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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・金火記 2

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    フォコの話、314話目。
    Who done it?

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    2.
     半ばからかうような、そして半ば憐れむような女の口調に、ケネスはめまいを覚える。
    「じょ、冗談はそれくらいにしていただきたい、白金の君」
    「クスクスクスクス」
     白金の君と呼ばれ、女はまた笑いだす。
    「そうでございました、わたくしはあなたにそう呼ばれていたのでした」
     そこでパサ、と女はフードを脱ぐ。ほんのりと青白い、プラチナブロンドの髪が、さらさらと揺れていた。
    「そう。そう呼んでいた当時のあなたは、何者でもなかった。
     家を飛び出し、定職にも就かない、言うならば『死と』」「『死と隣り合わせの生活を』、……!?」
     勝手に口をついて出た言葉に驚き、ケネスは口を押さえた。
    「そう、そう。最初に会った時、あなたはそう仰っていました。そしてあなたは、こうも仰っていた。『世界を』」「『世界を操れる力が手に入るんなら、俺は喜んで、命だってなんだってくれてやる』、……う、うう!?」
    「記憶が反復されたご様子ですね。
     そう、思い出してきたでしょう。あなたが願い、そして、わたくしがお助けした内容も」
     口を押さえられず、半端に持ち上げられたままのケネスの手を、「白金」はふわりとつかむ。
    「あなたの願いを、わたくしは聞き届けました。そしてまず、わたくしが与えたのは」
     「白金」はケネスの額に、自分の額を当てた。
    「知恵。世界をがらりと変貌させてしまえるだけの、知恵を授けました。それから次に」
     ケネスから離れ、「白金」は額を拭う。
    「名前。偶然にもあの時、あなたと同じ街にいらした、駆け出しの商人。彼の名前と商売を、あなたに与えました」
    「……な……何だ、……これは……」
     ケネスは頭に、不快なものを感じた。
     まるで頭蓋が裂け、中から何かがどろどろと流れ出て行くような感覚を覚え、ケネスは額に手をやる。だが、傷は無く、血に濡れているような感触もない。
     それでも、頭の中からの漏れ出す感覚は消えない。
    「あなたはそこから駆け出しの武器商人、『ケネス・エンターゲート』なる人物にすり替わった。
     それからあなたは、わたくしから得た知恵を使い、若くして世間に広く認められる地位を確立した」
     気味の悪い感覚をどうにか抑えようと、ケネスは頭をべたべたと押さえつける。
    「うう、う、あああ……」
    「そうするうち、世界に強い影響を及ぼすような人間が、あなたに接触してくる。そう、予言したのを覚えておいででしょうか」
    「うう……ああ……、バーミー……卿だ、……う、あ、……カーチス・バーミー卿……」
    「その通りでございます」
     うめき、のた打ち回るケネスを眺めながら、「白金」は話を続ける。
    「彼と接触したあなたは、ある提案をするように、わたくしに命じられていました」
    「はっ……はっ、ああ、……はあ、……天帝陛下と、っ、……う、……密かに盟約を、……おお、おああ……」
    「そう、そう。その通りでございます。
     政治的権力と軍事的権力。その上に、あなたが築き上げた経済的権力を合体させれば、非常に強い権力を操ることができる。そう、あなたにお伝えいたしました。
     それから四半世紀――あなたはご自分で望んだ通り、莫大な富を得ました。わたくしとの約束は、無事に果たされました」
    「ぶ、……無事、なっ、……ものかっ、……うげええええ」
     こらえきれず、ケネスは嘔吐する。
     だが吐いた感覚はあるのに、絨毯には染み一つ付いていない。
    「わたくしとの約束は、富を与えるまででございましょう。富を得てからのことは、わたくしの存ずるところではございません」
    「ふ、ざ、……ける、……なっ、……助け、て、くれても、……もう、いっ、か、い……」
    「何故でしょう」
     「白金」は倒れ込んだケネスの横に屈み込み、にっこりと笑う。
    「あなたから得られるものは既に何もございません。交換できるものが無い以上、取引などできようはずが、ございませんでしょう」
    「そっ……、ん……、な、っ……」
     そこで「白金」は、ケネスの耳元につぶやいた。
    「あなたはもう、何もお持ちでいらっしゃらない。
     知恵も、地位も、名声も、富も、伴侶も、子も。
     そしてお名前も」
     それを聞き、彼は反論しようとする。
    「なま、え、……だとっ、……わたし、はっ……、わたしは……」
     だが、そこで思考が凍りついた。
    「……わたしは……だれだ……」
    「すべて失ったご様子ですね。あとはあなたの老いた、醜い肉体だけでございますが」
     女はフードを下ろし、横たわったままの男から離れた。
    「わたくしには不要のものでございます」
     女がそう言い放った瞬間、世界は崩れ落ちた。



     翌日――改めて弾劾会議に出席を求めようと、ジャンニがケネスの寝室を訪れた。
    「総帥さんよ、そろそろ、……ッ!?」
     だが、そこには何もなかった。
     家具どころか床板も天井板も、窓も壁も無く、まるで積木が抜き取られたかのように、ドアの向こうには外の景色が広がっているだけだった。
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