「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・昔讐記 11
フォコの話、329話目。
灼熱の黄金卿。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
11.
「なっ、……!?」
フォコは耳と目から入ってきた、どちらの情報に対しても驚愕していた。
しかし無理矢理に冷静さを取り戻し、とっさに火球をかわして、もう一度尋ねる。
「い、今、何て言うた!? ティナのことか!?」
「そうだよ、ボンクラあッ! この俺が、ティナをブッ殺したんだよッ!
お前もとっとと後を追え、『ファイアボール』!」
アバントは立て続けに、火の術でフォコを狙う。
「ホンマに……、ホンマにっ……! お前が殺したんか!?」
「何べん言えば分かる? 脳みそが塩漬けにでもなっちまってんのか?
分かんなきゃ、何度でも言ってやるぜ? 俺だよ! 俺が! ここから! あいつを突き落したんだよッ!」
何度言われても、フォコの頭の奥に、その言葉が入っていかない。
いや、無意識に拒否しているのだ――自分の最愛の人、ティナが死んだと言うその情報を。
「アホな……! 何で、何で……っ!」
「火紅! ボーっとしてる場合じゃない! ……ええいくそ、こうなりゃ」
遠巻きに見ていたモールが飛び出そうとしたところで、それをランニャが止める。
「やめて」
「何で止めるね!?」
「フォコくんの戦いなんだ。大丈夫、あいつは勝つよ」
「……」
モールはランニャの手を振りほどくのをやめ、そのまま立ち止まる。
「……勝つって、信じてるから」
フォコが知る限り、アバントに魔術の素質は皆無だった。
しかし今、目の前にいるこの老いたアバントは、事もなげに火球を打ち出してくる。
「どうしたホコウ? ヨメさんの仇だぜ、俺は? 来いよ、一騎打ちだ!」
「……ううう」
フォコの口から、勝手に声が漏れてくる。
それは怒りと悲しみとが混じり合った、激情と混乱の叫びだった。
「うああ、ああああーッ!」
フォコも魔杖をかざし、アバントに向かって火の槍を撃ち込む。
「『ファイアランス』、あいつを消せええええーッ!」
フォコの怒りが込められた魔術の塊は、アバントの頬をかすめて飛んで行った。
「うおお!? ……な、なんて威力だ!?」
「許さへん、許さへんぞアバント! お前だけは、僕がこの手で地獄に送ってやるうあああああッ!」
アバントが怯んだ隙に、フォコは剣を振り上げて突撃する。
「く……ッ」
アバントもとっさに「バニッシャー」を構え、攻撃を防ぐ。
「お前は骨も残さへん……! 残してたまるか……! 『ファイアランス』!」
離れざまに、フォコはまた高出力の術を放つ。
激情に任せて放たれた火の槍は、工場のあちこちに衝突していく。
「お、おい! やめろ、それ以上撃ったら引火しちまう! お前もただじゃ……!」「死ねええええッ!」
元々、フォコを挑発して前後不覚にさせ、そこを突く作戦だったのだろうが、アバントのこの企みは逆効果となった。
怒りに我を忘れ、復讐鬼と化したフォコの魔力は、アバントの予想と対応力をはるかに超えていたからだ。
「ひっ……!」
フォコの放った火の槍がぢりっ、と音を立ててアバントの頭をかすめ、残り少ない髪の毛を焦がす。
「わ、分かった! 俺の負けだ! 投降する!」「知るかボケえええッ! ここで死ねええーッ!」
アバントが泣きを入れても、フォコは止まろうとしない。
と――ボン、と何かが破裂する音が、工場のあちこちから響いた。
怒りで自失状態だったフォコも、その音で動きを止めた。
「……!?」
「い、言わんこっちゃねえ! てめえの術が、引火しやがったんだ!」
そう言われ、フォコは下を向く。
「……っ!」
鈍色に光っていた溶鉱炉が、いつの間にか炎の海と化している。どうやらミスリル化珪素の原料を流し込むパイプに「ファイアランス」が直撃し、そこから引火したようだった。
下の溶鉱炉、そして側面の壁に広がる地獄絵図に、フォコは一瞬気を取られてしまう。
「『ファイアボール』!」
その一瞬を狙い、アバントが火球を放った。
「しまっ……!」
叫び切る間もなく、アバントの術はフォコの肩を直撃する。
「ぐあ……っ」
フォコはこらえきれず、その場に尻餅をついた。
「へへ、へ、へへ……」
アバントは勝利を確信し、フォコへと近付いた。
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「なっ、……!?」
フォコは耳と目から入ってきた、どちらの情報に対しても驚愕していた。
しかし無理矢理に冷静さを取り戻し、とっさに火球をかわして、もう一度尋ねる。
「い、今、何て言うた!? ティナのことか!?」
「そうだよ、ボンクラあッ! この俺が、ティナをブッ殺したんだよッ!
お前もとっとと後を追え、『ファイアボール』!」
アバントは立て続けに、火の術でフォコを狙う。
「ホンマに……、ホンマにっ……! お前が殺したんか!?」
「何べん言えば分かる? 脳みそが塩漬けにでもなっちまってんのか?
分かんなきゃ、何度でも言ってやるぜ? 俺だよ! 俺が! ここから! あいつを突き落したんだよッ!」
何度言われても、フォコの頭の奥に、その言葉が入っていかない。
いや、無意識に拒否しているのだ――自分の最愛の人、ティナが死んだと言うその情報を。
「アホな……! 何で、何で……っ!」
「火紅! ボーっとしてる場合じゃない! ……ええいくそ、こうなりゃ」
遠巻きに見ていたモールが飛び出そうとしたところで、それをランニャが止める。
「やめて」
「何で止めるね!?」
「フォコくんの戦いなんだ。大丈夫、あいつは勝つよ」
「……」
モールはランニャの手を振りほどくのをやめ、そのまま立ち止まる。
「……勝つって、信じてるから」
フォコが知る限り、アバントに魔術の素質は皆無だった。
しかし今、目の前にいるこの老いたアバントは、事もなげに火球を打ち出してくる。
「どうしたホコウ? ヨメさんの仇だぜ、俺は? 来いよ、一騎打ちだ!」
「……ううう」
フォコの口から、勝手に声が漏れてくる。
それは怒りと悲しみとが混じり合った、激情と混乱の叫びだった。
「うああ、ああああーッ!」
フォコも魔杖をかざし、アバントに向かって火の槍を撃ち込む。
「『ファイアランス』、あいつを消せええええーッ!」
フォコの怒りが込められた魔術の塊は、アバントの頬をかすめて飛んで行った。
「うおお!? ……な、なんて威力だ!?」
「許さへん、許さへんぞアバント! お前だけは、僕がこの手で地獄に送ってやるうあああああッ!」
アバントが怯んだ隙に、フォコは剣を振り上げて突撃する。
「く……ッ」
アバントもとっさに「バニッシャー」を構え、攻撃を防ぐ。
「お前は骨も残さへん……! 残してたまるか……! 『ファイアランス』!」
離れざまに、フォコはまた高出力の術を放つ。
激情に任せて放たれた火の槍は、工場のあちこちに衝突していく。
「お、おい! やめろ、それ以上撃ったら引火しちまう! お前もただじゃ……!」「死ねええええッ!」
元々、フォコを挑発して前後不覚にさせ、そこを突く作戦だったのだろうが、アバントのこの企みは逆効果となった。
怒りに我を忘れ、復讐鬼と化したフォコの魔力は、アバントの予想と対応力をはるかに超えていたからだ。
「ひっ……!」
フォコの放った火の槍がぢりっ、と音を立ててアバントの頭をかすめ、残り少ない髪の毛を焦がす。
「わ、分かった! 俺の負けだ! 投降する!」「知るかボケえええッ! ここで死ねええーッ!」
アバントが泣きを入れても、フォコは止まろうとしない。
と――ボン、と何かが破裂する音が、工場のあちこちから響いた。
怒りで自失状態だったフォコも、その音で動きを止めた。
「……!?」
「い、言わんこっちゃねえ! てめえの術が、引火しやがったんだ!」
そう言われ、フォコは下を向く。
「……っ!」
鈍色に光っていた溶鉱炉が、いつの間にか炎の海と化している。どうやらミスリル化珪素の原料を流し込むパイプに「ファイアランス」が直撃し、そこから引火したようだった。
下の溶鉱炉、そして側面の壁に広がる地獄絵図に、フォコは一瞬気を取られてしまう。
「『ファイアボール』!」
その一瞬を狙い、アバントが火球を放った。
「しまっ……!」
叫び切る間もなく、アバントの術はフォコの肩を直撃する。
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