「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・昔讐記 2
フォコの話、320話目。
ゴーレム製造工場。
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2.
フォコたち一行はすぐに、スカーレットヒルへと飛んだ。
「ここ?」
「ここのはず」
フォコとランドは、夜の闇を背にして立つ目の前の建物を見て首をかしげた。
「……明かりが煌々と点いとりますな。それにあちこちから蒸気が漏れてますし」
「工場を持っていた商会が破綻した以上、稼働させる人間はまず、いないはずだ。
論理的に考えるなら、ここに潜んでいるであろうスパス氏が動かしているんだろうけど……」
「こんな大規模な工場やと、一人では無理でしょうな。誰か協力する人間がおる、と見て間違いないと思いますわ」
「しかしそうなると、協力者が気になるところだ。破産した人間にわざわざ手を貸す人がいるとは思えないけど……。何かの恩義からかな?」
「それはないですわ。あいつが偉くなってから一度、直に会うたことありますけど、とても人気・人望を集められるような態度やありませんでしたしな」
「……まあ、門前であれこれ言っても、事態の進展は望めないな。ともかく中に入ろう」
一行はそっと門を開け、敷地内へと足を踏み入れた。
と――。
「下がれ!」
大火がぐい、とフォコたち二人の襟を引っ張り、門の外へと戻した。
「うわっ!?」「きゅっ!?」
次の瞬間、フォコたちがいた場所に、大人の背くらいはあろうかと言う長さの槍が二本、突き立てられていた。
「グルル……」「グゴゴ……」
そして槍を、工員のような格好をした「何か」がつかんでいる。どうやらどこかから跳躍し、二人を串刺しにしようとしたらしい。
その「工員」たちの顔は、目や鼻が無く、のっぺりとしている。ただ一つ、口だけがぽっかりと空いており、それが顔全体の異様さを際立たせている。
明らかに人ならざるその姿に、ランニャが声を上げた。
「な、何だよコレ!?」
「あ、コレってもしかして!?」
すぐさまイールが前に飛び出し、雷の術を唱えた。
「『スパークウィップ』!」
パン、パンと音を立てて青白い電撃が飛び、「工員」たちを弾き飛ばす。
「ガガ、ガッ……」「ググ、ゴバ……」
弾かれた「工員」は地面に叩き付けられると同時に、粉々になった。
「やっぱり、ゴーレムね!?」
「ああ。しかし青江の時に見た『将校』よりも大分、造りは荒いな。
だが、恐らくは同一人物が造ったか、もしくは、造り方を教えていたのだろう。こんな技術を持つ人間は、そうそういないから、な」
「教えていた、って……、アバントにですか?」
フォコの問いに、大火は小さく首を振る。
「その可能性もあるが、教わった人間がアバントに協力している、と言うことも考えられる。
何にせよ、この工場が稼働している理由は恐らく、そこにあるだろう、な」
「何だっけ、ミスリル化けーそ、だっけ? ソレを製造して、ゴーレムを造ってるのね」
大火は残った槍を引き抜き、それを眺めながら、全員に注意を促した。
「やはり火紅、お前の読みの通りだったな。最初から、まともに取引などする気は毛頭無いらしい。
最大限、警戒しておくことだ」
そのまま中へ入る大火を先頭に、皆が続いた。
「お越しになったようです」
「全員、戦闘配置に付きました」
「……そうか」
工場の上層、溶鉱炉を迂回するために張られた空中通路で、「工員」たちを使って守りを固めていたアバントのところに、それぞれ緑と黒、青と黒、橙と黒のストライプになったピエロ服を着た子供たちが三人、やって来た。
「それでジャガー、何人やって来た? ホコウとファスタ卿、それからタイカってのは、その中にいるのか?」
問われた緑黒のピエロは、憮然とした顔で答えた。
「大火『様』、でございます。主様の尊敬を無碍にされぬこと、くれぐれもお願い申し上げます。
ええ、ええ、来ていらっしゃいます。その他に有象無象の方々が、4名」
「全部で7名か。どんな奴らだ?」
今度は青黒のピエロが答える。
「猫獣人の女と虎獣人の男、軍人風の方が1名ずつ。短耳の女、瀟洒な身なりの方が1名。後は狼獣人の女、お転婆そうな方が1名。
猫獣人と短耳は、魔術を使うようです」
「そうか。そいつらも、強そうなのか?」
「あえて数値化するならば――この近辺を巡回する兵士の強さの度合いを10前後とした場合ですが――ニコル卿は40~70程度、ファスタ卿は1~2、猫獣人は80~150、虎獣人は90~130、短耳は8~11、狼獣人は60~100。
そして大火様は13000~15000程度と思われます」
「タイカ、……様だけ桁が違うな。そこまで強いのか?」
「ええ、非常に。ちなみに、ご参考までに申し上げますと、わたくしマスタングが250程度。そちらのクーガーは280。それからこちらのジャガーは、320程度にチューニングされております」
「……ちょっと待て」
数値を聞いたアバントは、顔を青ざめさせる。
「1万対、200や300じゃ、どうあがいても勝ち目がない! どうやって俺が、そのタイカ様を倒すって言うんだ!? まさか俺の強さが、100万あるわけじゃないだろ!?」
「ええ。アバント様は――主様から貸与された魔力がなければ――20~40程度でございます」
「……ホコウより弱いのか、俺は。……い、いや、それより。
そこまで桁違いに強い奴を、どうやって殺せって言うんだ!? 数値のデカさが、まるで蟻と象だ! 無理だろ、どう考えても!?」
「いえいえ、アバント様。大火様にはある、致命的な欠点がございます」
わめくアバントに、橙黒のピエロ、クーガーが答えた。
「彼は『自分は何よりも強い、絶対的な存在である』と自負していらっしゃいます故」
「……?」
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ゴーレム製造工場。
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フォコたち一行はすぐに、スカーレットヒルへと飛んだ。
「ここ?」
「ここのはず」
フォコとランドは、夜の闇を背にして立つ目の前の建物を見て首をかしげた。
「……明かりが煌々と点いとりますな。それにあちこちから蒸気が漏れてますし」
「工場を持っていた商会が破綻した以上、稼働させる人間はまず、いないはずだ。
論理的に考えるなら、ここに潜んでいるであろうスパス氏が動かしているんだろうけど……」
「こんな大規模な工場やと、一人では無理でしょうな。誰か協力する人間がおる、と見て間違いないと思いますわ」
「しかしそうなると、協力者が気になるところだ。破産した人間にわざわざ手を貸す人がいるとは思えないけど……。何かの恩義からかな?」
「それはないですわ。あいつが偉くなってから一度、直に会うたことありますけど、とても人気・人望を集められるような態度やありませんでしたしな」
「……まあ、門前であれこれ言っても、事態の進展は望めないな。ともかく中に入ろう」
一行はそっと門を開け、敷地内へと足を踏み入れた。
と――。
「下がれ!」
大火がぐい、とフォコたち二人の襟を引っ張り、門の外へと戻した。
「うわっ!?」「きゅっ!?」
次の瞬間、フォコたちがいた場所に、大人の背くらいはあろうかと言う長さの槍が二本、突き立てられていた。
「グルル……」「グゴゴ……」
そして槍を、工員のような格好をした「何か」がつかんでいる。どうやらどこかから跳躍し、二人を串刺しにしようとしたらしい。
その「工員」たちの顔は、目や鼻が無く、のっぺりとしている。ただ一つ、口だけがぽっかりと空いており、それが顔全体の異様さを際立たせている。
明らかに人ならざるその姿に、ランニャが声を上げた。
「な、何だよコレ!?」
「あ、コレってもしかして!?」
すぐさまイールが前に飛び出し、雷の術を唱えた。
「『スパークウィップ』!」
パン、パンと音を立てて青白い電撃が飛び、「工員」たちを弾き飛ばす。
「ガガ、ガッ……」「ググ、ゴバ……」
弾かれた「工員」は地面に叩き付けられると同時に、粉々になった。
「やっぱり、ゴーレムね!?」
「ああ。しかし青江の時に見た『将校』よりも大分、造りは荒いな。
だが、恐らくは同一人物が造ったか、もしくは、造り方を教えていたのだろう。こんな技術を持つ人間は、そうそういないから、な」
「教えていた、って……、アバントにですか?」
フォコの問いに、大火は小さく首を振る。
「その可能性もあるが、教わった人間がアバントに協力している、と言うことも考えられる。
何にせよ、この工場が稼働している理由は恐らく、そこにあるだろう、な」
「何だっけ、ミスリル化けーそ、だっけ? ソレを製造して、ゴーレムを造ってるのね」
大火は残った槍を引き抜き、それを眺めながら、全員に注意を促した。
「やはり火紅、お前の読みの通りだったな。最初から、まともに取引などする気は毛頭無いらしい。
最大限、警戒しておくことだ」
そのまま中へ入る大火を先頭に、皆が続いた。
「お越しになったようです」
「全員、戦闘配置に付きました」
「……そうか」
工場の上層、溶鉱炉を迂回するために張られた空中通路で、「工員」たちを使って守りを固めていたアバントのところに、それぞれ緑と黒、青と黒、橙と黒のストライプになったピエロ服を着た子供たちが三人、やって来た。
「それでジャガー、何人やって来た? ホコウとファスタ卿、それからタイカってのは、その中にいるのか?」
問われた緑黒のピエロは、憮然とした顔で答えた。
「大火『様』、でございます。主様の尊敬を無碍にされぬこと、くれぐれもお願い申し上げます。
ええ、ええ、来ていらっしゃいます。その他に有象無象の方々が、4名」
「全部で7名か。どんな奴らだ?」
今度は青黒のピエロが答える。
「猫獣人の女と虎獣人の男、軍人風の方が1名ずつ。短耳の女、瀟洒な身なりの方が1名。後は狼獣人の女、お転婆そうな方が1名。
猫獣人と短耳は、魔術を使うようです」
「そうか。そいつらも、強そうなのか?」
「あえて数値化するならば――この近辺を巡回する兵士の強さの度合いを10前後とした場合ですが――ニコル卿は40~70程度、ファスタ卿は1~2、猫獣人は80~150、虎獣人は90~130、短耳は8~11、狼獣人は60~100。
そして大火様は13000~15000程度と思われます」
「タイカ、……様だけ桁が違うな。そこまで強いのか?」
「ええ、非常に。ちなみに、ご参考までに申し上げますと、わたくしマスタングが250程度。そちらのクーガーは280。それからこちらのジャガーは、320程度にチューニングされております」
「……ちょっと待て」
数値を聞いたアバントは、顔を青ざめさせる。
「1万対、200や300じゃ、どうあがいても勝ち目がない! どうやって俺が、そのタイカ様を倒すって言うんだ!? まさか俺の強さが、100万あるわけじゃないだろ!?」
「ええ。アバント様は――主様から貸与された魔力がなければ――20~40程度でございます」
「……ホコウより弱いのか、俺は。……い、いや、それより。
そこまで桁違いに強い奴を、どうやって殺せって言うんだ!? 数値のデカさが、まるで蟻と象だ! 無理だろ、どう考えても!?」
「いえいえ、アバント様。大火様にはある、致命的な欠点がございます」
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