「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・昔讐記 9
フォコの話、327話目。
物理学実験対決。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
9.
「しぇあッ! りゃあッ! せやあッ!」
二刀流で攻め立てるクーガーの前に、フォコたちは苦戦していた。
「くそ、速えぇ……!」
レブやランニャが攻撃しようとしても、恐ろしく動きが速く、捉えきれない。何とかすれ違いざまに斬り付けても、ガリガリと金属音が鳴るばかりで、一向に致命傷に至らない。それどころか――。
「あ、ああっ!?」
「どうした!?」
「剣、折れた……」
「マジかよ……」
マスタング同様、クーガーも体内に鋼芯を埋め込まれているらしく、斬り付けた剣の方が痛むと言う有様だった。
一方、マスタングには有効だった雷の術も――。
「ああっ、もう! 何でまっすぐ行かないのよ!?」
どうやらフォコたちが3階へ上がる前に、何らかの細工がされていたらしい。電撃は一向にクーガーへ向かうことなく、ぐねぐねと軌道を曲げ、壁や床に落ちていく。
「ほんなら、僕がッ! 『ファイアランス』!」
フォコの放った炎の槍も、クーガーはひらりとかわしていく。
「あなた方の攻撃手段はすべて、解析済みでございます。
物理攻撃は元より、関節部分以外には対して効き目はございませんし、そこを狙った攻撃のみかわせば、問題は無し。
雷の術に関しては、電気の性質を利用すれば回避は容易なこと。周辺に磁性体を撒いておきました故、わたくしに当てることは非常に困難。
火の術もまた然り。高エネルギーで指向性の強い術は、極めて直線的な軌道になる。目と手、体の動きを観察すれば、どこへ発射されるかは明確。また『ブレイズウォール』など、一定の範囲に渡って火を撒く術に関しても、この接近戦で使用すれば、自身にダメージを受けることは明白、よって使うことはありえない。
さあ、他にわたくしを倒す手立てはございますか」
クーガーの言う通り、フォコたちの得意とする攻撃手段はすべて、封じられてしまっている。
打つ手が無くなり、フォコたちは立ちすくむしかなかった。
「それではお覚悟のほど、よろしくお願いいたします」
クーガーは両手に握った剣を掲げ、威圧の姿勢を執った。
と――どこからか、声が飛んできた。
「『レイブンストーム』!」
次の瞬間、クーガーの左側面から大量の、黒い何かが飛んでくる。
「わ、わ、わ、わわわわ」
大火の「五月雨」以上の猛烈な連射に、クーガーの体勢は崩れ、その場から吹き飛ぶ。
「大層な講釈、ご苦労さん。お返しに私も、いっちょ授業をしてあげようかね」
掃射された方角から、いかにも魔法使い然とした風体の、赤毛の長耳が現れた。
「も、モールさん!」
「待たせたね。ま、話は後だ。そこのピエロちゃんを、ちゃっちゃとやっつけたげるね」
「あなたが、モール・リッチ、でございますか」
弾き飛ばされたクーガーが、横になったままそう尋ねる。
だがモールは答える代わりに、「授業」を開始した。
「まず一個目」
モールは魔杖「ナインテール」をクーガーに向けながら、距離を詰めていく。
「薄い金属板や液化した金属を、強力な衝撃波とか遠心力とかで弾き飛ばすと、面白いコトになる。丁度、今のキミみたいにね」
「これ、でしょうか」
クーガーは自分の体に張り付いた、薄い金属板をはがそうとする。
だが板は幾重にも折り重なり、関節を曲げることを阻害しているため、はがせるほどの力を発生させるに至らない。
それどころか立ち上がることすらできず、浜辺に打ち上げられた海老のように、ピクピクとしか動けないでいる。
「今回用いたのは、土の術で周囲から精製した軟鉄。そう、キミが撒いたって言う磁性体だね。ソレを、キミにこれでもかって貼り付けてやった。遠目に見ると鴉の大群に見えたろ? だから『レイブン(鴉)』って名付けたんだけども、ま、ソコはどーでもいーから飛ばすね。
やらかい金属を硬いモノに超スピードでぶつけると、そんな風にぺっちゃりと貼り付いて硬化するのさ。もっとも、ふつーの人間や何かにこんなもん浴びせたら、固まる前にミンチになっちゃうし、むしろこの術の本来の使い方はそっちなんだけどね」
ニヤニヤとフォコたちに笑いかけながら、モールはさらにクーガーとの距離を詰める。
「二個目。下の溶鉱炉を見ても分かるように、キミたちゴーレムの体は可燃性の、ミスリル化珪素で形成されてる。
珪素(シリコン)、つまり不導体だけども、コレ自体はあるエネルギー波の影響を受けない。でも今のキミみたいに大量の導体、即ち軟鉄に囲まれてる状態で『ソレ』を浴びたら、どーなるかなー?」
「導体に干渉する、あるエネルギー波、……え、……ああああ」
クーガーの目にはじめて、恐怖の色が浮かぶ。
「答えはマイクロ波。……『ジャガーノート』!」
モールが呪文を唱えた瞬間、クーガーの体全体に、ビチビチっと気味の悪い音を立てて火花が走り、瞬時に燃え上がった。
「くぎゅううううううええええええ」
軟鉄の板に包まれたクーガーの体のあちこちから、ほとんど真っ白に近い炎が噴き上がる。10秒と経たず、クーガーはその場から蒸発した。
「ピエロの包み焼き、完成だね。
以上、本日の講義は終わりってね。なんか質問は? されても困るけど」
モールはニヤニヤ笑いながらそう尋ねたが、フォコたちはモールが何を言っているのか分からず、呆然としていた。
「……今のん、分かった?」
「分かんない」
「分かんなくていい。どーせ後300年は使わない知識だしね」
モールは残った鉄板の残骸を魔杖の先で突きながら、ケタケタと笑っていた。
@au_ringさんをフォロー
物理学実験対決。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
9.
「しぇあッ! りゃあッ! せやあッ!」
二刀流で攻め立てるクーガーの前に、フォコたちは苦戦していた。
「くそ、速えぇ……!」
レブやランニャが攻撃しようとしても、恐ろしく動きが速く、捉えきれない。何とかすれ違いざまに斬り付けても、ガリガリと金属音が鳴るばかりで、一向に致命傷に至らない。それどころか――。
「あ、ああっ!?」
「どうした!?」
「剣、折れた……」
「マジかよ……」
マスタング同様、クーガーも体内に鋼芯を埋め込まれているらしく、斬り付けた剣の方が痛むと言う有様だった。
一方、マスタングには有効だった雷の術も――。
「ああっ、もう! 何でまっすぐ行かないのよ!?」
どうやらフォコたちが3階へ上がる前に、何らかの細工がされていたらしい。電撃は一向にクーガーへ向かうことなく、ぐねぐねと軌道を曲げ、壁や床に落ちていく。
「ほんなら、僕がッ! 『ファイアランス』!」
フォコの放った炎の槍も、クーガーはひらりとかわしていく。
「あなた方の攻撃手段はすべて、解析済みでございます。
物理攻撃は元より、関節部分以外には対して効き目はございませんし、そこを狙った攻撃のみかわせば、問題は無し。
雷の術に関しては、電気の性質を利用すれば回避は容易なこと。周辺に磁性体を撒いておきました故、わたくしに当てることは非常に困難。
火の術もまた然り。高エネルギーで指向性の強い術は、極めて直線的な軌道になる。目と手、体の動きを観察すれば、どこへ発射されるかは明確。また『ブレイズウォール』など、一定の範囲に渡って火を撒く術に関しても、この接近戦で使用すれば、自身にダメージを受けることは明白、よって使うことはありえない。
さあ、他にわたくしを倒す手立てはございますか」
クーガーの言う通り、フォコたちの得意とする攻撃手段はすべて、封じられてしまっている。
打つ手が無くなり、フォコたちは立ちすくむしかなかった。
「それではお覚悟のほど、よろしくお願いいたします」
クーガーは両手に握った剣を掲げ、威圧の姿勢を執った。
と――どこからか、声が飛んできた。
「『レイブンストーム』!」
次の瞬間、クーガーの左側面から大量の、黒い何かが飛んでくる。
「わ、わ、わ、わわわわ」
大火の「五月雨」以上の猛烈な連射に、クーガーの体勢は崩れ、その場から吹き飛ぶ。
「大層な講釈、ご苦労さん。お返しに私も、いっちょ授業をしてあげようかね」
掃射された方角から、いかにも魔法使い然とした風体の、赤毛の長耳が現れた。
「も、モールさん!」
「待たせたね。ま、話は後だ。そこのピエロちゃんを、ちゃっちゃとやっつけたげるね」
「あなたが、モール・リッチ、でございますか」
弾き飛ばされたクーガーが、横になったままそう尋ねる。
だがモールは答える代わりに、「授業」を開始した。
「まず一個目」
モールは魔杖「ナインテール」をクーガーに向けながら、距離を詰めていく。
「薄い金属板や液化した金属を、強力な衝撃波とか遠心力とかで弾き飛ばすと、面白いコトになる。丁度、今のキミみたいにね」
「これ、でしょうか」
クーガーは自分の体に張り付いた、薄い金属板をはがそうとする。
だが板は幾重にも折り重なり、関節を曲げることを阻害しているため、はがせるほどの力を発生させるに至らない。
それどころか立ち上がることすらできず、浜辺に打ち上げられた海老のように、ピクピクとしか動けないでいる。
「今回用いたのは、土の術で周囲から精製した軟鉄。そう、キミが撒いたって言う磁性体だね。ソレを、キミにこれでもかって貼り付けてやった。遠目に見ると鴉の大群に見えたろ? だから『レイブン(鴉)』って名付けたんだけども、ま、ソコはどーでもいーから飛ばすね。
やらかい金属を硬いモノに超スピードでぶつけると、そんな風にぺっちゃりと貼り付いて硬化するのさ。もっとも、ふつーの人間や何かにこんなもん浴びせたら、固まる前にミンチになっちゃうし、むしろこの術の本来の使い方はそっちなんだけどね」
ニヤニヤとフォコたちに笑いかけながら、モールはさらにクーガーとの距離を詰める。
「二個目。下の溶鉱炉を見ても分かるように、キミたちゴーレムの体は可燃性の、ミスリル化珪素で形成されてる。
珪素(シリコン)、つまり不導体だけども、コレ自体はあるエネルギー波の影響を受けない。でも今のキミみたいに大量の導体、即ち軟鉄に囲まれてる状態で『ソレ』を浴びたら、どーなるかなー?」
「導体に干渉する、あるエネルギー波、……え、……ああああ」
クーガーの目にはじめて、恐怖の色が浮かぶ。
「答えはマイクロ波。……『ジャガーノート』!」
モールが呪文を唱えた瞬間、クーガーの体全体に、ビチビチっと気味の悪い音を立てて火花が走り、瞬時に燃え上がった。
「くぎゅううううううええええええ」
軟鉄の板に包まれたクーガーの体のあちこちから、ほとんど真っ白に近い炎が噴き上がる。10秒と経たず、クーガーはその場から蒸発した。
「ピエロの包み焼き、完成だね。
以上、本日の講義は終わりってね。なんか質問は? されても困るけど」
モールはニヤニヤ笑いながらそう尋ねたが、フォコたちはモールが何を言っているのか分からず、呆然としていた。
「……今のん、分かった?」
「分かんない」
「分かんなくていい。どーせ後300年は使わない知識だしね」
モールは残った鉄板の残骸を魔杖の先で突きながら、ケタケタと笑っていた。
- 関連記事
-
-
火紅狐・昔讐記 11 2011/10/30
-
火紅狐・昔讐記 10 2011/10/29
-
火紅狐・昔讐記 9 2011/10/28
-
火紅狐・昔讐記 8 2011/10/27
-
火紅狐・昔讐記 7 2011/10/26
-



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~