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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・金火記 5

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    フォコの話、317話目。
    堕ちたアバント。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     フォコが総帥に就任し、商人としての頂点に立った、丁度その頃――。



    「ぜっ……、ぜっ……」
     西方、スカーレットヒルの裏町。
     スパス産業が破綻し、債権者に追われる身となったアバントは、そこに身を潜めていた。
    「畜生……! なんでこの俺が、こんな惨めな目にッ……!」
     かつて西方の急先鋒として栄華を極めていた頃の面影は既に無く、その姿は浮浪者そのものだった。
     だが放漫な生活が長かったためか、彼は一向に反省も、立ち直る努力もしなかった。
    「今に見てやがれ、ブタどもめ……! 金と権力とを取り戻した暁には、一人残らず袋叩きにして、嬲り殺しにして、血祭りに上げてやる……!
     俺にはあの、エンターゲートの御大が付いているんだからな! きっと後悔させてやるぞッ!」
     この時点で既にケネスは行方不明になっているが、それを彼が知る術は無い。
    「……、ふぅ」
     一息つこうと、アバントは煙草を口にくわえ、火を点けようとする。
    「クソ、クソ、クソッ……、忌々しい、忌々しい! いつまでも俺が、こんな腐ったところでじっとしてると、……あああ、クソッ!」
     だが南海で受けた怪我の上に、この数年、傲慢に酒をあおる生活を続けていたために、彼の手は思うように動かなくなってしまっていた。
     口元に持って行こうとしたところで、火が点いたままの燐寸はぼたっと、彼の垢じみたコートのポケットに入ってしまった。
    「うわ……!? わ、わっ……、やば、うわっ、わーっ!」
     彼は慌てふためき、わめきながらコートを脱いで逆さにし、バタバタと振って燐寸を出そうとする。
     と、そこへ――。
    「いたぞ、スパスだ!」「逃がすな、捕まえろッ!」
     アバントのわめき声を聞きつけた借金取りたちが、ワラワラと路地裏へ押し込んできた。
    「う、……うううっ」
     アバントはどうにか燐寸と煙草を捨て、転がるようにその場から逃げ出した。

     どうにか借金取りを撒き、アバントは廃屋に転がり込んだ。
    「ぜっ……、ぜっ……、ぜえ……」
     呼吸を落ち着かせながら、アバントはぼんやりと、今後のことを考える。
    (いずれ総帥に助けてもらうとして、……それまでどうするかな。
     もう国境を越えるのは難しいだろうな。商会の破綻は知れ渡っているし、前みたいな顔パスはできない。いや、できたところで、壁の向こうで借金取りが待ち構えているかも知れん。
     かと言って、ここみたいな廃屋なんて、そう都合よくあったりもしないしな……。いつまでも身を潜めてもいられん。
     この後、どうするか……?)
     寝転がったまま、アバントはまた煙草を口にくわえようとした。

     と――。
    「お控えくださいませ。わたくしにとって、あまり好ましい香りではございません故」
     震える手でようやく口に運んだ煙草を、誰かにひょいと取り上げられた。
    「う……!」
     アバントはバタバタと起き上がり、煙草を取り上げた白いフードの女から遠ざかる。
    「お、俺を捕まえようとしても、無駄だぞ! 俺はもう払うもんなんか無い! 若くもないから肉体労働もご免だ! お前らに捕まるくらいなら死んでやる!」
    「あらあら、勿体ない」
     女はぽい、と煙草を投げ捨てる。煙草は空中で、ぱす、と軽い音を立てて粉々になった。
    「あなたはまだ一つ、価値のあるものをお持ちでございましょう」
    「な、なに?」
    「あの方を呼ぶ口実でございます」
    「あの、方……? エンターゲート総帥か?」
    「彼は既に、この世におりません」
    「何だと!?」
     青ざめるアバントに、女はすい、と近寄る。
    「あなたにしていただきたいこと。それは克大火様を呼び寄せることでございます」
    「かつ、みたい、か? 誰だそりゃ」
    「わたくしが最も憎むお方でございます。
     あなたには克大火様を呼び出し、この剣を以て殺していただきたいのです」
     そう言って女は、どこからか直剣を取り出した。
    「う……っ」
     その剣には呪文や魔法陣らしきものがびっしりと刃に描かれており、普通の剣には見えない。
     魔力のないアバントでさえも、その剣から発せられる、深い穴のような、引力じみたものを感じずにはいられなかった。
    「この剣にはどこどこまでも魔力を吸着し、霧散させる力が付加されております。この剣を以てすれば、どんな魔術障壁や強化術も、例外なく無効化されます。
     名付けて、『魔絶剣 バニッシャー』」
    「その、カツミとかってのは、魔術師なのか?」
    「ご明察でございます。わたくしが知る限りで、最も優れた魔術師。ですが尊敬・敬愛の念とともに、言葉では言い表せぬ程の侮蔑・忌避の念も抱かずにはいられないお方。
     そのため、わたくしはあなたに殺害を依頼するのです」
    「だ、だが、何故俺に? 俺はこれから逃げなきゃ……」
    「報酬は勿論ございますとも」
     そう言って、女はくる、と背中を向ける。
    「このように」
     女が右手を、す、と上から下に振り下ろす。太い鋼線がちぎれるようなミチミチと言う音がしたかと思うと、空中に、紫色に光る亀裂が走った。
     女はそこに、ひょいと手を伸ばす。
    「別の場所へお送りすることも可能でございますし」
     亀裂の向こうで何かをつかんだらしく、女はそれを引っ張り上げた。
    「この十数年の騒乱の陰で、わたくしには小国を2、3買える程度の資金を築いております。逃走経路の確保と逃走資金3億クラムで、いかがでしょうか?」
     女の言葉は非常に魅力的なものだったが、アバントの耳にはほとんど入らなかった。
    「あ……あ……」
     女が亀裂の向こうから引っ張り出したものは、あの「骸骨兎」――サザリー・エールの、腐乱した死体だったからだ。
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