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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・不癲記 2

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    フォコの話、305話目。
    賭場のヤクザたち。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     勝負を見守っていた茶髪で短耳の若者は、隣の、銀髪の狼獣人の様子がおかしいことを尋ねた。
    「どうした? 顔色が悪いみてーだけど」
    「……ん、あ、……いや」
     そこで短耳は、卓に着いているランニャと、博打仲間であるその「狼」とが同じ銀髪であることに気付いた。
    「あれ? そう言やあの娘、顔もお前に、どっか似て……」「それ以上言うな」
     言葉を遮られ、短耳は改めて、狼獣人に尋ねる。
    「知り合い、って程度じゃなさそうだな。もしかして親戚か?」
    「……かも知れない」
    「そっか。
     にしても、災難だなぁ、あの娘も、隣の小汚い『狐』も。ただの用心棒なのに、まさかヤクザの親分と130億なんてふざけた勝負をする羽目になるなんて。
     こりゃ、腕の一本か二本、それどころか尻尾まで取られるんじゃ……」「……ねーよ」
     真っ向から否定され、短耳は面食らう。
    「なんで言い切れる?」
    「あいつは……、俺の記憶が確かなら」
     狼獣人は、苛立たしげな、しかし、どこか期待に満ちた目で、フォコの方を見ていた。
    「とんでもない奴だった、……はず、だ」



     一回り「親」が替わり、またトランプ翁が「親」になったところでの各自持ち点は、次の通り。

     フォコ:11800 ランニャ:8600 トランプ翁:10600 バルトロ:9000

     フォコ、トランプ翁ともに、この場は「見」――大きな勝負には出ず、敵の動きや自分のツキ具合を確かめる、肩慣らしじみた打ち方を行っていた。
     また、トランプ翁の相方を務めるバルトロは、ここまでほとんど動かず、一回アガったのみである。
     そしてランニャはと言えば――。
    「むー」
     一度もアガれず、頬をふくらませていた。
    (ランニャ、どっかでちょこっとくらいはアガっとかんかったら、箱割れしてまうで)
    (分かってるよっ、そんなこと)



     場が動いたのは、この2周目からだった。
    「アガリだ。……アガリのみ、だがな」
     「親」のトランプ翁が、早々と和了した。そして、トランプ翁が初めに配ったカードが、そのままトランプ翁のところへ集め直される。
    「次は、一本場だな」
     ふたたびカードが配られ、トランプ翁が一枚、ランニャへと渡す。
    「はい」
     ランニャは手持ちのカードから一枚抜き、フォコへと送る。
    (……『天・天・火・火・水・土』に、今来たのんが『水』か。よし、三面待ちや)
     フォコは「土」のカードを抜き取り、隣のバルトロへと渡した。
     と――この時、フォコはバルトロの動きに、違和感を覚えた。
    (……ん?)
     素早く記憶を巻き戻してみるが、今度は特に引っかかるようなものはない。
    (気のせい……、かな)
     フォコがそう思った、次の瞬間だった。
    「アガリ、二連荘だ」
     トランプ翁が、カードを開示して手を見せた。
    「『極刻子』で2倍付けだから、合計で4.5払いだな」
    「あちゃー」
     ランニャはがっかりした顔で、チップをトランプ翁へ送る。一方、フォコもチップを渡しながら、先程の違和感を考えていた。
    (何やろう……?)

     その違和感の正体には、少ししてから気付いた。
     いや、気付かせられるを得なかったのだ。
    「またアガリだ、悪いな」
    「うっ……!」「げぇっ」
     2周目、トランプ翁が「親」になってから以降、連荘が止まらなかったのだ。
    「3倍付けで四本場だから……、18払いだな」
     フォコはチップを払いながら、違和感の正体を探る。
    (そうや……! ここ数局、隣におるバルトロっちゅう若頭、自分のカードを配られてからすぐ見てへん、いや、厳密に言うと、確認してへんねや。ほぼ決まって、僕がカードを渡して、それからトランプ翁を見てから、ようやく確認しとる。
     それはなんでか? 言うまでもない、親分のトランプ翁にカードを差し込んどるんや。自分の勝ち点なんか、どうでもええっちゅうことや。
     そしてその戦法、この『誰かが箱割れした時点でトップの奴が勝ち』っちゅうルールでは、強い攻撃力を持つ。自分が飛んでも、親分勝たせたらええんやもんな。
     それどころか、今はランニャが思いっきしへこんどる。このまま攻め倒したら、そのまま勝ってしまえるからな)
     そこでフォコは、ランニャを見る。
    「ど、どど、どうしよ、フォコくぅん……」
     ランニャは今にも泣きそうな顔になっていた。
    「……ふう」
     が、フォコは特に狼狽も、悲観もしていない。
    「ランニャ、ちょと」
     そう言ってフォコは、ランニャの狼耳に顔を寄せた。

     フォコ:7950 ランニャ:4750 トランプ翁:22150 バルトロ:5150
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