「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・昔讐記 7
フォコの話、325話目。
大火の弱点。
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7.
倉庫を抜け出したところで、フォコたちは溶鉱炉の前に出た。
「う、わ……」
「こりゃ、きつい、ってか、ヤバっ」
溶鉱炉周辺は、視界がかすむほどの毒ガスが充満していた。
「も、戻って戻って! マフスさん、お願いします!」
慌てて引き返し、マフスに浄化術を発動してもらってからもう一度、溶鉱炉へと向かう。
「……ぶはあっ! し、死ぬかと思った」
「こ、コレはたまんないわね」
大火が急激なエネルギーの上昇、即ち加熱にも弱いと言っていた通り、溶鉱炉の周辺に「工員」の姿は無い。
「居てへんで良かった。こんなところで戦闘しとったら、敵にやられる前に死んでまうわ……」
「ホントだよ。……あれ?」
と、上を向いたランニャが、天井近くに張られた通路に、何らかの影を見つける。
「ねえフォコくん、アレって」
「ん……?」
ランニャが指し示した方を見てみると、フォコにも確かに、影のようなものが確認できた。
その、空中通路。
「あらあらあらあら」
唐突に、ジャガーが口を開く。
「な、なんだ? どうした?」
「マスタングが潰されました」
「何だと!?」
「まあ、しかし。潰される直前、わたくしとクーガーの方へ、敵の情報を送ってくれました。これで二の轍を踏むことはまず、ございません。
とは言え情報によれば、克大火様以外にもわたくし共の弱点とする、雷の術を使う人間がいるとのこと。であれば予想以上に早く、ゴーレムたちの防衛網は突破されてしまうでしょう」
「ど、どうするんだ!?」
狼狽するアバントに対し、ジャガーはニコニコと笑っている。
「迎撃いたします。クーガー、お願いいたします」
「承知いたしました、ジャガー」
ジャガーとクーガーは互いにぺこりと頭を下げ、クーガーはその場を離れた。
「……もうお前らのうち、一人が消えたのか。200だの300だのと言っていたのに」
「最初から、マスタングは情報収集および解析のための要員でございました故。いわゆる『当て馬』でございます」
「お前ら……。仲間を捨て駒にするとは」
「クスクスクスクス」
アバントの言葉に、ジャガーは気味の悪い笑いを浮かべる。
「あなた様も、同じではないですか。雇い主を拉致し、かつての同僚も手にかけ……」「やめろッ!」
アバントは思わず、ジャガーの頬を引っぱたいていた。
「何をなさいますか」
「お、俺の前で、あいつの話は、するな……ッ!」
「あいつとは、クリオ・ジョーヌ氏のことでございましょうか。それとも、ティナ・サフラン氏の……」「やめろと言ったのが聞こえなかったのか!?」
アバントはブルブルと震え、通路の手すりにしがみついた。
「俺は、俺は……っ!」
と、そこでジャガーが、突然天井へと跳んだ。
「え……?」
アバントは突然消えたジャガーを見つけようと、辺りをきょろきょろと見回す。
と、視界の端――空中通路の、総裁室へつながる地点から、二人の男が近付いてくるのを捉えた。
「……っ」
「アバント・スパスさんですね? 私はランド・ファスタです。
あなたから受け取った手紙に従い、こうしてこちらまで伺いましたが、工場内に入ってからの対応を見るに、あなたはどうやら、姉弟の引き渡しや、交渉をするつもりは無いようですね。
ご同行を願います。抵抗される場合、実力行使もやむなしと考えています」
そうランドが告げたところで、大火がずい、と前に出て刀を向けた。
「そう言うわけだ。大人しく投降しろ」
だが――アバントはそれに従わず、真っ白な「ティナ」から預かったあの剣、「バニッシャー」を構えた。
「こっ、断る! それ以上近付くな! 近付いたら斬るぞ!」
しかし、大火はそれに耳を貸さない。
「ランド。生きていれば構わんな?」
「ああ。口が利ける程度であれば、多少は傷を負わせていい」
「分かった」
百戦錬磨、古今無双の猛者である大火は、剣を構えてはいても、ブルブルと震えるアバントを、まったく敵などとは見ていなかった。
大火にとってそれは、縁日での射的や酒場でのダーツ遊びの如く、何ら危険要素の無い、他愛も無い遊び同然の戦闘だったのだろう。
だからこそ大火は、一直線にアバントの間合いまで踏み込み、何の疑いもなしに、袈裟斬りにアバントの肩を狙ったのだ。
だからこそ、アバントが「バニッシャー」を振り上げても、大火はまるで警戒しなかった。
自慢の神器「黒花刀 夜桜」を以てすれば、剣ごとアバントを叩き斬るのは容易だと考え、そのまま振り下ろしてしまった。
その後の流れは、だからこそ、必然と言えた。
「え?」
その言葉は、いつも仏頂面で平然としている大火には、似つかわしくない疑問符だった。
「ばかな」
大火の右側面を、「バニッシャー」によって断ち切られた「夜桜」の破片が、くるくると回って飛んでいく。
チン、と高い音を立てて、破片は通路の淵で一度跳ね、そのまま下へと落ちていく。
「う、ぐ……っ」
一瞬の間を置いて、通路には続いて、大量の血が飛び散った。
「は、ははは、はは……、や、やった、やったぞ!」
アバントはずるりと、大火の脇腹から「バニッシャー」を引き抜いた。
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大火の弱点。
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倉庫を抜け出したところで、フォコたちは溶鉱炉の前に出た。
「う、わ……」
「こりゃ、きつい、ってか、ヤバっ」
溶鉱炉周辺は、視界がかすむほどの毒ガスが充満していた。
「も、戻って戻って! マフスさん、お願いします!」
慌てて引き返し、マフスに浄化術を発動してもらってからもう一度、溶鉱炉へと向かう。
「……ぶはあっ! し、死ぬかと思った」
「こ、コレはたまんないわね」
大火が急激なエネルギーの上昇、即ち加熱にも弱いと言っていた通り、溶鉱炉の周辺に「工員」の姿は無い。
「居てへんで良かった。こんなところで戦闘しとったら、敵にやられる前に死んでまうわ……」
「ホントだよ。……あれ?」
と、上を向いたランニャが、天井近くに張られた通路に、何らかの影を見つける。
「ねえフォコくん、アレって」
「ん……?」
ランニャが指し示した方を見てみると、フォコにも確かに、影のようなものが確認できた。
その、空中通路。
「あらあらあらあら」
唐突に、ジャガーが口を開く。
「な、なんだ? どうした?」
「マスタングが潰されました」
「何だと!?」
「まあ、しかし。潰される直前、わたくしとクーガーの方へ、敵の情報を送ってくれました。これで二の轍を踏むことはまず、ございません。
とは言え情報によれば、克大火様以外にもわたくし共の弱点とする、雷の術を使う人間がいるとのこと。であれば予想以上に早く、ゴーレムたちの防衛網は突破されてしまうでしょう」
「ど、どうするんだ!?」
狼狽するアバントに対し、ジャガーはニコニコと笑っている。
「迎撃いたします。クーガー、お願いいたします」
「承知いたしました、ジャガー」
ジャガーとクーガーは互いにぺこりと頭を下げ、クーガーはその場を離れた。
「……もうお前らのうち、一人が消えたのか。200だの300だのと言っていたのに」
「最初から、マスタングは情報収集および解析のための要員でございました故。いわゆる『当て馬』でございます」
「お前ら……。仲間を捨て駒にするとは」
「クスクスクスクス」
アバントの言葉に、ジャガーは気味の悪い笑いを浮かべる。
「あなた様も、同じではないですか。雇い主を拉致し、かつての同僚も手にかけ……」「やめろッ!」
アバントは思わず、ジャガーの頬を引っぱたいていた。
「何をなさいますか」
「お、俺の前で、あいつの話は、するな……ッ!」
「あいつとは、クリオ・ジョーヌ氏のことでございましょうか。それとも、ティナ・サフラン氏の……」「やめろと言ったのが聞こえなかったのか!?」
アバントはブルブルと震え、通路の手すりにしがみついた。
「俺は、俺は……っ!」
と、そこでジャガーが、突然天井へと跳んだ。
「え……?」
アバントは突然消えたジャガーを見つけようと、辺りをきょろきょろと見回す。
と、視界の端――空中通路の、総裁室へつながる地点から、二人の男が近付いてくるのを捉えた。
「……っ」
「アバント・スパスさんですね? 私はランド・ファスタです。
あなたから受け取った手紙に従い、こうしてこちらまで伺いましたが、工場内に入ってからの対応を見るに、あなたはどうやら、姉弟の引き渡しや、交渉をするつもりは無いようですね。
ご同行を願います。抵抗される場合、実力行使もやむなしと考えています」
そうランドが告げたところで、大火がずい、と前に出て刀を向けた。
「そう言うわけだ。大人しく投降しろ」
だが――アバントはそれに従わず、真っ白な「ティナ」から預かったあの剣、「バニッシャー」を構えた。
「こっ、断る! それ以上近付くな! 近付いたら斬るぞ!」
しかし、大火はそれに耳を貸さない。
「ランド。生きていれば構わんな?」
「ああ。口が利ける程度であれば、多少は傷を負わせていい」
「分かった」
百戦錬磨、古今無双の猛者である大火は、剣を構えてはいても、ブルブルと震えるアバントを、まったく敵などとは見ていなかった。
大火にとってそれは、縁日での射的や酒場でのダーツ遊びの如く、何ら危険要素の無い、他愛も無い遊び同然の戦闘だったのだろう。
だからこそ大火は、一直線にアバントの間合いまで踏み込み、何の疑いもなしに、袈裟斬りにアバントの肩を狙ったのだ。
だからこそ、アバントが「バニッシャー」を振り上げても、大火はまるで警戒しなかった。
自慢の神器「黒花刀 夜桜」を以てすれば、剣ごとアバントを叩き斬るのは容易だと考え、そのまま振り下ろしてしまった。
その後の流れは、だからこそ、必然と言えた。
「え?」
その言葉は、いつも仏頂面で平然としている大火には、似つかわしくない疑問符だった。
「ばかな」
大火の右側面を、「バニッシャー」によって断ち切られた「夜桜」の破片が、くるくると回って飛んでいく。
チン、と高い音を立てて、破片は通路の淵で一度跳ね、そのまま下へと落ちていく。
「う、ぐ……っ」
一瞬の間を置いて、通路には続いて、大量の血が飛び散った。
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