「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・仮痴記 8
フォコの話、303話目。
真打ちは密かに誘われる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
卓から無理矢理に引きずり下ろされたカントとモールを、子分たちは素早く羽交い絞めにした。
「な、何をする!?」
「何をする、じゃねえよ。いくら魔術封じがあるっつっても、お前らは相当の玄人だ。お前らに打たせちゃ、どんなイカサマを仕掛けてくるか、分かったもんじゃねえからな。
おい、そこの用心棒さんたちよ」
トランプ翁は、これまでずっと押し黙ってきたフォコとランニャに近づいてきた。
「な、何でしょ」
「お前らが、この二人の代わりに打て」
「えーっ!?」
トランプ翁の言葉に、ランニャは目を丸くしてみせた。
「何驚いてんだ? まさか今さら、この二人とは無関係、無縁ですなんて言うつもりじゃねえよな?」
「い、いや、まあ、それは確かに関係者ですけども」
「それとも何か、お前さんたちゃ、金だけもらってサヨナラしようとか思ってたのか?
俺たちにそんな理屈は通用しねえぜ……? こいつらと一緒に仕事してたんなら、責任まで一蓮托生で取ってもらうからな」
「う……」
トランプ翁に凄まれ、フォコは黙り込む。
「そう言うわけで、だ。卓に着いてもらおうか、お二人さん」
「……分かりました」
フォコはうなだれ、卓に座る。
「ほら、ランニャ。君も座りいな」
「う、うん……」
ランニャもしょんぼりした様子で、フォコの隣に座った。
「2対2で勝負させてもらうぜ。……っと、こんなもん使えるかっつの」
トランプ翁は卓上のチップとカードを、乱暴に卓の外へと払いのけた。
「卓も信用できねえな。バルトロ、ディエゴ、倉庫から卓を持ってきな。カルロス、お前さんは新品の『28枚式』カードを用意してくんな」
「ういっす」
「了解です」
卓が用意されるまでの間、トランプ翁はフォコたちに質問する。
「おい兄ちゃん、博打はやったことあるか?」
「え、ええ、まあ。ちょこっとは」
「そうか。『7オブ7』はできるか?」
「えーと、まあ、ルールは大丈夫です」
「そっちの姉ちゃんは?」
「うん、できるよ」
「じゃあそれで行くぞ。最初の持ち点は一人10000点からだ。4人のうち誰かが箱割れするまで続ける。で、その時点数が一番多い奴のいる組が勝ち、でいいか?」
「え? えーと……」
ランニャがルールを反芻する前に、フォコが質問を返す。
「つまり、例え相方が箱割れしとっても、もう一方が一位やったら、そいつの勝ちっちゅうことですか?」
「そうだ。意味は、分かるよな?」
この「7オブ7」には、「親」が連荘の権利を自ら放棄することは認められていない。「子」3人のいずれかが止めるまで、連荘が続くことになる。
そしてトランプ翁が提示したルールでは、「親」が連荘を続けた後、同組の「子」がそれを止め、「親」を箱割れに追い込んでも、同組であるその「子」の持ち点が一位になっていれば、そのまま勝利となるのだ。
つまりこのルール上、勝利するには「相手をいかに制するか」よりも、「自分の組をいかに肥えさせるか」が重要となるのだ。
「……ええ、分かります」
「だいたいわかった」
ランニャもぎこちなくうなずき、同意する。
と、そうこうしているうちに、子分たちが卓とカードを用意し終えた。
「準備は整った。それじゃ、打とうか」
トランプ翁は羽織っていたコートを脱ぎ捨て、卓に着いた。
羽交い絞めにされながら、この一連の流れを見ていたモールは、内心ほくそ笑んでいた。
(アハ、ハハハハ……! いやぁ、よーやく実ったね、面倒臭い試みが!
そもそも私が言ってた通り、いきなり『勝負しろ、トランプ翁!』なーんて火紅が言っても、あのじーさんが取り合うワケ無いし、警戒されてカジノから締め出されるのがオチだ。
そしてもう一つの問題として、あのじーさんに自ら、自分の進退を窮めるに足る額の勝負をさせる理由を作らなきゃならなかった。ふつーに200億勝負なんてバカな額の賭けを持ちかけても、十中八九断るのは明白。こっちが持ってるって証明もできないワケだしね。
だからチマチマと、私とカント君だけでカジノを荒らして回って見せたのさ。全部まるっと襲えば、10億単位の金を持ってるってコトが証明できるしね。
その上で、このカジノの中で100億持ってる、持つ権利があるってコトを見せ付け、そして同時に、130億勝負に乗るよう誘導させるコトができた。
しかもその間、火紅はまるで日陰者、あのじーさんの注意から完璧に外れてたね。2つの問題は、こうしてクリアされた。
せいぜい気を付けな、じーさん――アンタの目の前に座ってるのは、ただの用心棒じゃない。こっちの主力、ド本命って奴さ。
火紅、いや、フォコの運と博才は、カント君や私の比じゃないんだからね)
火紅狐・仮痴記 終
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真打ちは密かに誘われる。
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卓から無理矢理に引きずり下ろされたカントとモールを、子分たちは素早く羽交い絞めにした。
「な、何をする!?」
「何をする、じゃねえよ。いくら魔術封じがあるっつっても、お前らは相当の玄人だ。お前らに打たせちゃ、どんなイカサマを仕掛けてくるか、分かったもんじゃねえからな。
おい、そこの用心棒さんたちよ」
トランプ翁は、これまでずっと押し黙ってきたフォコとランニャに近づいてきた。
「な、何でしょ」
「お前らが、この二人の代わりに打て」
「えーっ!?」
トランプ翁の言葉に、ランニャは目を丸くしてみせた。
「何驚いてんだ? まさか今さら、この二人とは無関係、無縁ですなんて言うつもりじゃねえよな?」
「い、いや、まあ、それは確かに関係者ですけども」
「それとも何か、お前さんたちゃ、金だけもらってサヨナラしようとか思ってたのか?
俺たちにそんな理屈は通用しねえぜ……? こいつらと一緒に仕事してたんなら、責任まで一蓮托生で取ってもらうからな」
「う……」
トランプ翁に凄まれ、フォコは黙り込む。
「そう言うわけで、だ。卓に着いてもらおうか、お二人さん」
「……分かりました」
フォコはうなだれ、卓に座る。
「ほら、ランニャ。君も座りいな」
「う、うん……」
ランニャもしょんぼりした様子で、フォコの隣に座った。
「2対2で勝負させてもらうぜ。……っと、こんなもん使えるかっつの」
トランプ翁は卓上のチップとカードを、乱暴に卓の外へと払いのけた。
「卓も信用できねえな。バルトロ、ディエゴ、倉庫から卓を持ってきな。カルロス、お前さんは新品の『28枚式』カードを用意してくんな」
「ういっす」
「了解です」
卓が用意されるまでの間、トランプ翁はフォコたちに質問する。
「おい兄ちゃん、博打はやったことあるか?」
「え、ええ、まあ。ちょこっとは」
「そうか。『7オブ7』はできるか?」
「えーと、まあ、ルールは大丈夫です」
「そっちの姉ちゃんは?」
「うん、できるよ」
「じゃあそれで行くぞ。最初の持ち点は一人10000点からだ。4人のうち誰かが箱割れするまで続ける。で、その時点数が一番多い奴のいる組が勝ち、でいいか?」
「え? えーと……」
ランニャがルールを反芻する前に、フォコが質問を返す。
「つまり、例え相方が箱割れしとっても、もう一方が一位やったら、そいつの勝ちっちゅうことですか?」
「そうだ。意味は、分かるよな?」
この「7オブ7」には、「親」が連荘の権利を自ら放棄することは認められていない。「子」3人のいずれかが止めるまで、連荘が続くことになる。
そしてトランプ翁が提示したルールでは、「親」が連荘を続けた後、同組の「子」がそれを止め、「親」を箱割れに追い込んでも、同組であるその「子」の持ち点が一位になっていれば、そのまま勝利となるのだ。
つまりこのルール上、勝利するには「相手をいかに制するか」よりも、「自分の組をいかに肥えさせるか」が重要となるのだ。
「……ええ、分かります」
「だいたいわかった」
ランニャもぎこちなくうなずき、同意する。
と、そうこうしているうちに、子分たちが卓とカードを用意し終えた。
「準備は整った。それじゃ、打とうか」
トランプ翁は羽織っていたコートを脱ぎ捨て、卓に着いた。
羽交い絞めにされながら、この一連の流れを見ていたモールは、内心ほくそ笑んでいた。
(アハ、ハハハハ……! いやぁ、よーやく実ったね、面倒臭い試みが!
そもそも私が言ってた通り、いきなり『勝負しろ、トランプ翁!』なーんて火紅が言っても、あのじーさんが取り合うワケ無いし、警戒されてカジノから締め出されるのがオチだ。
そしてもう一つの問題として、あのじーさんに自ら、自分の進退を窮めるに足る額の勝負をさせる理由を作らなきゃならなかった。ふつーに200億勝負なんてバカな額の賭けを持ちかけても、十中八九断るのは明白。こっちが持ってるって証明もできないワケだしね。
だからチマチマと、私とカント君だけでカジノを荒らして回って見せたのさ。全部まるっと襲えば、10億単位の金を持ってるってコトが証明できるしね。
その上で、このカジノの中で100億持ってる、持つ権利があるってコトを見せ付け、そして同時に、130億勝負に乗るよう誘導させるコトができた。
しかもその間、火紅はまるで日陰者、あのじーさんの注意から完璧に外れてたね。2つの問題は、こうしてクリアされた。
せいぜい気を付けな、じーさん――アンタの目の前に座ってるのは、ただの用心棒じゃない。こっちの主力、ド本命って奴さ。
火紅、いや、フォコの運と博才は、カント君や私の比じゃないんだからね)
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