「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・不癲記 4
フォコの話、307話目。
狼狽する狼娘。
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4.
フォコの看破と企みにより、形勢はほぼ互角、かつ、一触即発の状況へと変わった。
ランニャが16000点、トランプ翁が18400点と、ランニャが700点以上奪取すれば、逆転できる。
しかしこのままランニャが和了せず場が流れれば、その差を縮めることは、恐らくは二度とできない。残り1400点と瀕死の状態にあるバルトロが、わざとトランプ翁に差し込んで自爆する可能性が、非常に高いからだ。
ランニャが逆転する前にバルトロが箱割れすれば、その時点でトップであるトランプ翁の勝ちとなってしまう。
それを避けるためにも、ランニャは何としてでもここで和了する必要があった。
ランニャに新品のカードが入った箱が渡されたところで、ランニャは先程と同様、素早くカードを渡し、その隙にフォコとカードを交換するイカサマをしようと考えていた。
それを伝えようと、ランニャはフォコに目を向ける。
(コレで決まりだねっ)
が、フォコは顔をわずかにこわばらせ、それを止めさせようとする。
(アカン! 今それやったら確実にバレてまう!)
(えっ?)
そこでくる、とトランプ翁に目を向けると――。
「……どうした、姉ちゃん。早く配ってくんな」
トランプ翁もバルトロも、鬼も泣き出すかと思うほどの形相で、こちらをにらんでいることに気付いた。
「あ、……うん、ちょっと待ってね。箱のシールが剥がしにくくって」
「セキュリティシール(誰もその箱を開けていない、新品であることを証明するシール)付いとるからな。そら簡単に、つるっと剥がれてしもたら困るやろし。……ほい、ナイフ」
「あ、ありがと……」
会話を交わしながら、フォコたち二人はまた、アイコンタクトで戦略を練る。
(ど、どうする? めっちゃめちゃ、にらんでるよ)
(あんだけ注視されとったら、さっきのイカサマは使えへんわ。かと言って、使える状況まで待ってもいられへん。……どうにかしてランニャ、君が連荘するしかない)
(……分かった。頑張るよ)
無役でも連荘であれば、初回は100点ずつ、一本場は150点ずつとなり、二本場では300点ずつとなる。合計すれば550点となり、トランプ翁との差は200点までに縮まる。これにどこかで一役でも絡めば、その差を完全に埋めることが可能なのだ。
だが、これほど緊張の煮詰まった場で、それだけの運を引き寄せられるか――ランニャには今、非常に高い水準が要求されていた。
(うぅー……、神様ぁ、あたし今までそんなに真面目に祈ったコトないから聞いてくれないかもだけど、頼むからあたしを今、ココで助けてぇ! 助けてくれたらマジでこれから、毎日お祈りするからさぁぁ!)
ランニャは震える手で、カードを配る。
(来て来て来て来てぇぇぇぇ……ッ!)
心の中で、声を大にして祈りを捧げ、ランニャはカードを確認する。
(……あうあうあぁぁ)
手の中にあったのは、「天・天・火・氷・氷・土・風」だった。
(バラバラ……、だけど、そこまでバラバラでもない、中途半端な手。……うわぁぁん神様ぁーっ)
ランニャの様子を見て、フォコの額に汗が浮かぶ。
「……は、早よ進めよう、ランニャ。トランプ翁もバルトロさんも、待ってはるし」
「あー……、うー、……」
「ランニャっ!」
フォコが大声で呼ぶが、彼女の耳には入っていない。
(どうしよ、どうしよ? どうしよどうしよ? コレどっちに進めたらいいの? 『天対子』とか『天刻子』狙い? それとも『七種七枚』?
どっち? どっちに進めたらいい? あたし、どっちに行けばいい?)
「ランニャ、しっかりせえ!」
もう一度、フォコが叫ぶ。
「……おいおい、ここに来てそこまで泡食うかよ」
トランプ翁は呆れた顔で、ランニャの動揺する様を眺めている。
(どっち? 『天』集めで行く? それとも『七』で? どっちが正解なの?)
ランニャはカードを握りしめたまま、硬直する。その口からは、ぶつぶつと思念が漏れていた。
「どっち、どっちにすれば……? うう……、神様、教えて……」
ランニャはブルブルと震えるばかりで、一向にカードを切ろうとしなかった。
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狼狽する狼娘。
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フォコの看破と企みにより、形勢はほぼ互角、かつ、一触即発の状況へと変わった。
ランニャが16000点、トランプ翁が18400点と、ランニャが700点以上奪取すれば、逆転できる。
しかしこのままランニャが和了せず場が流れれば、その差を縮めることは、恐らくは二度とできない。残り1400点と瀕死の状態にあるバルトロが、わざとトランプ翁に差し込んで自爆する可能性が、非常に高いからだ。
ランニャが逆転する前にバルトロが箱割れすれば、その時点でトップであるトランプ翁の勝ちとなってしまう。
それを避けるためにも、ランニャは何としてでもここで和了する必要があった。
ランニャに新品のカードが入った箱が渡されたところで、ランニャは先程と同様、素早くカードを渡し、その隙にフォコとカードを交換するイカサマをしようと考えていた。
それを伝えようと、ランニャはフォコに目を向ける。
(コレで決まりだねっ)
が、フォコは顔をわずかにこわばらせ、それを止めさせようとする。
(アカン! 今それやったら確実にバレてまう!)
(えっ?)
そこでくる、とトランプ翁に目を向けると――。
「……どうした、姉ちゃん。早く配ってくんな」
トランプ翁もバルトロも、鬼も泣き出すかと思うほどの形相で、こちらをにらんでいることに気付いた。
「あ、……うん、ちょっと待ってね。箱のシールが剥がしにくくって」
「セキュリティシール(誰もその箱を開けていない、新品であることを証明するシール)付いとるからな。そら簡単に、つるっと剥がれてしもたら困るやろし。……ほい、ナイフ」
「あ、ありがと……」
会話を交わしながら、フォコたち二人はまた、アイコンタクトで戦略を練る。
(ど、どうする? めっちゃめちゃ、にらんでるよ)
(あんだけ注視されとったら、さっきのイカサマは使えへんわ。かと言って、使える状況まで待ってもいられへん。……どうにかしてランニャ、君が連荘するしかない)
(……分かった。頑張るよ)
無役でも連荘であれば、初回は100点ずつ、一本場は150点ずつとなり、二本場では300点ずつとなる。合計すれば550点となり、トランプ翁との差は200点までに縮まる。これにどこかで一役でも絡めば、その差を完全に埋めることが可能なのだ。
だが、これほど緊張の煮詰まった場で、それだけの運を引き寄せられるか――ランニャには今、非常に高い水準が要求されていた。
(うぅー……、神様ぁ、あたし今までそんなに真面目に祈ったコトないから聞いてくれないかもだけど、頼むからあたしを今、ココで助けてぇ! 助けてくれたらマジでこれから、毎日お祈りするからさぁぁ!)
ランニャは震える手で、カードを配る。
(来て来て来て来てぇぇぇぇ……ッ!)
心の中で、声を大にして祈りを捧げ、ランニャはカードを確認する。
(……あうあうあぁぁ)
手の中にあったのは、「天・天・火・氷・氷・土・風」だった。
(バラバラ……、だけど、そこまでバラバラでもない、中途半端な手。……うわぁぁん神様ぁーっ)
ランニャの様子を見て、フォコの額に汗が浮かぶ。
「……は、早よ進めよう、ランニャ。トランプ翁もバルトロさんも、待ってはるし」
「あー……、うー、……」
「ランニャっ!」
フォコが大声で呼ぶが、彼女の耳には入っていない。
(どうしよ、どうしよ? どうしよどうしよ? コレどっちに進めたらいいの? 『天対子』とか『天刻子』狙い? それとも『七種七枚』?
どっち? どっちに進めたらいい? あたし、どっちに行けばいい?)
「ランニャ、しっかりせえ!」
もう一度、フォコが叫ぶ。
「……おいおい、ここに来てそこまで泡食うかよ」
トランプ翁は呆れた顔で、ランニャの動揺する様を眺めている。
(どっち? 『天』集めで行く? それとも『七』で? どっちが正解なの?)
ランニャはカードを握りしめたまま、硬直する。その口からは、ぶつぶつと思念が漏れていた。
「どっち、どっちにすれば……? うう……、神様、教えて……」
ランニャはブルブルと震えるばかりで、一向にカードを切ろうとしなかった。
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