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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第1部

    蒼天剣・立志録 6

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    晴奈の話、6話目。
    剣士への第一歩。

    6.
     晴奈はもう一度、頭の中を整理する。
    (だって、試験、なんだから。
     重蔵先生は特に仰ってなかったけれど、柊さんもここの剣士なんだから、以前に試験を受けているはず、よね? じゃあ、ここに入っている、……よね?
     だったら、鬼が出るって言うのも、襲うって言うのも知っていたはず。それなら身を護るために、防具なり武器なり、装備しているはず――例え歯が立たないとしてもー―でも柊さんは、道着だけ。襲われる可能性があるのに、道着だけを?
     ……以前は、出てこなかった? 襲われなかった? 二度入ったら、襲われるって言うの? そんなバカな話、無い。それなら重蔵先生は、何度襲われているか分からないじゃない。と言うことは、鬼は襲わない。普通は、襲わない?
     じゃあ、襲ったのは何で? ……あれ? 襲った? 物音も無く? ううん、あれだけドスドス音を立ててるんだから、柊さんが気付かないわけが無いじゃない!?
     おかしい。考えれば考えるほど、矛盾が広がっていく)
     納得行く説明を求め、迷走していく晴奈の心が、少しずつ静まっていく。
    (おかしい、おかしい!
     大体、この堂の入口は、前にある一ヶ所しか無い。前から入って来たのなら、すぐ分かるはず。でも足音が聞こえて来たのは、いつも後ろから――前からの足音は、一度も聞こえて無かった。
     じゃあ、鬼は突然現れたの? いつ? どうして?)
     そこまで考えたところで、晴奈にある閃きが走った。
    (殺されると思ったら、柊さんが殺された。鬼の足音のことを考えたら、鬼が出た。子鬼かなと思ったら、笑い声。
     考えると、現れる?)
     晴奈はもう一度目をつぶり、心を落ち着けて考えた。
    (柊さんは死んでない。じっと、座禅を組んでいる)
     心の中で強く思い、目を開けて横を見た。
     そこには重蔵が戸を閉めた時と同じ姿勢のまま、柊が何事も無かったかのように、静かに座っていた。



     伏鬼心克堂――その意味は、「鬼が潜む心(伏鬼心)を、抑える(克する)堂」。
     雑念によって現れる様々な「鬼」――迷いや不安、猜疑心を、冷静になって消し去ることを学ぶ堂である。
     そして焔流の真髄、炎を操るには、冷静沈着な心が不可欠なのだと言うことを第一に学ぶために、この試験は用意されているのである。



     一旦それに気が付くと、不思議なほど晴奈の心は静まり返った。極めて冷静に、心を落ち着けて、時間が過ぎるのを待った。
     幸い、時間を潰すのは非常に簡単だった。どう言う理屈か晴奈には分からなかったが、この堂は念じれば、何でも出てくるのだ。時間が過ぎ去るまでの間、晴奈は妹のことを思い浮かべることにした。
    (明奈。あなたには、感謝してもしきれない)
     目の前に明奈が現れ、ニッコリと笑いかけてくる。
    (あなたの言葉があったからこそ、私はこうしてここにいる)
     明奈は前に座り込み、穏やかに笑っている。
    (明奈、……ありがとう)
     そうして晴奈はずっと、明奈と声を出さずに語り合っていた。

    「はい、そこまでじゃ」
     どうやら3時間が過ぎたらしい。
     入口の戸が開き、重蔵が入ってきた。柊がすっと立ち、深々と頭を下げる。晴奈も慌てて立ち上がり、同じように頭を下げた。
    「どうやら、合格のようじゃな。3時間、よく頑張った」
     重蔵は笑いながら、晴奈の頭を優しく撫でた。
    「あ、ありがとうございます!」
    「これで晴さんも、晴れて焔流の門下生じゃ。精進、怠らんようにな。
     それから雪さん。よく考えればもう、入門して16年になるのう。そろそろ教える側に回っても良かろう。師範に格上げしておくから、さらに精進するように」
    「はい!」
     柊はとても嬉しそうな顔をして、もう一度頭を下げた。その頭を、重蔵が先ほどと同じように、優しく撫でながらこう言った。
    「それでじゃ。晴さんは、君が指南してあげなさい」
    「え!?」
    「元々君に師事したいと言っておったのじゃし、年老いたわしの下に就いておっては、折角の若い才能も枯れてしまうじゃろう。
     しっかり、鍛えてやりなさい」
    「……はい。しかと、拝命いたしました」
     柊は三度頭を下げ、晴奈に向き直った。
    「改めてよろしくね、晴奈ちゃん。……ううん、晴奈」
    「はい! よろしく、お願いいたします!」
     晴奈ももう一度、深々と頭を下げた。



     こうして黄晴奈は焔流に入門し、師匠・柊雪乃の下で修行を積むことになった。
     これが後の剣聖、「蒼天剣」セイナ・コウの原点である。ここから彼女の、波乱万丈の人生が始まっていくこととなる。

    蒼天剣・立志録 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.07 転載及び加筆修正
    2016.01.31 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    これは入門試験。
    「白猫夢」で秋也が落ちたのは免許皆伝試験です。

    NoTitle 

    秋也が1回落ちたのはこれよね?v-86

    NoTitle 

    まとめてお返事をば。

    サムライ(およびその見習い)の王道は和装、和服ですよね。

    「鬼」に関する説明は、作中の通り。
    「何か怖いものがいるのかも知れない」と言う、猜疑心の表れです。
    だからこそ姿が見えず、音と結果だけの存在。

    NoTitle 

    鬼や死んでるのか幻覚だったと…
    予想ぴったりでした
    鬼は般若の面被ってたんですか?
    鬼といえばそれしか思いつかない
    炎系の剣術を使うのかな?
    焔というぐあいからして

     

    LandMさん、はじめまして。
    僕もLandMさんの小説、読ませていただいてます。
    やっぱりファンタジー世界はワクワクしてきますね。
    書くのも、読むのも。

    細かいことが気になる性格なので、
    物語の基礎となる魔術や種族の設定など、
    念入りに考えています。
    目次に設定をまとめたものがあるので、
    よければご笑覧ください。

    とは言え、一から十まできっちり説明すると、
    それはそれで読者さん側にも、作家側にも「苦しい」作品になっちゃう気がするので、
    アバウトに済ませられるところはアバウトにしてます。
    説明を求められたら、もちろん応じますがw

    初めましてです。 


    黄輪様へ
    初めましてです。
    LandMと申します。
    まあ、かなりほそぼそとファンタジー小説を書かせていただいております。黄輪様の和風ファンタジーとは違って西洋ファンタジーを書かせていただいております。まあ、大したサイトではありませんが。

    あまり時間がなくて読むのが遅いのですが、最初の方を読ませていただきました。魔法の設定なども書かれていて非常にきめ細やかに描かれていると思いました。私もいい加減ファンタジーだったらその辺も描かないといけないな~~と思っております。また、時間があるときに読ませていただいてコメント残しますね。それでは失礼します。

     

    そ の 発 想 は な か っ た Σ(゚∀゚;)

     

    伏鬼心克堂なら漏れもモテモテv-398
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