「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・金火記 6
フォコの話、318話目。
白い妖魔からの取引。
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6.
「そ、そい、そいつはっ……!?」
ガタガタと震えだすアバントに対し、女は淡々とした口調で説明した。
「2ヶ月ほど前に、彼は逃走中、山道から転落いたしました。顔が背中の方を向いておりますから、恐らく即死でございましょう」
「そ、そいつは子供を連れていたはずだ! その子らは……!?」
「存じ上げません。同様に転落したはずですが、姿はございまませんでした。とは言え恐らく、同様に死んでいるものと思われます」
その言葉の行間から、アバントは彼女がサザリーたちを山道から突き落とし、殺害したことを悟った。
「何故そんなことを……!?」
「計画に邪魔でございますから。いつまでもふらふらと逃げ回っていらっしゃると、見つかってしまう可能性もございます。あのお方を呼ぶためには、行方不明のままであってもらわねば」
「計画、……って、何がどうなるんだ? そのカツミってのと清家姉弟が、何か関係が?」
女は芝居がかった仕草で両手を挙げ、それを否定した。
「いいえ、いいえ。まったくございません。関係があるのは、克大火様が護衛をなさっているランド・ファスタ卿でございます」
「ファスタ卿……、確か、清王朝に対する反乱軍の参謀をしてたとかって、その……、そいつから聞いたな。西方に来て、行方を追ってるとか」
アバントはそう言って、サザリーの腐った頭を指差す。
「分かってきたぞ……。そのファスタ卿に、俺がその、清家姉弟の居場所を知ってるとリークして、どこかにおびき寄せる。そしたらファスタ卿は……」
「きっと克大火様を連れて、そこへと現れるでしょう。そこで、殺害していただきたいのです」
「なるほどな」
アバントはふらりと立ち上がり、女にこう尋ねた。
「そう言えばあんた、名前は?」
「わたくしに名前はございません。好きなように呼んでいただいて構いません」
「そうか。じゃあ、……ティナとでも」
「承知いたしました」
そう言うと、女はフードを脱ぐ。
「……!?」
その下に現れた顔を見て、アバントはまた腰を抜かした。
「て、てて、てぃ、……っ、そ、そんな!?」
「どういたしました」
フードの下から現れたのは、かつて南海で共に仕事をしていた、あのティナ・サフランの顔だった。
だが、アバントはすぐに別人だと判断した。
「……い、いや、似ている、だけか。声が違う。傷もないし、髪の色も違う」
「わたくしはこの、雪のように白い髪が気に入っております故。
それよりもアバント様。承諾していただけますか」
アバントは呆然としていたが、「ティナ」のその顔を見て、ふつふつと沸き上がってくるものを感じていた。
「……条件を付けても、いいか?」
「仰ってみてください」
「ホコウ・ソレイユってのも、一緒に殺したい」
「一緒に呼べるのであれば、どなたでも、何人でも呼んでいただいて構いません。わたくしの方でも数名、援護をお付けいたしますので」
「いや、そいつだけだ。そいつだけは、何としてでも俺がブッ殺す」
「承知いたしました。ではこの剣と」
「ティナ」はアバントに「バニッシャー」を手渡し、彼の額にちょん、と人差し指を置く。
「少しばかりの魔力と、魔術も」
「うお……っ!?」
アバントは額から全身にかけて、何か猛々しいものがドクドクと流れ込んでくるのを感じた。
「アバントから……!?」
313年、3月。
フォコが総帥としての新体制を整えている最中に、その報せは入った。
《ああ、本人からの手紙が密かに、ランドへと送られた》
フォコはイエローコーストの総帥用執務室から、「魔術頭巾」で大火からの連絡を受けていた。
「その内容は……?」
《『清双葉、清三守姉弟は自分が預かっている。彼らの身柄を引き渡すのと引き換えに、現在自分にかけられている負債、指名手配、および懸賞金を全面解除しろ』、……と要求してきた。
ランドはこのことを『大三角形』筋に報告し、現在彼らと協議中だ。だが恐らく、要求は却下されるだろう》
「そらそうでしょうな。西方商人にとってあいつは、海外資本を楯に威張り散らした、憎き裏切り者ですからな。
でも清家の身柄を確保するんはランドさんの目的ですし、そこは通さなあきませんな」
《ああ。だから今、ランドは『要求を呑むふりをしてアバントと接触し、拘束してはどうか』と提案している。恐らくそれで、話がまとまるだろう》
「でしょうな。……で、タイカさん。何故それを僕に?」
《アバント・スパスの要求はもう一つある。お前と話がしたいそうだ。ティナ・サフランなる人物のことで》
「……!」
その名前を聞き、フォコは椅子を倒して立ち上がった。
「それは本当に……!?」
《こんなことで嘘を言ってどうなる?》
「あ、いや、タイカさんに言うたんやなくて、……ああ、まあ、何でもないです。
タイカさん、すぐに連れてってください!」
《分かった、1時間後に向かう。用意をしておけ》
「ありがとうございます」
フォコは「頭巾」を被ったまま執務室を飛び出し、自分の書斎へと向かった。
(話だのなんだの、……ちゅうのは方便や。アバントは恐らく、僕と決着を付けるつもりなんや。
恐らくは、命の取り合いと言う意味での、決着を)
フォコは書斎に入り、クローゼットに押し込んでいた、昔の服や武器を取り出した。
火紅狐・金火記 終
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白い妖魔からの取引。
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6.
「そ、そい、そいつはっ……!?」
ガタガタと震えだすアバントに対し、女は淡々とした口調で説明した。
「2ヶ月ほど前に、彼は逃走中、山道から転落いたしました。顔が背中の方を向いておりますから、恐らく即死でございましょう」
「そ、そいつは子供を連れていたはずだ! その子らは……!?」
「存じ上げません。同様に転落したはずですが、姿はございまませんでした。とは言え恐らく、同様に死んでいるものと思われます」
その言葉の行間から、アバントは彼女がサザリーたちを山道から突き落とし、殺害したことを悟った。
「何故そんなことを……!?」
「計画に邪魔でございますから。いつまでもふらふらと逃げ回っていらっしゃると、見つかってしまう可能性もございます。あのお方を呼ぶためには、行方不明のままであってもらわねば」
「計画、……って、何がどうなるんだ? そのカツミってのと清家姉弟が、何か関係が?」
女は芝居がかった仕草で両手を挙げ、それを否定した。
「いいえ、いいえ。まったくございません。関係があるのは、克大火様が護衛をなさっているランド・ファスタ卿でございます」
「ファスタ卿……、確か、清王朝に対する反乱軍の参謀をしてたとかって、その……、そいつから聞いたな。西方に来て、行方を追ってるとか」
アバントはそう言って、サザリーの腐った頭を指差す。
「分かってきたぞ……。そのファスタ卿に、俺がその、清家姉弟の居場所を知ってるとリークして、どこかにおびき寄せる。そしたらファスタ卿は……」
「きっと克大火様を連れて、そこへと現れるでしょう。そこで、殺害していただきたいのです」
「なるほどな」
アバントはふらりと立ち上がり、女にこう尋ねた。
「そう言えばあんた、名前は?」
「わたくしに名前はございません。好きなように呼んでいただいて構いません」
「そうか。じゃあ、……ティナとでも」
「承知いたしました」
そう言うと、女はフードを脱ぐ。
「……!?」
その下に現れた顔を見て、アバントはまた腰を抜かした。
「て、てて、てぃ、……っ、そ、そんな!?」
「どういたしました」
フードの下から現れたのは、かつて南海で共に仕事をしていた、あのティナ・サフランの顔だった。
だが、アバントはすぐに別人だと判断した。
「……い、いや、似ている、だけか。声が違う。傷もないし、髪の色も違う」
「わたくしはこの、雪のように白い髪が気に入っております故。
それよりもアバント様。承諾していただけますか」
アバントは呆然としていたが、「ティナ」のその顔を見て、ふつふつと沸き上がってくるものを感じていた。
「……条件を付けても、いいか?」
「仰ってみてください」
「ホコウ・ソレイユってのも、一緒に殺したい」
「一緒に呼べるのであれば、どなたでも、何人でも呼んでいただいて構いません。わたくしの方でも数名、援護をお付けいたしますので」
「いや、そいつだけだ。そいつだけは、何としてでも俺がブッ殺す」
「承知いたしました。ではこの剣と」
「ティナ」はアバントに「バニッシャー」を手渡し、彼の額にちょん、と人差し指を置く。
「少しばかりの魔力と、魔術も」
「うお……っ!?」
アバントは額から全身にかけて、何か猛々しいものがドクドクと流れ込んでくるのを感じた。
「アバントから……!?」
313年、3月。
フォコが総帥としての新体制を整えている最中に、その報せは入った。
《ああ、本人からの手紙が密かに、ランドへと送られた》
フォコはイエローコーストの総帥用執務室から、「魔術頭巾」で大火からの連絡を受けていた。
「その内容は……?」
《『清双葉、清三守姉弟は自分が預かっている。彼らの身柄を引き渡すのと引き換えに、現在自分にかけられている負債、指名手配、および懸賞金を全面解除しろ』、……と要求してきた。
ランドはこのことを『大三角形』筋に報告し、現在彼らと協議中だ。だが恐らく、要求は却下されるだろう》
「そらそうでしょうな。西方商人にとってあいつは、海外資本を楯に威張り散らした、憎き裏切り者ですからな。
でも清家の身柄を確保するんはランドさんの目的ですし、そこは通さなあきませんな」
《ああ。だから今、ランドは『要求を呑むふりをしてアバントと接触し、拘束してはどうか』と提案している。恐らくそれで、話がまとまるだろう》
「でしょうな。……で、タイカさん。何故それを僕に?」
《アバント・スパスの要求はもう一つある。お前と話がしたいそうだ。ティナ・サフランなる人物のことで》
「……!」
その名前を聞き、フォコは椅子を倒して立ち上がった。
「それは本当に……!?」
《こんなことで嘘を言ってどうなる?》
「あ、いや、タイカさんに言うたんやなくて、……ああ、まあ、何でもないです。
タイカさん、すぐに連れてってください!」
《分かった、1時間後に向かう。用意をしておけ》
「ありがとうございます」
フォコは「頭巾」を被ったまま執務室を飛び出し、自分の書斎へと向かった。
(話だのなんだの、……ちゅうのは方便や。アバントは恐らく、僕と決着を付けるつもりなんや。
恐らくは、命の取り合いと言う意味での、決着を)
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