「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・不癲記 5
フォコの話、308話目。
神様なんて来てくれないから。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
と、その時だった。
「ランニャ! こっち向き!」
フォコが立ち上がり、ランニャの肩をつかむ。
「え、……ええ、え!? な、何、なに、フォコくん!?」
「こっち向く! ええか、こっちや!」
「あ、え、あ、……うん」
そこでようやく、ランニャの視点がぼんやりとだが定まる。
「今どんな手が、なんて聞かへん。聞かへんけども、これだけは言うとくで」
「う、うん」
「今、君がその手に握っとるんは、カードやない」
「へっ?」
「今握っとるんは、僕たちの運命や。切るのを間違えたら地獄、正しかったら天国。二者択一の極致みたいなもんや。
そんな大切なものを君、ここに居らへん神様かなんかに『どっちがいい?』なんて聞くんか」
「だ、だって」
「ええか!? 神様が山の向こうや墓ん中からわざわざこんなゴテゴテしたカジノへ乗り込んできて、君一人にわざわざ道を示しに来てくれるほど、暇やと思うんか!?
毎日毎日、世界中の人から『なんとかしてー』『なんとかしてー』て祈られとるのに、なんで君一人なんかの声を、丁寧に聴くと思うんや!? 他にいくらでも、やることあるやろ!?
そんな遠くの遠くの神様なんか、こんなところでアテにすんなや!」
「……」
フォコの剣幕に、ランニャは黙り込む。
「……せやからな、ランニャ」
フォコは一転、静かな口調になる。
「自分が困って、どっちがええかな? と悩んだ時は、その困っとる自分の心、自分自身に相談するんや。
仮に神様が来たところで、所詮は何百万、何千万人のうちの一人のこと、言うてしまえば他人事なんやし、第一、神様は特に困ってへんのやから、ろくすっぽ考えもせず『あっち』『いやこっち』くらいにしか、言うてくれへんで。
困りきっとる自分に聞くからこそ、自分は悩んで悩んで、ええ答えを出してくれるはずや」
「……分かった」
そこで、フォコはランニャから手を放す。
「御託は終わったかい、兄ちゃんよ」
「ええ、終わりました。……さ、ランニャ。早よ切って」
「……うん」
ランニャはカードを、静かにフォコへと渡した。
フォコの叱咤で我に返り、ランニャは冷静さを取り戻していた。
(……自分に……、聞く)
カードの流れが一巡し、ランニャはじっくりと、自分の手を確認する。
「……はい」
ランニャの仕草を見て、フォコは内心、ほっとする。
(ええで、ランニャ。その調子や。
僕に見破られとるから、相手はさっきの『通し』は使えへん。それに向こうがにらんできとる代わりに、僕も他の『通し』を使われへんよう、にらみ返しとる。
僕と向こうとで、3人が牽制し合っとる今、自由なんは君だけや。今やったら、デカいアガリもでけるかも知れへんで)
もう一巡、ニ巡し、ランニャはそこで、深いため息をついた。
「……はーっ……」
ランニャはぱさ、と卓にカードを置く。
「『天・天・天・氷・氷・土・土』、『天刻子』と『極対子』と和了で、4払いだよ」
「チッ……」
トランプ翁とバルトロは、苦々しい顔でチップを4枚ずつ払った。
フォコ:3800 ランニャ:17200 トランプ翁:18000 バルトロ:1000
ランニャとトランプ翁との差が800に縮まり、いよいよ場の緊張は最高潮に達した。
「もう一回や、ランニャ。一役付けてアガれば、勝ちはほぼ確定や」
「頑張るよ、あたし」
ここで和了と一倍付け以上の役が絡んだ場合、一本場も加わるため、各自300点支払いとなる。そうなればランニャが逆転し、フォコたちにとって非常に有利な展開となる。
だがもし、フォコかトランプ翁のどちらかが7倍付け以上で和了すれば、最下位のバルトロが飛び、ランニャは差を縮められないまま敗北することになる。ましてやバルトロが同じ条件で和了すれば3150点が彼に入り、決着しかけた勝負が振出しに戻ってしまう。
(今度のカードは……、よっし、『氷・氷・水・雷・風・土・土』! 『極対子』が付くから、コレで逆転できる!
よーし……、コレだっ)
ランニャは「雷」を抜き取り、フォコに渡した。
と――。
「……」
フォコは一瞬だが、困った顔をした。
「……はい」
だが再び無表情を作り、受け取ったカードをそのままバルトロに送る。
(どしたんだろ、フォコくん……?)
ランニャの疑問は、すぐに解決した。
(……あれっ)
自分がフォコへ送ったカードが、自分の元へと戻ってきてしまったからだ。
(ってことは、つまり――みんなもう、揃ってる?)
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神様なんて来てくれないから。
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と、その時だった。
「ランニャ! こっち向き!」
フォコが立ち上がり、ランニャの肩をつかむ。
「え、……ええ、え!? な、何、なに、フォコくん!?」
「こっち向く! ええか、こっちや!」
「あ、え、あ、……うん」
そこでようやく、ランニャの視点がぼんやりとだが定まる。
「今どんな手が、なんて聞かへん。聞かへんけども、これだけは言うとくで」
「う、うん」
「今、君がその手に握っとるんは、カードやない」
「へっ?」
「今握っとるんは、僕たちの運命や。切るのを間違えたら地獄、正しかったら天国。二者択一の極致みたいなもんや。
そんな大切なものを君、ここに居らへん神様かなんかに『どっちがいい?』なんて聞くんか」
「だ、だって」
「ええか!? 神様が山の向こうや墓ん中からわざわざこんなゴテゴテしたカジノへ乗り込んできて、君一人にわざわざ道を示しに来てくれるほど、暇やと思うんか!?
毎日毎日、世界中の人から『なんとかしてー』『なんとかしてー』て祈られとるのに、なんで君一人なんかの声を、丁寧に聴くと思うんや!? 他にいくらでも、やることあるやろ!?
そんな遠くの遠くの神様なんか、こんなところでアテにすんなや!」
「……」
フォコの剣幕に、ランニャは黙り込む。
「……せやからな、ランニャ」
フォコは一転、静かな口調になる。
「自分が困って、どっちがええかな? と悩んだ時は、その困っとる自分の心、自分自身に相談するんや。
仮に神様が来たところで、所詮は何百万、何千万人のうちの一人のこと、言うてしまえば他人事なんやし、第一、神様は特に困ってへんのやから、ろくすっぽ考えもせず『あっち』『いやこっち』くらいにしか、言うてくれへんで。
困りきっとる自分に聞くからこそ、自分は悩んで悩んで、ええ答えを出してくれるはずや」
「……分かった」
そこで、フォコはランニャから手を放す。
「御託は終わったかい、兄ちゃんよ」
「ええ、終わりました。……さ、ランニャ。早よ切って」
「……うん」
ランニャはカードを、静かにフォコへと渡した。
フォコの叱咤で我に返り、ランニャは冷静さを取り戻していた。
(……自分に……、聞く)
カードの流れが一巡し、ランニャはじっくりと、自分の手を確認する。
「……はい」
ランニャの仕草を見て、フォコは内心、ほっとする。
(ええで、ランニャ。その調子や。
僕に見破られとるから、相手はさっきの『通し』は使えへん。それに向こうがにらんできとる代わりに、僕も他の『通し』を使われへんよう、にらみ返しとる。
僕と向こうとで、3人が牽制し合っとる今、自由なんは君だけや。今やったら、デカいアガリもでけるかも知れへんで)
もう一巡、ニ巡し、ランニャはそこで、深いため息をついた。
「……はーっ……」
ランニャはぱさ、と卓にカードを置く。
「『天・天・天・氷・氷・土・土』、『天刻子』と『極対子』と和了で、4払いだよ」
「チッ……」
トランプ翁とバルトロは、苦々しい顔でチップを4枚ずつ払った。
フォコ:3800 ランニャ:17200 トランプ翁:18000 バルトロ:1000
ランニャとトランプ翁との差が800に縮まり、いよいよ場の緊張は最高潮に達した。
「もう一回や、ランニャ。一役付けてアガれば、勝ちはほぼ確定や」
「頑張るよ、あたし」
ここで和了と一倍付け以上の役が絡んだ場合、一本場も加わるため、各自300点支払いとなる。そうなればランニャが逆転し、フォコたちにとって非常に有利な展開となる。
だがもし、フォコかトランプ翁のどちらかが7倍付け以上で和了すれば、最下位のバルトロが飛び、ランニャは差を縮められないまま敗北することになる。ましてやバルトロが同じ条件で和了すれば3150点が彼に入り、決着しかけた勝負が振出しに戻ってしまう。
(今度のカードは……、よっし、『氷・氷・水・雷・風・土・土』! 『極対子』が付くから、コレで逆転できる!
よーし……、コレだっ)
ランニャは「雷」を抜き取り、フォコに渡した。
と――。
「……」
フォコは一瞬だが、困った顔をした。
「……はい」
だが再び無表情を作り、受け取ったカードをそのままバルトロに送る。
(どしたんだろ、フォコくん……?)
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