「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・不癲記 3
フォコの話、306話目。
イカサマを押さえて、さらにイカサマを。
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3.
フォコがランニャに近寄ったのを見て、トランプ翁は神経質に尋ねた。
「おい兄ちゃん、どうした? 作戦会議か? それともカノジョさんとこっそり逃げようってのか?」
「彼女とちゃいます。仕事のパートナーですわ。……まあ、作戦会議ですな」
そう返したフォコに、トランプ翁は手を掲げて制する。
「イカサマやろうって相談なら、承知しねえぜ」
「分かってますて」
そう返してから、フォコは改めてランニャに耳打ちした。
(ランニャ、向こうはあんなこと言うてるけどな、相方と組んで『通し』しとるわ)
(と、『通し』? って、何のカードが欲しいか内緒で伝える、アレのコト?)
(そうや。……でな)
その後二言、三言かわし、フォコは自分の席へと戻る。
「口説き終わったかい、兄ちゃん」
「せやからちゃいますて。……さ、勝負の腰を折ってしまいましたな。続き、行きましょ」
「おう。……次は五本場、7.5倍だからな。そろそろ覚悟しとけよ」
そう言って、トランプ翁はカードを配り始めた。
そこでフォコが、ランニャだけに見えるよう、卓の下でサインを出した。
「……!」
それを見たランニャも、トランプ翁たちに気付かれないように、ふわ、と尻尾をわずかに揺らす。
「ほれ、お姉ちゃん」
トランプ翁から差し出されたカードを受け取り、ランニャはすぐさまフォコへと渡す。
「ありがと。……はい」
フォコもさっと、バルトロへと手渡した。
「どうぞ」
バルトロは今までと同じように、自分の手持ちとトランプ翁の仕草を確認してから、トランプ翁へとカードを手渡す。
「……ほれ」
と、回ってきたカードを受け取ったランニャは、また素早くフォコへと送る。
「はいっ!」
「と、と。そんな焦らんでも、ランニャ」
「5000割ってたら焦るってば」
フォコは面食らったような顔をしつつ、カードをバルトロへと送る。
「……」
が、ここでバルトロの手が止まった。
「どうした? ……まあ、何でもいいから早く寄越せ」
「……は、はい」
若頭の困った顔で、トランプ翁も察したらしい。受け取ったカードはそのまま、ランニャへと流れてしまった。
と――そこでランニャが嬉々とした声を上げた。
「アガリ、アガリだよっ! 和了と『天刻子』と、それから『槓子』で5倍! 全部で37.5払いだねっ!」
「ぬな……!?」
この宣言に、トランプ翁は目を剥いた。
「ぐっ……!」
ランニャが開示したカードは確かに「天・天・天・氷・氷・氷・氷」となっており、ランニャの宣言した通りである。
「……っ、この」
額に青筋を浮かべたトランプ翁は――傍から見た場の状況ならば、和了したランニャに怒鳴りそうなものだったが――バルトロに向かって、怒りに満ちた目を向けた。
「す、すみませ……」「謝る必要なんかないですわ」「……え?」
フォコは謝りかけたバルトロを遮り、悪辣な顔で笑いかけた。
「あなたの当たりカード、止めてたんは僕ですしな」
そう言って、フォコはぱら……、と持っていたカードを卓に撒く。
「なん……っ!?」
カードを握りしめていたトランプ翁の手が緩み、ばさっと卓へと落ちる。
フォコの見せたカードは「火・火・土・土・風・風」、そしてトランプ翁の手持ちもまた、「火・火・土・土・風・風」だった。
「何故だ……!? 何故、俺のカードが分かった!?」
「貧乏揺すりに見せてたみたいですけども、いつも決まって脚、5回から11回までしか揺すらせてませんでしたな。5が『天』で、11が『風』でしょ?」
「……っ!」
フォコの返しに、トランプ翁とバルトロは青ざめた。
「まあ、こうして三面待ち、全部止めに入ったわけですわ。流石に三面やと、手を変えるにはキッチリ固まり過ぎてますもんな。
こうして待ち待ちにしてしまえば、いくら待っても出えへんでしょうな」
「……やられたぜ、見事に。そりゃあ、バルトロの奴も困った顔するってわけだ。送ろうにも回ってこねえんだからな」
トランプ翁はヒッヒッと笑い、後ろにいたディーラー、カルロスに命じる。
「悪い、カードを握り潰しちまった。新しいの、持ってきてくんな」
口調は穏やかだったが、目は全く笑っていない。
「は、はいっ! すぐ持ってきますっ!」
その顔を見て、カルロスは慌てて駆け出した。
新しいカードが用意されるまでのわずかな間、フォコとランニャは短めのアイコンタクトで、密かに仕掛けていた企みが実ったことを喜んだ。
トランプ翁の「通し」を見破っただけでは、ただ単に彼が和了するのを阻止しただけに過ぎない。フォコはこの看破に加え、もう一つ、ランニャが勝てるように仕組んでいたのだ。
ランニャにわざと急いた打ち回しをさせ、老体で動体視力の劣るトランプ翁と、トランプ翁の「通し」に集中し、目を向けていないバルトロに気付かれないよう、受け渡しの瞬間に1枚ではなく、2枚、3枚と交換していたのだ。
だからこそ、ある程度自在にトランプ翁と同じ目を揃えることもでき、また、ランニャが早く、大きな手を和了することもできたのである。
(まあ、ヒヤヒヤしたけども、よーやってくれたわ。ホンマにありがとな、ランニャ)
(ううん、いいよ。フォコ君のためだもん)
フォコ:4200 ランニャ:16000 トランプ翁:18400 バルトロ:1400
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イカサマを押さえて、さらにイカサマを。
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フォコがランニャに近寄ったのを見て、トランプ翁は神経質に尋ねた。
「おい兄ちゃん、どうした? 作戦会議か? それともカノジョさんとこっそり逃げようってのか?」
「彼女とちゃいます。仕事のパートナーですわ。……まあ、作戦会議ですな」
そう返したフォコに、トランプ翁は手を掲げて制する。
「イカサマやろうって相談なら、承知しねえぜ」
「分かってますて」
そう返してから、フォコは改めてランニャに耳打ちした。
(ランニャ、向こうはあんなこと言うてるけどな、相方と組んで『通し』しとるわ)
(と、『通し』? って、何のカードが欲しいか内緒で伝える、アレのコト?)
(そうや。……でな)
その後二言、三言かわし、フォコは自分の席へと戻る。
「口説き終わったかい、兄ちゃん」
「せやからちゃいますて。……さ、勝負の腰を折ってしまいましたな。続き、行きましょ」
「おう。……次は五本場、7.5倍だからな。そろそろ覚悟しとけよ」
そう言って、トランプ翁はカードを配り始めた。
そこでフォコが、ランニャだけに見えるよう、卓の下でサインを出した。
「……!」
それを見たランニャも、トランプ翁たちに気付かれないように、ふわ、と尻尾をわずかに揺らす。
「ほれ、お姉ちゃん」
トランプ翁から差し出されたカードを受け取り、ランニャはすぐさまフォコへと渡す。
「ありがと。……はい」
フォコもさっと、バルトロへと手渡した。
「どうぞ」
バルトロは今までと同じように、自分の手持ちとトランプ翁の仕草を確認してから、トランプ翁へとカードを手渡す。
「……ほれ」
と、回ってきたカードを受け取ったランニャは、また素早くフォコへと送る。
「はいっ!」
「と、と。そんな焦らんでも、ランニャ」
「5000割ってたら焦るってば」
フォコは面食らったような顔をしつつ、カードをバルトロへと送る。
「……」
が、ここでバルトロの手が止まった。
「どうした? ……まあ、何でもいいから早く寄越せ」
「……は、はい」
若頭の困った顔で、トランプ翁も察したらしい。受け取ったカードはそのまま、ランニャへと流れてしまった。
と――そこでランニャが嬉々とした声を上げた。
「アガリ、アガリだよっ! 和了と『天刻子』と、それから『槓子』で5倍! 全部で37.5払いだねっ!」
「ぬな……!?」
この宣言に、トランプ翁は目を剥いた。
「ぐっ……!」
ランニャが開示したカードは確かに「天・天・天・氷・氷・氷・氷」となっており、ランニャの宣言した通りである。
「……っ、この」
額に青筋を浮かべたトランプ翁は――傍から見た場の状況ならば、和了したランニャに怒鳴りそうなものだったが――バルトロに向かって、怒りに満ちた目を向けた。
「す、すみませ……」「謝る必要なんかないですわ」「……え?」
フォコは謝りかけたバルトロを遮り、悪辣な顔で笑いかけた。
「あなたの当たりカード、止めてたんは僕ですしな」
そう言って、フォコはぱら……、と持っていたカードを卓に撒く。
「なん……っ!?」
カードを握りしめていたトランプ翁の手が緩み、ばさっと卓へと落ちる。
フォコの見せたカードは「火・火・土・土・風・風」、そしてトランプ翁の手持ちもまた、「火・火・土・土・風・風」だった。
「何故だ……!? 何故、俺のカードが分かった!?」
「貧乏揺すりに見せてたみたいですけども、いつも決まって脚、5回から11回までしか揺すらせてませんでしたな。5が『天』で、11が『風』でしょ?」
「……っ!」
フォコの返しに、トランプ翁とバルトロは青ざめた。
「まあ、こうして三面待ち、全部止めに入ったわけですわ。流石に三面やと、手を変えるにはキッチリ固まり過ぎてますもんな。
こうして待ち待ちにしてしまえば、いくら待っても出えへんでしょうな」
「……やられたぜ、見事に。そりゃあ、バルトロの奴も困った顔するってわけだ。送ろうにも回ってこねえんだからな」
トランプ翁はヒッヒッと笑い、後ろにいたディーラー、カルロスに命じる。
「悪い、カードを握り潰しちまった。新しいの、持ってきてくんな」
口調は穏やかだったが、目は全く笑っていない。
「は、はいっ! すぐ持ってきますっ!」
その顔を見て、カルロスは慌てて駆け出した。
新しいカードが用意されるまでのわずかな間、フォコとランニャは短めのアイコンタクトで、密かに仕掛けていた企みが実ったことを喜んだ。
トランプ翁の「通し」を見破っただけでは、ただ単に彼が和了するのを阻止しただけに過ぎない。フォコはこの看破に加え、もう一つ、ランニャが勝てるように仕組んでいたのだ。
ランニャにわざと急いた打ち回しをさせ、老体で動体視力の劣るトランプ翁と、トランプ翁の「通し」に集中し、目を向けていないバルトロに気付かれないよう、受け渡しの瞬間に1枚ではなく、2枚、3枚と交換していたのだ。
だからこそ、ある程度自在にトランプ翁と同じ目を揃えることもでき、また、ランニャが早く、大きな手を和了することもできたのである。
(まあ、ヒヤヒヤしたけども、よーやってくれたわ。ホンマにありがとな、ランニャ)
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