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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第6部

    火紅狐・抱罪記 8

     ←火紅狐・抱罪記 7 →火紅狐番外編 その5
    フォコの話、338話目。
    未来へ向けて。

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    8.
     エール家屋敷に戻って水を浴びた後、フォコとランニャは改めて、結婚する旨を伝えた。
    「そうか、やっぱり! おめでとう、お二人さん!」
     ルシアンに祝福を受け、二人は揃って照れ笑いを浮かべた。
    「と言うわけで」
     ランニャはイヴォラの前にしゃがみ込み、挨拶した。
    「ごめんな、会った時にちゃんと挨拶してなくて。あたしはランニャ・ネール。よろしくな、イヴォラちゃん」
    「よろしく、……えっと」
     イヴォラは少し逡巡する様子を見せ、恐る恐るランニャをこう呼んだ。
    「お母さん、……って呼んでいいのかな」
    「……ダメだ、尻尾がムズっと来た。ごめん、当面はランニャでいい、って言うか、ランニャって呼んでくれた方がいいかな、……まだ、その、今のトコは」
    「うん、ランニャ。よろしくね」
    「……へへ、よろしく、イヴォラ」
    「で」
     フォコは縄で拘束したシロッコをべちべちと叩き、呆れた目を向けた。連れて帰る途中に二度、逃げ出そうとしたからである。
    「このおっさん、どうしましょかね」
    「ひ、ひどいな二人とも」
    「ひどいはどっちだよ。この10年、まーた世界中ふらっふらしやがって」
    「だから、それは性分なんだって」
    「性分って言っときゃ何でも許されると思うなよ」
    「……はい」
     娘ににらまれ、シロッコはしゅんとなる。
    「とりあえず、捕まえたっちゅう報告、ルピアさんにしときましょか」
    「そうだね。母さんも喜ぶよ。折角の娘の結婚式に父親が欠席だなんて、ありえないしな」
    「僕の方は両親とも居てませんし、是非参加してほしいですしな」
    「……分かった。頑張る」
    「頑張る頑張らないの問題じゃないだろ!?」
    「……はい」
     このままでは、結婚式を待たずしてシロッコが逃亡するのは明白だった。

     ところが、ルピアに連絡を入れたところで、その問題はあっさり解消した。
    《何!? シロッコがいるのか、そこに!?》
    「ええ、まあ」
     ルピアに「頭巾」で通信を入れたところ、彼女は嬉しそうな声を上げた。
    《……カツミくん、渡りに船ってやつだぞ、こりゃ》
    「何ですて?」
    《ああ、いや。今な、カツミくんがこっちに来てるんだ。刀が折れたから、新しいのを造ってほしいって。
     ただ、確かに私も武器職人の端くれではあるし、新しい武器の製造に手を付けてみたい気持ちは強くあるんだが、カツミくんの要求を満たすには、人手と材料が足りんからな》
    《そこで俺は》
     と、通信に大火が割って入る。
    《当代最高の名工と称される、シロッコ・ファスタ氏の捜索を行おうとしていたのだが、まさかお前が見つけるとは、思いもよらなかった。
     そうだ火紅、良ければお前にも協力してほしいことがあるのだが、構わないか?》
    「僕に? なんでしょ?」
    《刀製作に使うミスリル化鋼を製造するのに、数種類の原料が必要になるのだが、その調達を頼みたい。鉱業を営むゴールドマン家であれば、容易だろうと思って、な》
    「なるほど、分かりました。央中へ戻り次第、手配しておきます」
    《どうせだからカツミくんに、迎えに来てもらえばいい。構わないよな、カツミくん?》
    《ああ。協力してくれると言うのであれば、それくらいのことは吝かではない》
     通信を終え、フォコはランニャに経緯を説明した。
    「……じゃあ、父さんが逃げることはまず無いだろうな。なんだかんだ言って職人だし、仕事を放っぽって旅に出るようなコトはしないだろうし」
    「ええタイミングでの依頼でしたな。旅費もかかりませんし」
    「……コレでさ」
     ランニャはそこで、フォコの腕に抱きつく。
    「コレで、気持ちよく帰れるよな、フォコくん」
    「……そうやね。ありがとな、ランニャ」
    「お二人さん、邪魔して悪いんだけども」
     と、シロッコが口を挟む。
    「もう逃げないことがはっきりしたわけだし、ほどいてもらっても……」
    「おっさん、あんた本当にダメ人間なんだね。ちっと空気読もうか」
     見かねたペルシェが、シロッコを引っ張っていった。



     フォコとランニャ、そしてイヴォラの三人になったところで、フォコはこんなことを言い出した。
    「帰ったら、やってみよかなって思てることがあんねん」
    「なに?」
    「今、金火狐の本拠になっとるイエローコーストやけど、今のところはただの鉱山都市でしかないんよ。
     でもあそこ、央南からも結構人が来る街やし、海に面しとるから交通の便もええ。そのまんま金掘り尽くして終わり、っちゅうのんは勿体ないなって。
     せやから僕は、あそこを一大貿易都市にしてみたいなと思てるねん」
    「いいじゃないか」
    「せやろ? きっとその街は、世界一の大都市になる。色んな人が集まって、色んな物売り買いして、それはそれは楽しい街になる。そう、僕は確信しとる。
     で、いつか僕はランニャ、そしてイヴォラ。君らに、『どうや、これが僕の街なんや!』って自慢する。
     それが僕の、新しい夢や」
     フォコの夢を聞き、ランニャとイヴォラは、嬉しそうに笑う。
    「楽しみにしてる。きっと成し遂げてくれよ、フォコくん」
    「あたしも楽しみにしてる。ううん、大きくなったらお手伝いする」
    「……そやね」
     フォコは二人を抱きしめ、こう言った。
    「頑張ろう、みんなで」

    火紅狐・抱罪記 終
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    とうとう追いつかれましたねw
    第7部は「火紅狐」最終部となります。
    最後までよろしく、お付き合いください。

    ティナは最後まで生かしておこうか、それとも死なせてしまうか、
    非常に迷っていました。
    生きていたらそれはそれで、フォコ君とランニャの三角関係になって……、と言う展開もあったかもしれませんね。

    NoTitle 

    よーし次は第七部だ。

    楽しみであります。

    ティナちゃん、かわいそうすぎる……(T_T)
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