「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・抱罪記 7
フォコの話、337話目。
大声一杯の謝罪、……と。
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7.
朝の5時少し前。
始発便は出航の準備を終え、港を離れようとしていた。
「……」
ランニャは船員が舫い綱を解く様子を、甲板からぼんやりと眺めていた。
「……」
時折、市街地につながる道へ目を向けるが、まだ朝市も完全には立っておらず、街は静まり返っている。
「……ばかやろ……」
これ以上、船に人が乗り込む様子も無く、ランニャはがっかりとした表情で手すりに背を向け、三角座りでもたれかかる。
「……ばか……」
ランニャは膝に顔を埋め、ぼそぼそとつぶやく。
「……ううん……バカはあたしだよな……」
ランニャは頭を抱えたまま、グスグスと鼻を鳴らしていた。
その時だった。
「ゴメン!」
港中に、フォコの声が響き渡った。
「……え、っ?」
ランニャは顔を挙げ、港に顔を向ける。
「……ふぉ、フォコくん!?」
「ホンマにゴメン! 成り行きとは言え、勝手に子供連れてきたこと、誠心誠意、謝るから!」
港の淵で、フォコがランニャに向かって土下座している様子が、ランニャの視界に入った。
「……っ、見送りに、来なくていいって、言ったじゃないか」
「それもゴメン! 見送りとちゃうねん!」
「は!?」
フォコはがばっと立ち上がり、大声で叫んだ。
「君を、迎えに来た!」
「あたしを、迎えに?」
きょとんとするランニャの耳に、さらにフォコの叫び声が届く。
「こんなん言えた義理やないっちゅうのんは、分かってる! 分かってるけども、言わずにおれへんから、思い切って言うてしまうわ!
ランニャ、どうか僕のところに、来てくれへんやろか!?」
「来て、……って」
思わず、ランニャは手すりから身を乗り出す。
「ソレ、……ソレって、もしかして、……そのっ」
「そうや! 僕と、結婚してくれへんか!?」
「なっ」
この言葉に、ランニャの顔は真っ赤に染まった。
「この通りや! お願いします!」
もう一度、深々と頭を下げたフォコに、ランニャは口をぱくぱくと震わせることしかできないでいる。
「あ、そ、その、え、や、ちょ、……きゃっ!?」
あまりに狼狽していたために、ランニャは手すりから落っこちてしまった。
「わ、わわわっ!?」
それを見たフォコは、慌てて港から海へと飛び込んだ。

「……ぷはっ!」
フォコは海中に潜り、船から落ちたランニャをがっしりと抱きしめ、浮上した。
「げほ、げほっ」
「だ、大丈夫か、ランニャ?」
「……もお! ビックリさせるからだよ!」
ランニャは抱きかかえられたまま、フォコにがなり立てた。
「恥ずかしいコトし過ぎだ! 朝とは言え、なんで大声であんなコト言うんだよ!? 顔から火が出るかと思った!
それからあたし、君のパートナーずっとやってきたじゃないか! 子供を引き取るくらい重要なコト、なんで相談しない!? してくれよ、ちゃんと!
この際だ、まだまだ言うコトある! いっつもいっつも、あたしを邪険にして! あたしの気持ちに気付いておいて、なんでそんな、ヤな態度執るんだよ!? もっと優しくしてよ、あたしに!
それから! 君はホントに、本っ当に! 自分勝手過ぎるんだ! 遠ざけたりウザがったりしたと思えば、今度は結婚してくれ!? あたしに対して、あんまりにも自分の都合をべったべった押し付けてばっかり! あたしの気持ちも都合も何もかも、無視しまくりじゃないか!
あたしの話、ちょっとくらいは聞いてくれてもいいだろ!?」
「ご、ゴメン、ホンマにゴメン」
「……条件、3つ付けるよ」
「えっ?」
ランニャはフォコから離れ、海に浮かんだままで、フォコを指差した。
「一つ、今後はあたしの意見をちゃんと聞く。あたしにちゃんと相談する。守れる?」
「う、うん。よほど的外れやなかったら聞く」
「一つ、コレから目一杯忙しくなるし、そうそう構ってらんないだろうけど、あたしにもイヴォラちゃんにも、八つ当たりなんかするなよ? アレ、マジで嫌な気持ちになるんだからな」
「き、気を付けます」
「それから最後に!」
ランニャはフォコに抱きつき、強く口付けした。
「ん……っ」
唇を離したランニャの顔は、真っ赤になっていた。
「幸せにしてよ? してくれないと、マジぶん殴るからな」
「……それは絶対、約束するわ」
ボタボタと海水を滴らせながら港に戻ったところで、ランニャは「あっ」と声を上げた。
「しまった、船にあたしの荷物置いてきちゃった!」
「え? ……うわぁ」
既に船は沖の方にあり、到底追いつけそうにはない。
「どうしよ、フォコくん」
「どないしよかな……。あれってジョーヌ海運の船?」
「だったと思うけど」
「ほな、後でルシアンさんから連絡入れてもろて……」「……あ、えーとね」
と、二人の背後から、申し訳なさそうな声がかかった。
「ん?」
「これ、君のだよね。騒いでたみたいだし、一応持ってきたんだけど」
振り向くと、帽子を深くかぶった金髪の狼獣人が、ランニャの荷物を持って立っていた。
「あっ! すみません、ありが……」「ちょっと待ち、ランニャ」
そこでフォコは、その「狼」をにらみつけた。
「な、何かな? ち、ちなみに私は、えーと、ただの通りすがりの旅人だから、その、気にしないでくれ」
「……シロッコさんやろ。帽子被っても、モロバレですがな」
その言葉に、ランニャも「狼」も硬直する。
「マジで? ……うわ、マジだ」
フォコとランニャ、二人ににらまれ、シロッコはランニャの荷物を置いて、そろそろと後ずさりし始めた。
「あのね、なんで僕がいるかって言うとね、その、まあ、こっちでも仕事やってて、まあ、一段落したから、ちょっと他のところに行こうかなって、うん、そうしようかなってところだったんだ。そしたらまあ、僕もちょっとね、あの、忘れ物と言うか、最後に食べて行きたいなってものがあったから、やっぱり、ね、食べてから行こうかなと思って、ね、それで、降りようとしたところで、あれだ、ホコウくんと、その、ランニャが、あの、騒いでるのを見て、ああ、これは荷物を下ろしといた方がいいな、って、その、なんだ、気を利かして、いや、利かしたつもりなんだけども、……とにかくおめでとう」
「……フォコくん」「うん」
フォコとランニャは同時に、シロッコへとパンチを見舞った。
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朝の5時少し前。
始発便は出航の準備を終え、港を離れようとしていた。
「……」
ランニャは船員が舫い綱を解く様子を、甲板からぼんやりと眺めていた。
「……」
時折、市街地につながる道へ目を向けるが、まだ朝市も完全には立っておらず、街は静まり返っている。
「……ばかやろ……」
これ以上、船に人が乗り込む様子も無く、ランニャはがっかりとした表情で手すりに背を向け、三角座りでもたれかかる。
「……ばか……」
ランニャは膝に顔を埋め、ぼそぼそとつぶやく。
「……ううん……バカはあたしだよな……」
ランニャは頭を抱えたまま、グスグスと鼻を鳴らしていた。
その時だった。
「ゴメン!」
港中に、フォコの声が響き渡った。
「……え、っ?」
ランニャは顔を挙げ、港に顔を向ける。
「……ふぉ、フォコくん!?」
「ホンマにゴメン! 成り行きとは言え、勝手に子供連れてきたこと、誠心誠意、謝るから!」
港の淵で、フォコがランニャに向かって土下座している様子が、ランニャの視界に入った。
「……っ、見送りに、来なくていいって、言ったじゃないか」
「それもゴメン! 見送りとちゃうねん!」
「は!?」
フォコはがばっと立ち上がり、大声で叫んだ。
「君を、迎えに来た!」
「あたしを、迎えに?」
きょとんとするランニャの耳に、さらにフォコの叫び声が届く。
「こんなん言えた義理やないっちゅうのんは、分かってる! 分かってるけども、言わずにおれへんから、思い切って言うてしまうわ!
ランニャ、どうか僕のところに、来てくれへんやろか!?」
「来て、……って」
思わず、ランニャは手すりから身を乗り出す。
「ソレ、……ソレって、もしかして、……そのっ」
「そうや! 僕と、結婚してくれへんか!?」
「なっ」
この言葉に、ランニャの顔は真っ赤に染まった。
「この通りや! お願いします!」
もう一度、深々と頭を下げたフォコに、ランニャは口をぱくぱくと震わせることしかできないでいる。
「あ、そ、その、え、や、ちょ、……きゃっ!?」
あまりに狼狽していたために、ランニャは手すりから落っこちてしまった。
「わ、わわわっ!?」
それを見たフォコは、慌てて港から海へと飛び込んだ。

「……ぷはっ!」
フォコは海中に潜り、船から落ちたランニャをがっしりと抱きしめ、浮上した。
「げほ、げほっ」
「だ、大丈夫か、ランニャ?」
「……もお! ビックリさせるからだよ!」
ランニャは抱きかかえられたまま、フォコにがなり立てた。
「恥ずかしいコトし過ぎだ! 朝とは言え、なんで大声であんなコト言うんだよ!? 顔から火が出るかと思った!
それからあたし、君のパートナーずっとやってきたじゃないか! 子供を引き取るくらい重要なコト、なんで相談しない!? してくれよ、ちゃんと!
この際だ、まだまだ言うコトある! いっつもいっつも、あたしを邪険にして! あたしの気持ちに気付いておいて、なんでそんな、ヤな態度執るんだよ!? もっと優しくしてよ、あたしに!
それから! 君はホントに、本っ当に! 自分勝手過ぎるんだ! 遠ざけたりウザがったりしたと思えば、今度は結婚してくれ!? あたしに対して、あんまりにも自分の都合をべったべった押し付けてばっかり! あたしの気持ちも都合も何もかも、無視しまくりじゃないか!
あたしの話、ちょっとくらいは聞いてくれてもいいだろ!?」
「ご、ゴメン、ホンマにゴメン」
「……条件、3つ付けるよ」
「えっ?」
ランニャはフォコから離れ、海に浮かんだままで、フォコを指差した。
「一つ、今後はあたしの意見をちゃんと聞く。あたしにちゃんと相談する。守れる?」
「う、うん。よほど的外れやなかったら聞く」
「一つ、コレから目一杯忙しくなるし、そうそう構ってらんないだろうけど、あたしにもイヴォラちゃんにも、八つ当たりなんかするなよ? アレ、マジで嫌な気持ちになるんだからな」
「き、気を付けます」
「それから最後に!」
ランニャはフォコに抱きつき、強く口付けした。
「ん……っ」
唇を離したランニャの顔は、真っ赤になっていた。
「幸せにしてよ? してくれないと、マジぶん殴るからな」
「……それは絶対、約束するわ」
ボタボタと海水を滴らせながら港に戻ったところで、ランニャは「あっ」と声を上げた。
「しまった、船にあたしの荷物置いてきちゃった!」
「え? ……うわぁ」
既に船は沖の方にあり、到底追いつけそうにはない。
「どうしよ、フォコくん」
「どないしよかな……。あれってジョーヌ海運の船?」
「だったと思うけど」
「ほな、後でルシアンさんから連絡入れてもろて……」「……あ、えーとね」
と、二人の背後から、申し訳なさそうな声がかかった。
「ん?」
「これ、君のだよね。騒いでたみたいだし、一応持ってきたんだけど」
振り向くと、帽子を深くかぶった金髪の狼獣人が、ランニャの荷物を持って立っていた。
「あっ! すみません、ありが……」「ちょっと待ち、ランニャ」
そこでフォコは、その「狼」をにらみつけた。
「な、何かな? ち、ちなみに私は、えーと、ただの通りすがりの旅人だから、その、気にしないでくれ」
「……シロッコさんやろ。帽子被っても、モロバレですがな」
その言葉に、ランニャも「狼」も硬直する。
「マジで? ……うわ、マジだ」
フォコとランニャ、二人ににらまれ、シロッコはランニャの荷物を置いて、そろそろと後ずさりし始めた。
「あのね、なんで僕がいるかって言うとね、その、まあ、こっちでも仕事やってて、まあ、一段落したから、ちょっと他のところに行こうかなって、うん、そうしようかなってところだったんだ。そしたらまあ、僕もちょっとね、あの、忘れ物と言うか、最後に食べて行きたいなってものがあったから、やっぱり、ね、食べてから行こうかなと思って、ね、それで、降りようとしたところで、あれだ、ホコウくんと、その、ランニャが、あの、騒いでるのを見て、ああ、これは荷物を下ろしといた方がいいな、って、その、なんだ、気を利かして、いや、利かしたつもりなんだけども、……とにかくおめでとう」
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