「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・昔讐記 12
フォコの話、330話目。
燃え落ちた結末。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
12.
その時――。
「……う、……なんだ?」
アバントがフラ、とよろける。
どうにか立ち上がったフォコは、アバントを見て硬直した。
「……え……」
アバントのすぐ後ろに、人が立っているのが見えたからだ。
「なんら……? あたまが、いた……っ」
アバントの呂律がおかしくなり、がくんと膝を着く。
《……》
アバントの背後に立つその女性は、フォコを見て悲しそうな顔をした。
「い、いまがちゃんすなんら……。ほこうろぶっころる……ひゃんす……」
アバントは無理矢理立ち上がろうとし、また体勢を崩す。
《……ん……ね……》
フォコはその時、確かに女性の声を聴いた。
それは懐かしく、この10年近くもの間、ずっと聴きたかった声だった。
「……うあ……んふ……なん……ら……」
次の瞬間、女性は再び立ち上がりかけたアバントを、羽交い絞めにした。
「うえ……かららら……うろか……ね……」
そしてフォコに向かって、女性はこう言って――。
《ごめんね……さよなら》
「……ティナ……!」
フォコが立ち上がると同時に、女性も、アバントも、通路から飛んで行った。

「あ、あいつ!? 自分から落っこちたぞ!?」
成り行きを見守っていたランニャたちは、アバントがふらふらと倒れこみ、空中通路から落ちて行くのを見ていた。
「あーあ……、ありゃ毒ガスの吸い過ぎだね。
脳みそが比喩じゃなく、マジで溶けてたんだろうね。多分平衡感覚やら言語機能やら、全部頭蓋の中でシェイクされてブッ壊れてたろうね、あの様子じゃ」
「うげぇ、キモっ。……って、講釈聞いてる場合じゃない! 早くフォコくん、助けに行こう!」
「あ、そうだったそうだった。私は克の方助けに行くよ。動けそうにないっぽいし」
ドタドタと仲間たちが駆け付ける音で、フォコは我に返った。
「……いたんや……」
「え? 何が?」
手を差し伸べたランニャに、フォコはぼそっと返した。
「……今、見たんや。通路の上に、……ティナが」
「何言ってんだよ! 君もガスの吸い過ぎだ! 早くここから脱出しないと!」
「いたんや……」
そう繰り返すフォコに構わず、ランニャとレブは彼に肩を貸して、無理矢理に立たせる。
「確保した! そっちはどうだ!?」
「全身大火傷だね。しかも腹に穴まで開いてるし。よくコレで生きてられるね、ホント。……っと、ソレどこじゃないね。
克、術は使えそう!?」
「……」
「ダメだ、気絶してる。……んじゃ、勝手に調べさせてもらうよ」
モールは大火のコートを調べ、紫と金に輝く手帳を見つけた。
「へー、こんなのあるんだねぇ。便利なもんだ」
「……?」
傍らにいたランドには、モールが何を感じ取ったのかは理解できなかった。
「克、悪いけどキミの『神器』、勝手に使わせてもらうね。
全員コッチ集合! 術で脱出するね!」
全員が集まったところで、モールは「目録」を掲げ、呪文を発動した。
「『テレポート』!」
その場から脱出すると同時に溶鉱炉と工場全体のパイプが爆発し、空中通路を飲み込んだ。
一行は工場から大分離れた、郊外の丘に瞬間移動していた。
「うわ……、すげー爆発」
燃え盛る工場を眺め、レブがつぶやく。
「本当、……恐ろしい光景ですね」
その横にいたマフスが、レブの手を取る。
「ん?」
「まだ心の中が落ち着きません。握っていてくれますか?」
「いいけど」
その背後で、モールが癒しの術を使い、大火を蘇生させる。
「……げほ、ごほっ」
「よお克、しぶといね」
「……お前が助けてくれたか。感謝する」
「へへ、一つ貸しだね」
一方、ランニャはいまだ呆然自失のフォコに声をかける。
「フォコくん、大丈夫?」
「……」
「大丈夫かってば!」
「……あ、うん。……肩がめっちゃ痛い」
「焼けちゃってるもんな、ローブ。マフス呼んでこようか? モールさんは忙しそうだし」
「いや、後でええ。……なあ、ランニャ」
フォコはくい、とランニャの服の裾をつかんだ。
「何? どしたの?」
「……ホンマに、いたんや」
「ゴメン、フォコくん。あたしには、……見えなかったんだ。モールさんにも、見えてなかったみたいだよ」
「……それでも、僕は確かに、見たんや。ティナが、僕を助けてくれた」
「そっか。……そうかもね」
「……っく」
フォコは顔を伏せ、ランニャの裾をつかんだまま、嗚咽の声を漏らす。
「……ひっく、……ぐす、……ぐすっ、……ホンマに、ホンマに死んだんやな……」
「フォコくん……」
「……うう、ああああー……っ」
泣き叫ぶフォコを、ランニャは優しく抱きしめることしかできなかった。
火紅狐・昔讐記 終
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燃え落ちた結末。
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12.
その時――。
「……う、……なんだ?」
アバントがフラ、とよろける。
どうにか立ち上がったフォコは、アバントを見て硬直した。
「……え……」
アバントのすぐ後ろに、人が立っているのが見えたからだ。
「なんら……? あたまが、いた……っ」
アバントの呂律がおかしくなり、がくんと膝を着く。
《……》
アバントの背後に立つその女性は、フォコを見て悲しそうな顔をした。
「い、いまがちゃんすなんら……。ほこうろぶっころる……ひゃんす……」
アバントは無理矢理立ち上がろうとし、また体勢を崩す。
《……ん……ね……》
フォコはその時、確かに女性の声を聴いた。
それは懐かしく、この10年近くもの間、ずっと聴きたかった声だった。
「……うあ……んふ……なん……ら……」
次の瞬間、女性は再び立ち上がりかけたアバントを、羽交い絞めにした。
「うえ……かららら……うろか……ね……」
そしてフォコに向かって、女性はこう言って――。
《ごめんね……さよなら》
「……ティナ……!」
フォコが立ち上がると同時に、女性も、アバントも、通路から飛んで行った。

「あ、あいつ!? 自分から落っこちたぞ!?」
成り行きを見守っていたランニャたちは、アバントがふらふらと倒れこみ、空中通路から落ちて行くのを見ていた。
「あーあ……、ありゃ毒ガスの吸い過ぎだね。
脳みそが比喩じゃなく、マジで溶けてたんだろうね。多分平衡感覚やら言語機能やら、全部頭蓋の中でシェイクされてブッ壊れてたろうね、あの様子じゃ」
「うげぇ、キモっ。……って、講釈聞いてる場合じゃない! 早くフォコくん、助けに行こう!」
「あ、そうだったそうだった。私は克の方助けに行くよ。動けそうにないっぽいし」
ドタドタと仲間たちが駆け付ける音で、フォコは我に返った。
「……いたんや……」
「え? 何が?」
手を差し伸べたランニャに、フォコはぼそっと返した。
「……今、見たんや。通路の上に、……ティナが」
「何言ってんだよ! 君もガスの吸い過ぎだ! 早くここから脱出しないと!」
「いたんや……」
そう繰り返すフォコに構わず、ランニャとレブは彼に肩を貸して、無理矢理に立たせる。
「確保した! そっちはどうだ!?」
「全身大火傷だね。しかも腹に穴まで開いてるし。よくコレで生きてられるね、ホント。……っと、ソレどこじゃないね。
克、術は使えそう!?」
「……」
「ダメだ、気絶してる。……んじゃ、勝手に調べさせてもらうよ」
モールは大火のコートを調べ、紫と金に輝く手帳を見つけた。
「へー、こんなのあるんだねぇ。便利なもんだ」
「……?」
傍らにいたランドには、モールが何を感じ取ったのかは理解できなかった。
「克、悪いけどキミの『神器』、勝手に使わせてもらうね。
全員コッチ集合! 術で脱出するね!」
全員が集まったところで、モールは「目録」を掲げ、呪文を発動した。
「『テレポート』!」
その場から脱出すると同時に溶鉱炉と工場全体のパイプが爆発し、空中通路を飲み込んだ。
一行は工場から大分離れた、郊外の丘に瞬間移動していた。
「うわ……、すげー爆発」
燃え盛る工場を眺め、レブがつぶやく。
「本当、……恐ろしい光景ですね」
その横にいたマフスが、レブの手を取る。
「ん?」
「まだ心の中が落ち着きません。握っていてくれますか?」
「いいけど」
その背後で、モールが癒しの術を使い、大火を蘇生させる。
「……げほ、ごほっ」
「よお克、しぶといね」
「……お前が助けてくれたか。感謝する」
「へへ、一つ貸しだね」
一方、ランニャはいまだ呆然自失のフォコに声をかける。
「フォコくん、大丈夫?」
「……」
「大丈夫かってば!」
「……あ、うん。……肩がめっちゃ痛い」
「焼けちゃってるもんな、ローブ。マフス呼んでこようか? モールさんは忙しそうだし」
「いや、後でええ。……なあ、ランニャ」
フォコはくい、とランニャの服の裾をつかんだ。
「何? どしたの?」
「……ホンマに、いたんや」
「ゴメン、フォコくん。あたしには、……見えなかったんだ。モールさんにも、見えてなかったみたいだよ」
「……それでも、僕は確かに、見たんや。ティナが、僕を助けてくれた」
「そっか。……そうかもね」
「……っく」
フォコは顔を伏せ、ランニャの裾をつかんだまま、嗚咽の声を漏らす。
「……ひっく、……ぐす、……ぐすっ、……ホンマに、ホンマに死んだんやな……」
「フォコくん……」
「……うう、ああああー……っ」
泣き叫ぶフォコを、ランニャは優しく抱きしめることしかできなかった。
火紅狐・昔讐記 終
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「アリとアリクイ」の夜市様より、挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
「アリとアリクイ」の夜市様より、挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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