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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・抱罪記 1

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    フォコの話、331話目。
    療養と報告。

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    1.
     アバントとの戦いが終わり、フォコはセラーパークに新しく建てられたエール家屋敷に留まり、療養していた。

     戦いで負った刀傷や火傷はモールの術で治ったものの、その心にはぽっかりと、大穴が開いていた。
     最愛の人が死んだと、殺した張本人から聞かされたフォコのショックは相当なものであり、到底すぐに央中に返って総帥の執務をこなせるような精神状態にはなく、しばらくランニャに介抱してもらいつつ、逗留することになったのだ。

     なので、本来なら誰とも会わず、安静にしているべきなのだが――。
    「いいの、本当に?」
    「ええよ。一人でおると、逆に参ってしまいそうやし」
     フォコは友人や商売仲間との会話を望み、人を呼んだ。



     最初に来てくれたのはこの屋敷の主であり、新エール家当主となったルシアンと、その姪のペルシェ。
    「君から買ったジョーヌ海運を軸にして、エール家を再興しようと思うんだ。で、軌道に乗ったら僕は隠居して、彼女にすべて引き継いでもらう予定なんだ」
    「ふむ、ええですな。となると今後は『ペルシェ・エール』と?」
    「そのつもり。まあ、父さんの苗字も捨てがたいから、まだ迷ってるんだけどね」
    「せやったら、『ペルシェ・ジョーヌ=エール』でええんやないですか?」
    「あ、いいなそれ。使わせてもらうよ。ありがとね、ホコウ兄ちゃん」
     ペルシェはにっこり笑ったかと思うと、一転、沈んだ顔になった。
    「母さんも心配してたよ。……ティナさん、亡くなってたんだってね」
    「……らしいなぁ」
    「気、落とさないでね」
    「それは難しいわ。結構、……ズキンときたからな」
    「そっか……」
     困った顔をするペルシェの頭を、フォコは優しく撫でてやった。
    「まあ、頑張りや」

     続いてやって来たのは、モール。
    「イエローコーストの屋敷で起きた事件の調査の話からなんだけどね。
     ほんのちょこっとだけ残ってた痕跡を追究してみたら、どうも克の術に似たトコがあるっぽかったんだよね。
     で、克にソレを尋ねようかと思ってコッチに来たら、あの工場に向かったって言うし。んで向かってみたら、キミたちがピンチだったから手を貸した、……ってワケさ」
    「なるほど、それでですか。助かりました、あの時は」
     フォコがぺこりと頭を下げる一方、ランニャは気にかかっていたことを質問した。
    「前にさ、南海から西方へタイカさんに連れてってもらった時、なんだっけ、『テレポート』? アレ教えてくれって言って、断られてたよね」
    「そんなコトもあったねぇ」
    「でもなんで工場から脱出した時、モールさんは『テレポート』使えたの? 後で教えてもらったりしてたのかなって」
    「あー……。んー、コレ克に内緒で言っちゃうと怒られそうだしなぁ。……内緒だよ?
     あの時私、克の懐から手帳みたいなの取り出してたの、見た?」
    「うん。なんか金ピカで、紫色の光もチラチラ見えてた」
    「アレは一種の『神器』なんだ。
     言うなれば、めちゃめちゃページ数が多くて一枚当たりの文字数が死ぬほど濃い本、みたいなもんでね。あいつが今までに研究した魔術の記録が、アレ一冊に収められてるんだよね」
    「じゃあ、その中に『テレポート』も?」
    「ああ。他にも色々と機能があってね……」「そこまでだ」
     部屋の扉を開け、大火が憮然とした顔で入ってきた。
    「ありゃ、聞かれちゃってたね」
    「……モール。貸しはあれで帳消しだぞ」
    「ま、仕方ないね」

     今度は、ランドがやって来た。
    「見つかったよ、清姉弟が」
    「無事やったんですか?」
    「ああ、かなり衰弱してたけど、命に別状は無いらしい。……ただ、残念ながら」
     ランドは肩をすくめ、二人の状態を伝える。
    「そもそもの経緯から話せば――姉弟とも、山道を歩いていたらエール氏ごと、誰かに突き落されたそうなんだ。
     そのせいで弟のミツモリくんは両脚を骨折。しかも処置が遅れたせいで、両脚とも壊死。発見された時には既に手遅れで、切り落とすしかなかったらしい。
     姉のフタバちゃんも、目の前でエール氏が死ぬところを見たのが相当ショックだったらしい。ケガ自体は大したことはないんだけど、どうしても目を開けることができなくなっちゃったんだって」
    「モールさんに治療を頼んだら?」
    「僕もそう思ってお願いしてみたんだけど、『完璧にこの世から無くなってしまったモノを元に戻すのは不可能だね。それに私の治療術は、身体的なダメージにしか効果が無い。心の病は適用外だね』だってさ」
    「そっかー……」
    「僕はこれから、二人を連れて央南に向かうよ。清王朝の後継者を保護できたし、これでようやく戦後処理ができそうだ」

     イールとレブ、マフスからも、帰郷の旨を伝えられた。
    「ずいぶん長い間、北方から遠ざかっちゃったからね。そろそろ戻らないと、将軍職から解任されかねないわ」
    「イールさんとレブさんやったら大丈夫やと思いますけどなぁ。
     マフスさんも、このまま南海へ?」
    「……えっと、その」
     と、マフスはレブの腕を取り、顔を真っ赤にして宣言した。
    「わたし、彼に付いていきます!」
    「えっ」
     目を丸くしたフォコとランニャに、レブも顔を真っ赤にしながら答える。
    「なんかさ……、ホレられた」
    「マジですか」
    「まー、いいんじゃん? でも国はどうすんの、お姫様なのに」
    「国のことは、わたしの兄や姉がおりますから。死んだ兄も含めると上から5番目なので、結構身軽なんですよ」
    「そっかー……。まあ、お幸せに」
     ランニャから祝福の言葉を受け、レブとマフスは幸せそうに笑った。
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