「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・抱罪記 2
フォコの話、332話目。
旧名宛の手紙。
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2.
皆が去り、エール家屋敷は静けさを取り戻した。
とは言え、フォコとランニャはまだ、ここに留まっていた。
「ねー、フォコくん」
「ん……?」
「いつ、央中に戻るのさ?」
「……せやね、そろそろ戻らへんとな」
そう言ってみたが、その後の言葉が続かない。
「いつくらい?」
「……いつがええかな」
「フォコくん」
ランニャはむに、とフォコの頬をつねった。
「あいたっ」
「いい加減、シャッキリしなよ。そりゃ辛いのは分かるけどさ、央中じゃ君の帰りを、今か今かって、みんな待ってるんだよ?」
「……うん。……そうやんな」
フォコは視線を落とし、ぼそぼそと、こうつぶやいた。
「……一緒に、央中に連れて帰りたかったんや。『どうや、これが僕の屋敷なんや!』って、自慢したかった。見て、喜んで欲しかったんや。それが、夢やってん。
せやのに……、その相手がもう、おらへんなんて。……このまま帰っても、何もやる気にならへんのや」
「……」
励ましも叱咤もできず、ランニャはじっとフォコの横顔を見ているしかできなかった。
と――扉がノックされ、ルシアンの声が聞こえてきた。
「ニコル卿、君に手紙が届いてるよ」
「……? 僕に、手紙?」
「ああ。宛先は『ホコウ・ソレイユ』様になってるけど」
フォコの代わりに、ランニャが扉を開け、手紙を受け取る。
「差出人は、……『チャット・ル・エジテ修道院』だって」
「修道院?」
思ってもみないところからの手紙に、フォコは首をかしげる。
「何やろ……? 寄進とかにしても、西方の人がわざわざ外国人の僕に、そんなんお願いするわけも無いし」
「開けてみたら?」
ランニャにペーパーナイフを渡され、フォコは手紙を開けた。
「ホコウ・ソレイユ様へ
突然、このような手紙をお送りすることをご容赦ください。
巷であなたのお名前を耳にし、それが以前、私共のところへ身を寄せていたご婦人がよく話していたお名前と同じだったので、もしやと思い、こうして手紙にて、ご連絡させていただきました。
お伝えしたい件がございます。よろしければ私共の教会へ、ご足労いただけませんでしょうか?
よろしくお願いいたします。
チャット・ル・エジテ修道院 院長 バネッサ・カング」
「僕の名前を……?」
手紙の内容を見ても、フォコにはまるでピンと来ない。
「ルシアンさん、この修道院て、どこにあるんです?」
「分からないな……。調べてみようか」
「ええ」
ランニャとペルシェを交え、4人で地図を探したところ、その修道院はエカルラット王国の北に位置する山国、ネージュ王国にあることが分かった。
「マチェレ王国からは、大分遠いな……。だから君の名前が伝わるのに、相当の時間がかかったんだろうな。
君が人前で、最後にホコウと名乗っていたのは、もう半年近くも前だから」
「そう言えば、もうそんなに経つんですな……。
とりあえず、行ってみましょか」
一行はネージュ王国を訪れ、その修道院に到着した。
「結構な山登りでしたな……」
「だねぇ」
自分たちが今来た道を振り返ると、雪に覆われた山道が延々と続くのが見えた。
「あの……」
と、声をかけてくる者がいる。
「お客さまでしょうか」
振り返ると、帽子をかぶった猫獣人の少女が、こちらを見上げているのが目に入った。
「あ、うん。君、この修道院の子?」
「はい。イヴォラと言います」
「そっか。イヴォラちゃん、バネッサ・カングって人、知ってはるかな?」
「……こっちです」
イヴォラはこく、とうなずき、そのまま修道院の中へと走り去ってしまった。
「ありゃ、すごい駆け足」
「人見知りさんなのかな。……フォコくん、どうかした?」
神妙な顔をしていたフォコに、ランニャが尋ねる。
「いや……、帽子、どこかで見たようなと思て」
「あの型の帽子は、西方ではメジャーな帽子だからね。ほら、リオン家のカント君も被ってたろ?」
ルシアンにそう言われ、フォコはぎこちなくうなずいた。
「まあ……、そうでしたな。どこにでもあるようなもん、……でしょうな。
寒いですし、中、行きましょか」
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旧名宛の手紙。
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皆が去り、エール家屋敷は静けさを取り戻した。
とは言え、フォコとランニャはまだ、ここに留まっていた。
「ねー、フォコくん」
「ん……?」
「いつ、央中に戻るのさ?」
「……せやね、そろそろ戻らへんとな」
そう言ってみたが、その後の言葉が続かない。
「いつくらい?」
「……いつがええかな」
「フォコくん」
ランニャはむに、とフォコの頬をつねった。
「あいたっ」
「いい加減、シャッキリしなよ。そりゃ辛いのは分かるけどさ、央中じゃ君の帰りを、今か今かって、みんな待ってるんだよ?」
「……うん。……そうやんな」
フォコは視線を落とし、ぼそぼそと、こうつぶやいた。
「……一緒に、央中に連れて帰りたかったんや。『どうや、これが僕の屋敷なんや!』って、自慢したかった。見て、喜んで欲しかったんや。それが、夢やってん。
せやのに……、その相手がもう、おらへんなんて。……このまま帰っても、何もやる気にならへんのや」
「……」
励ましも叱咤もできず、ランニャはじっとフォコの横顔を見ているしかできなかった。
と――扉がノックされ、ルシアンの声が聞こえてきた。
「ニコル卿、君に手紙が届いてるよ」
「……? 僕に、手紙?」
「ああ。宛先は『ホコウ・ソレイユ』様になってるけど」
フォコの代わりに、ランニャが扉を開け、手紙を受け取る。
「差出人は、……『チャット・ル・エジテ修道院』だって」
「修道院?」
思ってもみないところからの手紙に、フォコは首をかしげる。
「何やろ……? 寄進とかにしても、西方の人がわざわざ外国人の僕に、そんなんお願いするわけも無いし」
「開けてみたら?」
ランニャにペーパーナイフを渡され、フォコは手紙を開けた。
「ホコウ・ソレイユ様へ
突然、このような手紙をお送りすることをご容赦ください。
巷であなたのお名前を耳にし、それが以前、私共のところへ身を寄せていたご婦人がよく話していたお名前と同じだったので、もしやと思い、こうして手紙にて、ご連絡させていただきました。
お伝えしたい件がございます。よろしければ私共の教会へ、ご足労いただけませんでしょうか?
よろしくお願いいたします。
チャット・ル・エジテ修道院 院長 バネッサ・カング」
「僕の名前を……?」
手紙の内容を見ても、フォコにはまるでピンと来ない。
「ルシアンさん、この修道院て、どこにあるんです?」
「分からないな……。調べてみようか」
「ええ」
ランニャとペルシェを交え、4人で地図を探したところ、その修道院はエカルラット王国の北に位置する山国、ネージュ王国にあることが分かった。
「マチェレ王国からは、大分遠いな……。だから君の名前が伝わるのに、相当の時間がかかったんだろうな。
君が人前で、最後にホコウと名乗っていたのは、もう半年近くも前だから」
「そう言えば、もうそんなに経つんですな……。
とりあえず、行ってみましょか」
一行はネージュ王国を訪れ、その修道院に到着した。
「結構な山登りでしたな……」
「だねぇ」
自分たちが今来た道を振り返ると、雪に覆われた山道が延々と続くのが見えた。
「あの……」
と、声をかけてくる者がいる。
「お客さまでしょうか」
振り返ると、帽子をかぶった猫獣人の少女が、こちらを見上げているのが目に入った。
「あ、うん。君、この修道院の子?」
「はい。イヴォラと言います」
「そっか。イヴォラちゃん、バネッサ・カングって人、知ってはるかな?」
「……こっちです」
イヴォラはこく、とうなずき、そのまま修道院の中へと走り去ってしまった。
「ありゃ、すごい駆け足」
「人見知りさんなのかな。……フォコくん、どうかした?」
神妙な顔をしていたフォコに、ランニャが尋ねる。
「いや……、帽子、どこかで見たようなと思て」
「あの型の帽子は、西方ではメジャーな帽子だからね。ほら、リオン家のカント君も被ってたろ?」
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