「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・金火記 3
フォコの話、315話目。
金火狐になった火紅狐。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
ケネスの寝室に起こった異常事態を検分するため、ジャンニは慌てて、フォコに随行していたモールを呼び出した。
「何なの何なの、もう……」
「モールさん、あんた賢者とか、大魔法使いとかみたいなこと言うてはったよな」
「ああ、そう言ったねぇ、……ふあああ」
いかにも眠たそうに大欠伸をするモールの手を引っ張りつつ、ジャンニはたどたどしく経緯を説明する。
「ちょっと調べてほしいねん。俺には何が起こっとるか、よお分からへんし」
「分かんないのはこっちだね。ふあ……、一体何が?」
「ケネスの部屋がな、無いねん」
「はぁ?」
「さっき部屋に行って叩き起こそう思て、ドア開けたら、部屋ごと消えとったんや」
「なんのこっちゃ」
要領を得ず、モールは怪訝な顔をしていたが、ケネスの部屋の扉を開けたところで、事態を把握した。
「……わーぉ」
「な? あらへんやろ?」
「見事にスッポリ抜けてるねぇ。煉瓦の壁から一個、煉瓦を抜き取ったみたいな感じだね」
「何が起こっとるんやろか? ケネスはどこへ……?」
「質問は一個ずつにしてほしいんだけどね。
まず一つ目、『起こってる』、じゃなくて、もう『起こった』、終わった話だね。私にも何が起こったか、判断は付けらんないね。すべてが終わった後だから。
二つ目、ケネスの居場所とかだけど、それもさっぱり。部屋ごと痕跡が消えてしまってるし、どこに行ったかどころか、生きてるとかを判断することすらも無理だね」
モールは床板がはがされ、下の階の天井裏が剥き出しになったところに降り、辺りを見回す。
「……ただ、一つ言えるのは」
「言えるんは?」
「人間業じゃないね。何らかの魔術を使ったにせよ、こうまで綺麗さっぱりにくり抜くような術は、私も知らない」
会議室に集められた金火狐の面々は、この異常な失踪事件を伝え聞いたものの、結局これについては、特に対策などを執ろうとしなかった。
「まあ、総帥から降ろそうとしとったところで、勝手に消えてくれたわけやしな」
「探す気にもならんわ。放っといてええんちゃう?」
「せやな。賛成、賛成」
ケネスに対する処置はたったの10秒で決まり、皆はすぐさま本題に入った。
「……ほんで、ニコル。総帥になりたいっちゅうことやったけども」
「はい」
末席に座っていたフォコがうなずいたところで、ジャンニは総帥の席を指差した。
「座ってええで。皆もええよな、それで」
「ええよ」
「賛成」
満場一致を受け、フォコは恐る恐る立ち上がった。
「ホンマにええですな?」
「ええよ」
「……ほんなら」
フォコは皆に向かって一礼し、その席に座った。
「えー、コホン」
と、ジャンニが空咳をし、立ち上がる。
「まあ、決めるところはビシッと決めたらなな。ほれみんな、立って立って」
促された面々は素直に立ち上がり、総帥席に座るフォコに、一様に向き直った。
「本日を以て、我々金火狐一族の宗主、および、ゴールドマン商会の総帥を、ニコル・フォコ・ゴールドマン氏に決定するものとする。
全員、礼!」
それを受けて、全員が深々と頭を下げる。
「……ありがとうございます。これから総帥として、職務を全うするとともに、金火狐一族の繁栄のため、世界にあまねく人々の生活に貢献するため、粉骨砕身の努力を致す所存です。
よろしく、お願いします」
フォコも立ち上がり、頭を下げて返した。
双月暦313年、こうして第10代金火狐総帥が誕生した。
なお――これまでに、初代総帥エリザの弟「ニコル」の名を受け、また、金火狐の総帥となった人物はもう1名おり、彼は「ニコル2世」と呼ばれていた。
それに倣い、フォコもこの時期から「ニコル3世」と呼ばれるようになった。
フォコはようやく、血と涙のにじんだ「火紅・ソレイユ」の名を捨て、誇りある己本来の名を名乗ることができた。
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金火狐になった火紅狐。
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ケネスの寝室に起こった異常事態を検分するため、ジャンニは慌てて、フォコに随行していたモールを呼び出した。
「何なの何なの、もう……」
「モールさん、あんた賢者とか、大魔法使いとかみたいなこと言うてはったよな」
「ああ、そう言ったねぇ、……ふあああ」
いかにも眠たそうに大欠伸をするモールの手を引っ張りつつ、ジャンニはたどたどしく経緯を説明する。
「ちょっと調べてほしいねん。俺には何が起こっとるか、よお分からへんし」
「分かんないのはこっちだね。ふあ……、一体何が?」
「ケネスの部屋がな、無いねん」
「はぁ?」
「さっき部屋に行って叩き起こそう思て、ドア開けたら、部屋ごと消えとったんや」
「なんのこっちゃ」
要領を得ず、モールは怪訝な顔をしていたが、ケネスの部屋の扉を開けたところで、事態を把握した。
「……わーぉ」
「な? あらへんやろ?」
「見事にスッポリ抜けてるねぇ。煉瓦の壁から一個、煉瓦を抜き取ったみたいな感じだね」
「何が起こっとるんやろか? ケネスはどこへ……?」
「質問は一個ずつにしてほしいんだけどね。
まず一つ目、『起こってる』、じゃなくて、もう『起こった』、終わった話だね。私にも何が起こったか、判断は付けらんないね。すべてが終わった後だから。
二つ目、ケネスの居場所とかだけど、それもさっぱり。部屋ごと痕跡が消えてしまってるし、どこに行ったかどころか、生きてるとかを判断することすらも無理だね」
モールは床板がはがされ、下の階の天井裏が剥き出しになったところに降り、辺りを見回す。
「……ただ、一つ言えるのは」
「言えるんは?」
「人間業じゃないね。何らかの魔術を使ったにせよ、こうまで綺麗さっぱりにくり抜くような術は、私も知らない」
会議室に集められた金火狐の面々は、この異常な失踪事件を伝え聞いたものの、結局これについては、特に対策などを執ろうとしなかった。
「まあ、総帥から降ろそうとしとったところで、勝手に消えてくれたわけやしな」
「探す気にもならんわ。放っといてええんちゃう?」
「せやな。賛成、賛成」
ケネスに対する処置はたったの10秒で決まり、皆はすぐさま本題に入った。
「……ほんで、ニコル。総帥になりたいっちゅうことやったけども」
「はい」
末席に座っていたフォコがうなずいたところで、ジャンニは総帥の席を指差した。
「座ってええで。皆もええよな、それで」
「ええよ」
「賛成」
満場一致を受け、フォコは恐る恐る立ち上がった。
「ホンマにええですな?」
「ええよ」
「……ほんなら」
フォコは皆に向かって一礼し、その席に座った。
「えー、コホン」
と、ジャンニが空咳をし、立ち上がる。
「まあ、決めるところはビシッと決めたらなな。ほれみんな、立って立って」
促された面々は素直に立ち上がり、総帥席に座るフォコに、一様に向き直った。
「本日を以て、我々金火狐一族の宗主、および、ゴールドマン商会の総帥を、ニコル・フォコ・ゴールドマン氏に決定するものとする。
全員、礼!」
それを受けて、全員が深々と頭を下げる。
「……ありがとうございます。これから総帥として、職務を全うするとともに、金火狐一族の繁栄のため、世界にあまねく人々の生活に貢献するため、粉骨砕身の努力を致す所存です。
よろしく、お願いします」
フォコも立ち上がり、頭を下げて返した。
双月暦313年、こうして第10代金火狐総帥が誕生した。
なお――これまでに、初代総帥エリザの弟「ニコル」の名を受け、また、金火狐の総帥となった人物はもう1名おり、彼は「ニコル2世」と呼ばれていた。
それに倣い、フォコもこの時期から「ニコル3世」と呼ばれるようになった。
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