「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・金火記 1
フォコの話、313話目。
ゲームオーバー。
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1.
「ちゅうわけですわ」
話は313年――オークボックス再開発が一段落したその一方で、西方でスパス産業破綻の報告を受けたフォコが、満を持してイエローコーストへ乗り込んだ時点に戻る。
「何が『ちゅうわけ』だ、この悪魔めッ!」
ケネスの罵りを、フォコは鼻で笑う。
「悪魔はどっちだか。
あんたはこの十数年間、あちこちに戦争の火種を撒き、そこへ火薬を降り注いで加熱に加熱を加え、世界中を燃やし尽くそうとした男や。そんな所業をしといて今更、他人のことを『悪魔』やて?
はっ、呆れるわ! 何万、何十万もの人間を散々虐げて平然としとったお前が、虐げられた途端にみっともなく、被害者面しよるんか!」
「う、ぐ……っ」
フォコの、怒りのこもった言葉に、ケネスの顔色はみるみるうちに悪くなる。
「いい機会や。誰も言えへんことやったから、今、私が直に言うてやる!
ケネス、お前は商人として、人間として、最低のクズやッ! お前は自分の利益のためだけに人を殺し、街を壊し、国を傾けた! それが人間として、商人として誇れることやなんて、私も、誰も思わへんぞッ!
……いいや、そもそもお前は、自分の利益すら守れへん、商人として失格な男や」
「そ、それはお前のせい……」
反論しかけたケネスを、フォコは怒鳴りつけた。
「何が私のせいやッ!? 商売するんやったら競合なり競争なり、あるんが普通やろが!?
そうや、それがそもそも、お前が商人として、人間としていびつな、何よりの証拠――あらゆる競争相手を完膚なきまでに潰し、自分のみがのうのうと勝ち続けよう、生き残ろうとする、どこまでも意地汚く、下劣な商業モデル。こんなことを考え付くお前の方が、お前こそが悪魔やッ!
もうお前にこれ以上、ゴールドマンの名は名乗らせへんからな。……今のうち、荷物の整理をしとくんやな」
それだけ言って、フォコはその場を去った。
一人残されたケネスは、フラフラと寝室へ戻る。
「……他に……他に策は……」
あらゆる金策を潰され、ケネスはいよいよ行き詰った。
「……駄目元で中央軍にかけあうか……いや駄目だ……軍本部に入った途端に蜂の巣にされるのがオチだ……では私の手であいつを……む、無理だ……そんなことは……しかし……」
脂汗を流し、部屋中をうろつき回って対策を練ろうとするが、到底現状を打開できるような策は思いつかない。
「……こんな時こそ……あのお方が……」
思考の泥濘の中で、ケネスは30年前のことを思い出していた。
「……そうだ……! あの方は仰った……いずれまた、私の前に姿を現しになると。
そう、それは確か……」
一縷の望みを見出し、ケネスは顔を上げた。
「クスクスクスクス」
その先に、彼女は立っていた。
「……ああ……!」
ケネスは思わず、その場に膝まづいた。
「お待ちしておりました……お待ちしておりました……!」
「クスクスクスクス」
「きっと窮した私を、30年前のように助けてくださるものと……」「ええと」
と、白いフードを深く被ったその女は、わずかに首をかしげた。
「お名前は、何と仰いましたか」
「ケネスです! ケネス・エンターゲート=ゴー……、ああいや、ケネス・エンターゲートです!」
半泣きの顔でそう名乗ったケネスに対し、女はまた、首をかしげた。
「それは、あなたの名前ではございませんでしょう」
「……え?」
「あなたが初めて奪ったもの。他の方の名前でしょう」
「い、いや、私がケネスです。それ以外の何者でも……」
呆然とするケネスを眺めていた女は、そこでわざとらしくポン、と手を叩いた。
「ああ、なるほど、なるほど。あなたはなりきってしまったご様子。だから覚えていらっしゃらないと」
「それは、どう言う……?」
「おお、何と哀れな子羊でございましょうか」
女はす、とケネスの顔に手をやり、眼鏡を奪い去る。
「な、何を?」
「クスクスクスクス」
女は手に取った眼鏡を、ぱきんと音を立てて握り潰した。
「あなたは何者でもなかったのですよ」
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ゲームオーバー。
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「ちゅうわけですわ」
話は313年――オークボックス再開発が一段落したその一方で、西方でスパス産業破綻の報告を受けたフォコが、満を持してイエローコーストへ乗り込んだ時点に戻る。
「何が『ちゅうわけ』だ、この悪魔めッ!」
ケネスの罵りを、フォコは鼻で笑う。
「悪魔はどっちだか。
あんたはこの十数年間、あちこちに戦争の火種を撒き、そこへ火薬を降り注いで加熱に加熱を加え、世界中を燃やし尽くそうとした男や。そんな所業をしといて今更、他人のことを『悪魔』やて?
はっ、呆れるわ! 何万、何十万もの人間を散々虐げて平然としとったお前が、虐げられた途端にみっともなく、被害者面しよるんか!」
「う、ぐ……っ」
フォコの、怒りのこもった言葉に、ケネスの顔色はみるみるうちに悪くなる。
「いい機会や。誰も言えへんことやったから、今、私が直に言うてやる!
ケネス、お前は商人として、人間として、最低のクズやッ! お前は自分の利益のためだけに人を殺し、街を壊し、国を傾けた! それが人間として、商人として誇れることやなんて、私も、誰も思わへんぞッ!
……いいや、そもそもお前は、自分の利益すら守れへん、商人として失格な男や」
「そ、それはお前のせい……」
反論しかけたケネスを、フォコは怒鳴りつけた。
「何が私のせいやッ!? 商売するんやったら競合なり競争なり、あるんが普通やろが!?
そうや、それがそもそも、お前が商人として、人間としていびつな、何よりの証拠――あらゆる競争相手を完膚なきまでに潰し、自分のみがのうのうと勝ち続けよう、生き残ろうとする、どこまでも意地汚く、下劣な商業モデル。こんなことを考え付くお前の方が、お前こそが悪魔やッ!
もうお前にこれ以上、ゴールドマンの名は名乗らせへんからな。……今のうち、荷物の整理をしとくんやな」
それだけ言って、フォコはその場を去った。
一人残されたケネスは、フラフラと寝室へ戻る。
「……他に……他に策は……」
あらゆる金策を潰され、ケネスはいよいよ行き詰った。
「……駄目元で中央軍にかけあうか……いや駄目だ……軍本部に入った途端に蜂の巣にされるのがオチだ……では私の手であいつを……む、無理だ……そんなことは……しかし……」
脂汗を流し、部屋中をうろつき回って対策を練ろうとするが、到底現状を打開できるような策は思いつかない。
「……こんな時こそ……あのお方が……」
思考の泥濘の中で、ケネスは30年前のことを思い出していた。
「……そうだ……! あの方は仰った……いずれまた、私の前に姿を現しになると。
そう、それは確か……」
一縷の望みを見出し、ケネスは顔を上げた。
「クスクスクスクス」
その先に、彼女は立っていた。
「……ああ……!」
ケネスは思わず、その場に膝まづいた。
「お待ちしておりました……お待ちしておりました……!」
「クスクスクスクス」
「きっと窮した私を、30年前のように助けてくださるものと……」「ええと」
と、白いフードを深く被ったその女は、わずかに首をかしげた。
「お名前は、何と仰いましたか」
「ケネスです! ケネス・エンターゲート=ゴー……、ああいや、ケネス・エンターゲートです!」
半泣きの顔でそう名乗ったケネスに対し、女はまた、首をかしげた。
「それは、あなたの名前ではございませんでしょう」
「……え?」
「あなたが初めて奪ったもの。他の方の名前でしょう」
「い、いや、私がケネスです。それ以外の何者でも……」
呆然とするケネスを眺めていた女は、そこでわざとらしくポン、と手を叩いた。
「ああ、なるほど、なるほど。あなたはなりきってしまったご様子。だから覚えていらっしゃらないと」
「それは、どう言う……?」
「おお、何と哀れな子羊でございましょうか」
女はす、とケネスの顔に手をやり、眼鏡を奪い去る。
「な、何を?」
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