「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・金火記 4
フォコの話、316話目。
恩人たちからの激励。
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4.
フォコの総帥就任後、ゴールドマン家は改めて、その報告を各取引筋に伝えた。
「偉くなったもんだ、あのへたれ坊ちゃんがなぁ」
その知らせを受け、真っ先に駆けつけてきてくれたのは、ルピアだった。
「はは……、恐縮です」
「しなくていい、そんなもの。へたれなのは前のままだが、君は商人として素晴らしい成長を遂げたんだ。これからは私とも、対等の付き合いだな」
「いや、そんな。私にとってルピアさんは、商人としていつまでも鑑のような存在です」
堅い口調で話すフォコに、ルピアはフンと鼻で笑う。
「何が『私』だよ、青二才のくせに」
「ふひゃっ!?」
ルピアはフォコの鼻をつかみ、ニヤニヤと笑う。
「そんな堅っ苦しい話し方なんぞ、10年早いっての。まだ26だろ、そんなおっさん臭い話し方なんぞ、30超えて子供の一人でもできるまで封印しとけ」
「ひょ、ひょんひゃんひぅははへ、はひへんほははひはぅひ……(そんなん言うたかて、体面とかありますし)」
「生意気にしか見えんっつの」
フォコがふがふがと反論していたところで、ルピアはぴっと鼻から手を放す。
「ぷひゃっ!」
「おいおい、なんだよ今の、くっく、『ぷひゃ』って、はははは……」
ひとしきり笑った後、ルピアはこれからの活動を尋ねた。
「で、総帥君。今後はどうするんだ? またカレイドマインに本拠地を戻すか?」
「いえ、……まあ、多少忌々しい思いが無いわけではないですけども、ケネスの目論んどった通り、ここには金をはじめとする大規模な貴金属の鉱床がありますし、鉱業を本業としとるゴールドマン商会としては、ここから離れるのんは非常に心苦しいところではあります。
なので、金が掘り尽くされるまでは当面、ここに留まるつもりです」
「ふむ、そっか。……しかしな、フォコ君。それじゃあ、視野が狭いってもんだ」
「え?」
きょとんとするフォコに、ルピアはニヤッと笑いかける。
「この街は海に面してて、一応ながら央南との交通路も通じている。こんないい場所をただ、金を掘るためだけに開発するなんて、勿体ないぞ。
君は折角、世界中にコネクションを築いたんだ。貿易都市を想定しての開発、なんてのもいいと思うが、な」
「なんかルピアさん、オークボックス以降から都市開発にハマってはりません?」
そう突っ込まれ、ルピアは顔を赤くした。
「……はは、否定はできないな。ハマり症なんだよ、どうにも」
続いてやって来たのは、西方に一度戻っていたカントだった。
「就任おめでとう、総帥君」
「はは……」
軽い挨拶を交わし、カントは西方での首尾を伝えてくれた。
「スパス産業が破綻したことは前回伝えた通りだが、その後進展があった。……とは言え、あまり喜ばしいものでないものばかりだけどね」
「と言うと……?」
「旧エール家――語弊があるだろうけれども、ミシェル・エールが当主に就いていた方をそう呼ぶことにする――を無力化するため、我々はルシアン・エールを擁立・援助し、新たなエール家当主として、『大三角形』に迎え入れた。
これにより旧エール家の権威は完全に失墜し、エール商会もまた、破綻の憂き目を見ることになった。……そして残念なことに」
カントはハンチングを深めに被り直し、悲惨な結末を述べた。
「ミシェルは自殺した。執務室の窓から飛び降りたらしい」
「それは……、気の毒な」
「我々が追い込んだ結果であるし、責任が無いとは言えない。とは言え調べたところ、エール・ゼネストを陰で扇動し、ルシアンを失脚させたことも明らかになっている。
これらの因果関係をつぶさに追及するのはナンセンスだが、これは自業自得の範疇だろうね。手を汚して手に入れた地位に苦しめられた、その結果なのだから」
「まあ、……まあ、そう言うしかないでしょうな」
カントは手帳をチラチラと眺め、今後の対応についてフォコに尋ねた。
「それで、卿。まだ現時点では君がジョーヌ海運の、実質的な主なわけだが、この度ルシアンから申し出があった。ジョーヌ海運を買い取らせてはくれないか、と」
「ふむ」
「君には大変な無礼を申し出ているのは重々承知しているが、やはり西方は閉鎖的な世界らしい。どうしても西方人による経営でないと、取引も難航するようだから。
それに何より、商業を中核にしている『大三角形』の一角が、何の商会も持っていないと言うのは格好が付かないからね」
「仕方ないですな。でも、そんなに安くはできませんで」
「それも承知している。なので、10年ないし20年程度で分割して支払うことはできないか、とのことだ」
「んー……」
フォコの方も手帳を開き、ジョーヌ海運の資産価値や事業の規模などを確認し、買収額を検討する。
「まあ、10年払いの場合やと、1年あたり4、5000万クラムくらいやないですか?」
「僕にはその辺りの勘定がピンと来ないから、とりあえずそのまま伝えておくよ」
と、カントはハンチングを浅めに被り直し、いつもの飄々とした雰囲気に戻った。
「辛気臭い話をしてしまったね。改めて、賛辞を述べさせていただこう。
就任おめでとうございます、ニコル・フォコ・ゴールドマン総帥」
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恩人たちからの激励。
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フォコの総帥就任後、ゴールドマン家は改めて、その報告を各取引筋に伝えた。
「偉くなったもんだ、あのへたれ坊ちゃんがなぁ」
その知らせを受け、真っ先に駆けつけてきてくれたのは、ルピアだった。
「はは……、恐縮です」
「しなくていい、そんなもの。へたれなのは前のままだが、君は商人として素晴らしい成長を遂げたんだ。これからは私とも、対等の付き合いだな」
「いや、そんな。私にとってルピアさんは、商人としていつまでも鑑のような存在です」
堅い口調で話すフォコに、ルピアはフンと鼻で笑う。
「何が『私』だよ、青二才のくせに」
「ふひゃっ!?」
ルピアはフォコの鼻をつかみ、ニヤニヤと笑う。
「そんな堅っ苦しい話し方なんぞ、10年早いっての。まだ26だろ、そんなおっさん臭い話し方なんぞ、30超えて子供の一人でもできるまで封印しとけ」
「ひょ、ひょんひゃんひぅははへ、はひへんほははひはぅひ……(そんなん言うたかて、体面とかありますし)」
「生意気にしか見えんっつの」
フォコがふがふがと反論していたところで、ルピアはぴっと鼻から手を放す。
「ぷひゃっ!」
「おいおい、なんだよ今の、くっく、『ぷひゃ』って、はははは……」
ひとしきり笑った後、ルピアはこれからの活動を尋ねた。
「で、総帥君。今後はどうするんだ? またカレイドマインに本拠地を戻すか?」
「いえ、……まあ、多少忌々しい思いが無いわけではないですけども、ケネスの目論んどった通り、ここには金をはじめとする大規模な貴金属の鉱床がありますし、鉱業を本業としとるゴールドマン商会としては、ここから離れるのんは非常に心苦しいところではあります。
なので、金が掘り尽くされるまでは当面、ここに留まるつもりです」
「ふむ、そっか。……しかしな、フォコ君。それじゃあ、視野が狭いってもんだ」
「え?」
きょとんとするフォコに、ルピアはニヤッと笑いかける。
「この街は海に面してて、一応ながら央南との交通路も通じている。こんないい場所をただ、金を掘るためだけに開発するなんて、勿体ないぞ。
君は折角、世界中にコネクションを築いたんだ。貿易都市を想定しての開発、なんてのもいいと思うが、な」
「なんかルピアさん、オークボックス以降から都市開発にハマってはりません?」
そう突っ込まれ、ルピアは顔を赤くした。
「……はは、否定はできないな。ハマり症なんだよ、どうにも」
続いてやって来たのは、西方に一度戻っていたカントだった。
「就任おめでとう、総帥君」
「はは……」
軽い挨拶を交わし、カントは西方での首尾を伝えてくれた。
「スパス産業が破綻したことは前回伝えた通りだが、その後進展があった。……とは言え、あまり喜ばしいものでないものばかりだけどね」
「と言うと……?」
「旧エール家――語弊があるだろうけれども、ミシェル・エールが当主に就いていた方をそう呼ぶことにする――を無力化するため、我々はルシアン・エールを擁立・援助し、新たなエール家当主として、『大三角形』に迎え入れた。
これにより旧エール家の権威は完全に失墜し、エール商会もまた、破綻の憂き目を見ることになった。……そして残念なことに」
カントはハンチングを深めに被り直し、悲惨な結末を述べた。
「ミシェルは自殺した。執務室の窓から飛び降りたらしい」
「それは……、気の毒な」
「我々が追い込んだ結果であるし、責任が無いとは言えない。とは言え調べたところ、エール・ゼネストを陰で扇動し、ルシアンを失脚させたことも明らかになっている。
これらの因果関係をつぶさに追及するのはナンセンスだが、これは自業自得の範疇だろうね。手を汚して手に入れた地位に苦しめられた、その結果なのだから」
「まあ、……まあ、そう言うしかないでしょうな」
カントは手帳をチラチラと眺め、今後の対応についてフォコに尋ねた。
「それで、卿。まだ現時点では君がジョーヌ海運の、実質的な主なわけだが、この度ルシアンから申し出があった。ジョーヌ海運を買い取らせてはくれないか、と」
「ふむ」
「君には大変な無礼を申し出ているのは重々承知しているが、やはり西方は閉鎖的な世界らしい。どうしても西方人による経営でないと、取引も難航するようだから。
それに何より、商業を中核にしている『大三角形』の一角が、何の商会も持っていないと言うのは格好が付かないからね」
「仕方ないですな。でも、そんなに安くはできませんで」
「それも承知している。なので、10年ないし20年程度で分割して支払うことはできないか、とのことだ」
「んー……」
フォコの方も手帳を開き、ジョーヌ海運の資産価値や事業の規模などを確認し、買収額を検討する。
「まあ、10年払いの場合やと、1年あたり4、5000万クラムくらいやないですか?」
「僕にはその辺りの勘定がピンと来ないから、とりあえずそのまま伝えておくよ」
と、カントはハンチングを浅めに被り直し、いつもの飄々とした雰囲気に戻った。
「辛気臭い話をしてしまったね。改めて、賛辞を述べさせていただこう。
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