「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・抱罪記 3
フォコの話、333話目。
西方での、彼女の3年間。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
修道院の中、礼拝堂に入ったところで、奥から年配の、兎獣人の女性が現れた。
「ようこそおいでくださいました。わたしがここの院長をしております、バネッサ・カングです。
「初めまして。……えーと、あなたからお手紙をいただきまして」
そう返したフォコに、バネッサは「まあ」と声を上げた。
「それではあなたが、ホコウ・ソレイユさん?」
「ええ、まあ」
「……」
バネッサはフォコの後ろにいる3人をチラ、と見て、申し訳なさそうな顔をする。
「すみません。二人だけで話を」
「あ、はい」
人払いをし、フォコとバネッサは礼拝堂の椅子に座った。
「お伝えしたいこと、と手紙にありましたけども、それは一体……?」
「……あなたは、ティナ・サフランと言う女性に、心当たりはありませんか?」
「えっ……!?」
意外な質問に、フォコは思わず立ち上がった。
「し、知ってます! でも、……彼女は、死んだと」
「……やはり、そうでしたか」
その反応に、フォコはけげんな表情を浮かべた。
「えーと……? 院長、あなたもそのことは存じなかったと?」
「ええ。わたしが知るのは8年前から、5年前までのこと。
彼女がここに居た、その間のことだけです」
「ここに、居たんですか……!」
驚くフォコに、バネッサは座るよう促した。
「すみません、ソレイユさん。わたしはあまり、座高が高くないの」
「あ、すんまへん」
「……彼女が来たのは、305年のことでした。
ここへ来た時の彼女はひどくやつれ、着ていたのは薄いコートと、ボロボロになった衣服1枚。とてもこのような、雪深い場所へ来られるような服装ではありませんでした。
彼女はわたしたちに何度も頭を下げ、こうお願いされました。『もう行くところがどこにも無いの。あたしたちを助けて下さい』と。
わたしたちは当然、彼女らを助けました」
「彼女、……ら?」
そう尋ねたフォコに、バネッサは小さくうなずいた。
「やはり、ご存じでは無かったのですね」
「何をです?」
「……ティナはここへ来た時、女の子を抱いていました。だから、『彼女たち』と」
「……ちゅうことは」
「ええ、恐らくそう。恐らく、あなたとティナの子供です」
突然の事実を伝えられ、フォコはひどく混乱する。
「え、そんな、……いや、……え、……えぇ!?」
「驚かれるのも、無理はありませんね。でも、これは事実。
ティナは、女の子と一緒にここを訪れました。必死だったのでしょう。その時彼女はたったの、23キューしか持っていなかったのですから。
それから3年ほど、彼女は娘と共に、ここで暮らしていました」
そこでバネッサは立ち上がり、フォコに付いてくるよう促した。
修道院の奥へと進みながら、バネッサはティナのいた3年間を話してくれた。
「ティナは器用な人でした。元々、船を造っていたと聞いています。うわさに聞けば、あなたも海運業に携わっているとか」
「ええ。同じ職場で働いとりました。ただ、ある事情で生き別れになってしまって」
「なるほど」
「ホンマやったら結婚するはず、……やったんです」
「事情はあの子からも聞いています。当時、職場の上司だった、あのスパスと言う商人によって、罠にかけられたのではないか、と」
「仰る通りです」
そこで一旦、バネッサは立ち止まる。
「……お聞きしたいのですが、すぐには戻れなかったのですか?」
「僕とティナが仕事をしてたんは、南海でした。僕が北方で身を立てた後、南海に戻ってみたら、あちらでは既に行方知れずで、こちらへ来ても、手掛かりはまったくつかめず……、と言う有様で」
「なるほど。……話を、続けましょう」
バネッサはふたたび、歩き出す。
「迎え入れた当初、彼女のことを悪く言う者も、確かにおりました。
母娘共に、あまり人付き合いが得意ではない様子でしたし、何より体のあちこちに、数多くの傷。あの子が話した事情さえ、嘘ではないかと疑う者さえおりました。
しかし日が経つにつれ、彼女たちは少しずつ、受け入れられてきました。先程申し上げた通り器用な人でしたし、何より仕事熱心で誠実な人でしたから。この修道院のあちこちを、丁寧に修繕していただきましたし、掃除や洗濯など、家事も積極的にこなしてくださいました。
わたしたちも、このまま母娘共々、この修道院で共に、平穏に暮らしていければと、そう考えるようになりました。ところが……」
やがてバネッサはある部屋の前で立ち止まり、フォコに入るよう促した。
「ここが、ティナが使っていた部屋です」
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西方での、彼女の3年間。
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修道院の中、礼拝堂に入ったところで、奥から年配の、兎獣人の女性が現れた。
「ようこそおいでくださいました。わたしがここの院長をしております、バネッサ・カングです。
「初めまして。……えーと、あなたからお手紙をいただきまして」
そう返したフォコに、バネッサは「まあ」と声を上げた。
「それではあなたが、ホコウ・ソレイユさん?」
「ええ、まあ」
「……」
バネッサはフォコの後ろにいる3人をチラ、と見て、申し訳なさそうな顔をする。
「すみません。二人だけで話を」
「あ、はい」
人払いをし、フォコとバネッサは礼拝堂の椅子に座った。
「お伝えしたいこと、と手紙にありましたけども、それは一体……?」
「……あなたは、ティナ・サフランと言う女性に、心当たりはありませんか?」
「えっ……!?」
意外な質問に、フォコは思わず立ち上がった。
「し、知ってます! でも、……彼女は、死んだと」
「……やはり、そうでしたか」
その反応に、フォコはけげんな表情を浮かべた。
「えーと……? 院長、あなたもそのことは存じなかったと?」
「ええ。わたしが知るのは8年前から、5年前までのこと。
彼女がここに居た、その間のことだけです」
「ここに、居たんですか……!」
驚くフォコに、バネッサは座るよう促した。
「すみません、ソレイユさん。わたしはあまり、座高が高くないの」
「あ、すんまへん」
「……彼女が来たのは、305年のことでした。
ここへ来た時の彼女はひどくやつれ、着ていたのは薄いコートと、ボロボロになった衣服1枚。とてもこのような、雪深い場所へ来られるような服装ではありませんでした。
彼女はわたしたちに何度も頭を下げ、こうお願いされました。『もう行くところがどこにも無いの。あたしたちを助けて下さい』と。
わたしたちは当然、彼女らを助けました」
「彼女、……ら?」
そう尋ねたフォコに、バネッサは小さくうなずいた。
「やはり、ご存じでは無かったのですね」
「何をです?」
「……ティナはここへ来た時、女の子を抱いていました。だから、『彼女たち』と」
「……ちゅうことは」
「ええ、恐らくそう。恐らく、あなたとティナの子供です」
突然の事実を伝えられ、フォコはひどく混乱する。
「え、そんな、……いや、……え、……えぇ!?」
「驚かれるのも、無理はありませんね。でも、これは事実。
ティナは、女の子と一緒にここを訪れました。必死だったのでしょう。その時彼女はたったの、23キューしか持っていなかったのですから。
それから3年ほど、彼女は娘と共に、ここで暮らしていました」
そこでバネッサは立ち上がり、フォコに付いてくるよう促した。
修道院の奥へと進みながら、バネッサはティナのいた3年間を話してくれた。
「ティナは器用な人でした。元々、船を造っていたと聞いています。うわさに聞けば、あなたも海運業に携わっているとか」
「ええ。同じ職場で働いとりました。ただ、ある事情で生き別れになってしまって」
「なるほど」
「ホンマやったら結婚するはず、……やったんです」
「事情はあの子からも聞いています。当時、職場の上司だった、あのスパスと言う商人によって、罠にかけられたのではないか、と」
「仰る通りです」
そこで一旦、バネッサは立ち止まる。
「……お聞きしたいのですが、すぐには戻れなかったのですか?」
「僕とティナが仕事をしてたんは、南海でした。僕が北方で身を立てた後、南海に戻ってみたら、あちらでは既に行方知れずで、こちらへ来ても、手掛かりはまったくつかめず……、と言う有様で」
「なるほど。……話を、続けましょう」
バネッサはふたたび、歩き出す。
「迎え入れた当初、彼女のことを悪く言う者も、確かにおりました。
母娘共に、あまり人付き合いが得意ではない様子でしたし、何より体のあちこちに、数多くの傷。あの子が話した事情さえ、嘘ではないかと疑う者さえおりました。
しかし日が経つにつれ、彼女たちは少しずつ、受け入れられてきました。先程申し上げた通り器用な人でしたし、何より仕事熱心で誠実な人でしたから。この修道院のあちこちを、丁寧に修繕していただきましたし、掃除や洗濯など、家事も積極的にこなしてくださいました。
わたしたちも、このまま母娘共々、この修道院で共に、平穏に暮らしていければと、そう考えるようになりました。ところが……」
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