した。
「と、まあ。こうやって、てめえらは好き放題に、カードの目を操れたわけだ。そりゃ何十連勝もできるし、ここ一番でどデカい役もできあがるわな。
……さーて姐ちゃん、そしてリオンの旦那。申し開きは、あるかい?」
「……」「……」
二人とも蒼い顔になり、黙り込んだ。
「分かってると思うが、賭場でのイカサマはご法度だ。当然、今までの勝負は全部無効ってわけだ。
今すぐ稼いだ金を全部出して、とっとと失せな。さもなきゃ……」
トランプ翁は、ここで言葉を切る。それと同時に、子分たちが一斉に、武器を構えた。
と――。
「それは残念な話だ、……トランプ翁にとっては、だが。折角、27億も稼いだと言うのに」
「……あぁん?」
カントが額に汗を浮かべつつ、口を開いた。
「まあ、イカサマしたのは事実だ。認めよう。でも我々が使用したのは、この局でだけだ。
それなのに卓に着いてからの、すべての勝負を無効に? おぉ、なんと慈悲深いことか!」
「何をふざけてやがる、バカ旦那」
「ふざけてなどいないさ。
事実、今の局以外はほぼ、負けっ放しだった。僕たちの負けが込んでいた。その額、27億だ。これも含めて全部を無効にしてくれると言うなら、僕たちにとってはありがたい話以外の、何物でもない」
「屁理屈こねやがって……! 通るかよ、んな理屈」
呆れるトランプ翁に対し、カントは強気に出る。
「呑めないと? じゃあ、この勝負は有効、即ち僕たちが108億を獲得するのを認めると言うことで、よろしいか?」
「アホか」
「アホどころか、理屈に叶っていると思いますがね。
トランプ翁、あなたは『今までの勝負は全部』無効だと言った。なら、僕たちが払う金はない。最初から無効なら、賭けた事実は存在しないわけですからね。
もし有効だと言うなら、あなたの言葉通り、『今までの勝負は全部』有効と考えてもらわないと理屈に合わない。
魔術のかかったこのカードでディーラー君は勝負し、我々から27億を巻き上げたわけですからね」
その一言に、トランプ翁のつるつるの額にビキ、と青筋が走る。
「俺の子分を貶めるのか、このクソ野郎が……ッ!」
「じゃあ、証明できますか? あなたの可愛い子分、この優秀なディーラー君が、我々の魔術を逆用していないことを。
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