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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・不癲記 6

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    フォコの話、309話目。
    三家W立直。

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    6.
     フォコはカードを配られた後、トランプ翁とバルトロの様子を観察していた。そして一瞬ではあるが二人の頬が緩むのを確認し、両者とも既にカードを揃えていることに気付いた。
     そして自分のカードも――。
    (『水・水・水・雷・雷・雷』か。僕のんも、いきなり揃ってしもたか。……ランニャはまだ揃ってる気配が無い、か)
     と、そこへ来たのがランニャの「雷」である。
    (うわぁ……。どないしようかな)
     揃った今、和了は簡単にできる。しかしこの時点で和了し、自分が2250点を得ても、ランニャとトランプ翁との持ち点はそれぞれ16450点と17250点とに下がるだけであり、800点の差は縮まらない。
     それどころかバルトロの点数がいたずらに削られる上に、ランニャの連荘が消えてしまう。連荘の1.5倍付け無しに役のみで和了し、トランプ翁を下そうにも、子の最大役「地和」「七種七枚」を以てしても700点となり、わずかに足りないのだ。
    (今、僕の手元に『雷』は3枚あるから、これを切っても当たられることは、まず無い。……無いからこそ、アホな結果にしかならんわけやけどな)
     この時点で、「雷」が当たりカードになることは、「七種七枚」以外に無い。だがそれも、フォコが「水」を3枚持っているため、可能性は非常に低い(残り1枚をランニャが持っているのは前述の通りだが、フォコは知らない)。
     そうにらんでフォコは「雷」を切ったが、既に「雷」を必要としない形で揃えているバルトロも、トランプ翁も、フォコが予想した通り、そのカードを受け取ってすぐに渡してしまった。
    (……どないしようか)

     自分の手元に戻ってきてしまった「雷」を見て、ランニャはまた動揺し始めた。
    (揃ってないの、あたしだけみたいだ。……で、多分、フォコくんは自分がアガってもどうしようもないと思って、当たりカードをそのまま流して、あたしに返した。
     この『雷』は確実に、フォコくんの当たりカード。それは確かだ。だけど、今フォコくんがアガっても、後でめちゃくちゃ困るコトになる。
     だからって、他の『水』とか『風』を切る? ……いいや、ダメだ! もしトランプ翁にアガられたら、それこそまずいコトになる!
     でも、……じゃあ、……どうすりゃいいのさ?)
     このまま「雷」を回し続け、場を止めることは可能ではある。だが、それは解決にはならない。
     しかしランニャには、いい打開策が思いつかない。
    「……ごめん、はい」
    「……うん」
     ランニャから回されてきた「雷」を取り、フォコも思案に暮れる。
    (どないする……!? どないしてこの膠着状態を破り、かつ、ランニャがアガれるようにしたらええんや?)
     フォコは手持ちのカードを、とりあえず混ぜてみる。
    (……こんなことしとっても、解決はせえへん。カードが混ざっていくだけ、……あっ!)
     と、そこでフォコにある閃きが走った。
    (せや、これなら……!)
     そう考え、フォコはランニャをじっと見た。
    「……?」
     じっと見つめられ、ランニャは怪訝な顔をする。
    (ランニャ、今からもっかい『雷』渡すからな)
     フォコは強く念じつつ、バルトロへと「雷」を渡した。
    「……またかよ!」
     バルトロも、トランプ翁も呆れがちにカードを流す。
     ランニャもそれを受け取り、困った顔になった。
    (気付いてくれ、ランニャ……!)
     フォコはもう一度、ランニャを見つめた。
    「……えー、と、……はい」
     ランニャは困った顔のまま、フォコにカードを渡した。
    「……」
     フォコはチラ、と受け取ったカードを確認し、「雷」を渡す。
    「お前ら、さっきから同じカードぐるぐる回してんじゃねーよ!」
     三度も同じカードを渡され、二人は流石に苛立っている。
    「ほれ、もう一度回すか、姉ちゃんよ!?」
    「……、あ、うーん」
     受け取ったカードをまとめ、ランニャはうなる。
    「……はい」
     そして先程と同じように、ランニャは困った様子でフォコにカードを渡す。
    「……」
     フォコも呆れ返った表情になり、無造作にカードを渡した。
    「いい加減にしろよお前ら……」
     バルトロは相当苛ついているらしく、バリバリと頭をかいている。
    「まったく、なめた真似してますやね、親父……」
    「……」
     と、バルトロからカードを受け取ったトランプ翁は、けげんな顔になった。
    「……まあ、滅多にありゃしねえからな、3人同時に揃うなんてのはな」
    「え、……まあ」
     そう返したフォコに、トランプ翁はぺら、と回ってきたカードを見せた。
    「それでもよ、兄ちゃんがさっき言った通り、だが。
     大抵の奴は、いっぺん手が固まっちまったら、『受け身』になっちまうよな。もう攻めの手は打ち終わった、後はアガるのを待つだけ、……って風にな。
     だからこそ、『雷』が3順、4順と、グルグル回る羽目になっちまったわけだが、……いくらなんでも露骨だぜ、兄ちゃんよ?」
     その回ってきた『雷』のカードを、トランプ翁はす、と自分の手札に引き入れた。
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