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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・昔讐記 6

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    フォコの話、324話目。
    北方紳士の矜持。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     だが突然、レブはまた、マフスを抱きしめてきた。
    「えっ、あの、な、何を?」
     レブはそれに答える代わりに、ばっと後ろへ跳ぶ。
     最初に工場の門を潜ろうとした時と同様、そこへ槍が飛んできた。
    「……チッ、ここまで追ってくるかよ!」
     レブはマフスを抱えたまま、槍が飛んできた方向に目をやる。
    「クスクスクスクス」
     積み上げられた木箱の上に、青と黒のストライプのピエロ服を着た子供が立っていた。
    「誰だ、お前は!?」
    「わたくしの名前は、マスタング。アバント・スパス様を支援している者でございます」
    「お前がゴーレムを……!?」
     そう問いかけたフォコに、マスタングはチラ、とだけ目をやり、すぐまたレブの方を向いた。
    「わたくしの役目は、こうして『アリジゴク』にかかった蟻たちを抹殺すること。
     さあ、頭を垂れて膝まづきなさい、哀れな子羊たちよ!」
     そう叫び、マスタングは飛び降りる。
    「蟻だの子羊だの、一々うっとおしい物言いしやがって……!」
     レブはひょい、と体勢を落とし、マフスを一瞬宙へと浮かす。
    「ぁゎわわ……」
     マフスの体の下を潜り、レブはそのまま彼女を背負う。
    「しっかり捕まってろよ、殿下」
    「あ、ああ、はいっ!」
     マフスがぎゅっとしがみついたところで、レブは腰に佩いていた直剣を抜き払った。
    「やってみろよ、クソガキ!」
    「あまりわたくしを、見た目で判断されない方が賢明かと」
     マスタングは――その少女じみた顔に似つかわしくない、汚泥を見るかのような目つきで――ニタニタと笑いながら、槍を手に取った。
    「えい」
     身長の2倍はあろうかと言う長さの槍を、マスタングは片手で、事もなげに抜く。
    「……なるほど、確かに強そうだな」
    「ご忠告しておきますと」
     マスタングは槍を構え、慇懃な口調でこう諭した。
    「その『お荷物』を背負われたままでは、到底わたくしの槍を受けることなどできませんよ」
    「ご忠告、どうも」
     レブはマフスを背負ったまま、マスタングに向かって剣を構えた。
    「だがこんな敵地のど真ん中、か弱いお姫様を一人ぼっちにゃできないぜ。
     俺はこれでも北方紳士だ。女子供は身を賭してでも守らなきゃ、名折れってもんだ」
    「クスクスクスクス」
     マスタングは口をパカリと開け、気味の悪い笑いを漏らした。

     と――。
    「『サンダースピア』!」
     マスタングの背後に回っていたイールが、雷の槍を発射した。
    「あ……」
     くる、と振り向いたところで、マスタングの腹に、深々と槍が突き刺さる。
    「敵が真ん前にいるのに、チラ見で済ませてんじゃないわよ!」
    「あ、ふ……、ゆ、油断、いたしました」
     マスタングはがくりと膝を着くが、口調に変化はない。
    「なるほど、あなたは、雷の術を、お使いに、なるのですね」
    「それが何よ!? ……って、アンタ、生きてるの?」
    「わたくし、このくらいでは、壊れたりなど、いたしません」
     マスタングはゆらりと立ち上がり、槍を構える。
    「ご忠告いたします。もう一度、同じ術を撃っておいた方が賢明でございますよ」
    「そうか」
     ぎち、とマスタングの首から音が響く。
    「じゃあ俺からも、ご忠告。後ろにも気を付けるべきだな」
    「あなた方は、不意打ち、ばかりなさる」
    「敵を目の前にして、とぼけたことばっかり言いやがって」
     レブの剣が、マスタングの首の3分の1のところで止まる。
    「硬てぇな……!」
    「わたくし、少しばかり、骨が、鋼で、できて、いるもので」
     口ぶりこそ平然としたものだが、実際のところ、ダメージは蓄積されているらしい。
     見下していたような目が、忙しなくギョロギョロと動いており、また、斬り付けられた首の右側面につながる右腕が、だらんとしたまま動かなくなっている。
    「イール」
    「ええ」
     レブが剣を首から離すと同時に、イールがもう一度雷の術を放つ。
    「う、あああ、……あアアうアあウあアっ!」
     今度はしっかり効いたらしい――首から上がパンと弾け、あの鈍色に照り光る小石となって飛び散った。
    「……これも、ゴーレムね。でも、性能は今までのと比べ物にならないくらい」
    「二人がかりで、目一杯剣と術を叩き付けて、ようやく首だけか……。チッ、刃こぼれしてやがる」
     レブは忌々しげに刃を拭い、鞘に納める。
     と、背負われたままだったマフスが、ここで恐る恐る声をかけてきた。
    「あの、レブさん。もう、大丈夫です……」
    「あ、そうだった。……よ、っと」
     レブはしゃがみ込み、マフスを下ろしてやる。
    「ありがとうございます、レブさん。……あ、あの」
    「ん?」
    「……ありがとうございます」
    「おう」
     頬を真っ赤に染めるマフスを遠目に眺めていたイールは、ほんの少しニヤニヤと笑った。
    (あらあらぁ……?)
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