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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・仮痴記 7

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    フォコの話、302話目。
    巨額の大勝負へ。

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    7.
     詭弁を唱えるカントに対し、トランプ翁はわなわなと震えながら反論する。
    「魔術なんか使えるかってんだ! 俺と子分たち80人の中でも、使えるのは2、3人だけだ! こいつには使えやしねえッ!」
    「証明できますか? このディーラー君が、魔術が本当に使えないことを。
     もしかしたら彼は、密かに持つ魔術的才能を以て、カードを自由に操れるかも知れないじゃないですか」
     カントの誘導により、話が水掛け論じみてきたため、トランプ翁は目に見えて苛立ち始めた。
    「もういいッ! 証明だの証拠だの、んな面倒臭え話は飽き飽きだッ! とっとと金置いて……」
    「自分たちが証明も何もできないから、我々に金だけ置いて帰れって言うんですか? それじゃあ今までの勝負、博打は、一体なんだったんだって話になる。
     こんな話が罷り通るんなら、そんなのはただの追いはぎ、ぼったくりだッ!」
    「何だと……ッ!?」
     いきり立つトランプ翁に対し、カントは屈しも折れもしない。
    「ここはカジノ、賭場だ! 賭場で博打を無視すると言うなら、一体ここは何をする場なんですか!?
     トランプ翁、あなたもこの筋に絡む人間なら、そのルールを無視してこの後、一体どうなるか、どんな評価をされるか、それが分からないわけではないでしょうね……!?」
    「ぬ、う……っ」
     カントの言う通り、ギャンブルを売り物、「商品」にする店がそれをないがしろにし、金だけを奪う店であると言ううわさが広まれば、ここでカントたちから金を巻き上げても、その後の商売が成り立たなくなる。
     とは言え、カントの要求した証明など、できるはずもない。無いものを「無い」と証明することは、白い鴉が存在することを黒い鴉を使って反証するが如く、至難の業だからだ。
    「……」
     黙り込み、にらみつけてくるトランプ翁に、ここでカントが提案を出した。
    「まあ、……もう一度繰り返しますが、僕も博徒の端くれですし、翁もこの賭場の元締めだ。そんな二人が話し合いだの暴力だので話をまとめちゃ、格好なんかつくはずも無い。そうは思いませんか?」
    「……あ?」
    「ここは一つ、別のやり方で話をまとめようじゃないですか。僕たちに、ふさわしい方法で」
    「……なるほどな」
     トランプ翁はニヤ、と笑い、こう切り返した。
    「つまりこの俺に、博打を打てってことか。じゃあ、何を賭ける?」
    「金で揉めてたんですから、それはやはり、金でしょう。
     こうしましょう。今、僕たちはイカサマながらも108億を手に入れる、その権利を獲得した。だから、僕たちはこの108億、全額を賭けさせていただきます。
     その代わりにトランプ翁、あなたにも同額を賭けていただきたい」
     この提案に、静まり返っていた場はまた、騒然とし始めた。
    「108億の勝負だと!?」
    「正気じゃねえ、あの『兎』」
    「度し難いな……!」
     トランプ翁も、その提案には流石に、逡巡する様子を見せた。
    「……おい、カルロス。さっきまでの収支、どうなってた?」
     トランプ翁に問われ、ディーラーはチップを数える。
    「え、えーと……。27億プラスで、108億のマイナスだから……」
    「こっちは今、81億のマイナスか。するってーと、……今、ウチの総資金は、……残り110か、120億くらいか」
    「おや。それは困るな」
     カントの一言に、トランプ翁の額にピク、と一瞬、青筋が浮かんだ。
    「困る? 何が困るってんだ?」
    「我々はこのカジノを完膚なきまでに荒らすのが目的。108億賭けてまだ残るようでは、その目的が達成できない」
    「……とことんバカか、てめえ。この俺を、『ゴールドパレス』を、潰すってのか」
    「そうです」
     カントの返答に、トランプ翁だけではなく、子分全員が激怒した。
    「ふざけんじゃねえぞ、この兎野郎!」
    「俺たちを潰すだ!? てめーの頭から先に潰してやるぞ、コラ!」
    「生きて帰れると思うな、お前ら……ッ!」
     だが、カントは依然、少しも折れる姿勢を見せない。
    「だから、こうしましょう。僕たちは108億に10億、……いいや、倍の20億、ついでに2億くらい上乗せします。
     つまり総額、130億。これで勝負しましょう」
    「なんだと……!?」
    「だからトランプ翁、あなたも130億を賭けて勝負していただきたい」
    「骨も残さねーってか。俺も、お前さんも」
    「その通りです。そうでなくては、博打ではない。半端に生き残って、どうします?」
     この一言に、トランプ翁は笑うとも、怯えるとも取れる、複雑な表情を見せた。
    「……ヒ、ヒッヒッヒッ、言ってくれるぜ、遊び人が。
     いいだろう! 勝負してやるよ……!」
    「ありがとうございます」
     カントは慇懃な素振りで、礼をして見せた。
     だが――。
    「ただし」
     トランプ翁は突然、カントとモールの背後に回り――そのまま、乱暴に卓から引きはがした。
    「てめえら二人は、打ってくれるなよ……!?」
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