「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第6部
火紅狐・抱罪記 8
フォコの話、338話目。
未来へ向けて。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
エール家屋敷に戻って水を浴びた後、フォコとランニャは改めて、結婚する旨を伝えた。
「そうか、やっぱり! おめでとう、お二人さん!」
ルシアンに祝福を受け、二人は揃って照れ笑いを浮かべた。
「と言うわけで」
ランニャはイヴォラの前にしゃがみ込み、挨拶した。
「ごめんな、会った時にちゃんと挨拶してなくて。あたしはランニャ・ネール。よろしくな、イヴォラちゃん」
「よろしく、……えっと」
イヴォラは少し逡巡する様子を見せ、恐る恐るランニャをこう呼んだ。
「お母さん、……って呼んでいいのかな」
「……ダメだ、尻尾がムズっと来た。ごめん、当面はランニャでいい、って言うか、ランニャって呼んでくれた方がいいかな、……まだ、その、今のトコは」
「うん、ランニャ。よろしくね」
「……へへ、よろしく、イヴォラ」
「で」
フォコは縄で拘束したシロッコをべちべちと叩き、呆れた目を向けた。連れて帰る途中に二度、逃げ出そうとしたからである。
「このおっさん、どうしましょかね」
「ひ、ひどいな二人とも」
「ひどいはどっちだよ。この10年、まーた世界中ふらっふらしやがって」
「だから、それは性分なんだって」
「性分って言っときゃ何でも許されると思うなよ」
「……はい」
娘ににらまれ、シロッコはしゅんとなる。
「とりあえず、捕まえたっちゅう報告、ルピアさんにしときましょか」
「そうだね。母さんも喜ぶよ。折角の娘の結婚式に父親が欠席だなんて、ありえないしな」
「僕の方は両親とも居てませんし、是非参加してほしいですしな」
「……分かった。頑張る」
「頑張る頑張らないの問題じゃないだろ!?」
「……はい」
このままでは、結婚式を待たずしてシロッコが逃亡するのは明白だった。
ところが、ルピアに連絡を入れたところで、その問題はあっさり解消した。
《何!? シロッコがいるのか、そこに!?》
「ええ、まあ」
ルピアに「頭巾」で通信を入れたところ、彼女は嬉しそうな声を上げた。
《……カツミくん、渡りに船ってやつだぞ、こりゃ》
「何ですて?」
《ああ、いや。今な、カツミくんがこっちに来てるんだ。刀が折れたから、新しいのを造ってほしいって。
ただ、確かに私も武器職人の端くれではあるし、新しい武器の製造に手を付けてみたい気持ちは強くあるんだが、カツミくんの要求を満たすには、人手と材料が足りんからな》
《そこで俺は》
と、通信に大火が割って入る。
《当代最高の名工と称される、シロッコ・ファスタ氏の捜索を行おうとしていたのだが、まさかお前が見つけるとは、思いもよらなかった。
そうだ火紅、良ければお前にも協力してほしいことがあるのだが、構わないか?》
「僕に? なんでしょ?」
《刀製作に使うミスリル化鋼を製造するのに、数種類の原料が必要になるのだが、その調達を頼みたい。鉱業を営むゴールドマン家であれば、容易だろうと思って、な》
「なるほど、分かりました。央中へ戻り次第、手配しておきます」
《どうせだからカツミくんに、迎えに来てもらえばいい。構わないよな、カツミくん?》
《ああ。協力してくれると言うのであれば、それくらいのことは吝かではない》
通信を終え、フォコはランニャに経緯を説明した。
「……じゃあ、父さんが逃げることはまず無いだろうな。なんだかんだ言って職人だし、仕事を放っぽって旅に出るようなコトはしないだろうし」
「ええタイミングでの依頼でしたな。旅費もかかりませんし」
「……コレでさ」
ランニャはそこで、フォコの腕に抱きつく。
「コレで、気持ちよく帰れるよな、フォコくん」
「……そうやね。ありがとな、ランニャ」
「お二人さん、邪魔して悪いんだけども」
と、シロッコが口を挟む。
「もう逃げないことがはっきりしたわけだし、ほどいてもらっても……」
「おっさん、あんた本当にダメ人間なんだね。ちっと空気読もうか」
見かねたペルシェが、シロッコを引っ張っていった。
フォコとランニャ、そしてイヴォラの三人になったところで、フォコはこんなことを言い出した。
「帰ったら、やってみよかなって思てることがあんねん」
「なに?」
「今、金火狐の本拠になっとるイエローコーストやけど、今のところはただの鉱山都市でしかないんよ。
でもあそこ、央南からも結構人が来る街やし、海に面しとるから交通の便もええ。そのまんま金掘り尽くして終わり、っちゅうのんは勿体ないなって。
せやから僕は、あそこを一大貿易都市にしてみたいなと思てるねん」
「いいじゃないか」
「せやろ? きっとその街は、世界一の大都市になる。色んな人が集まって、色んな物売り買いして、それはそれは楽しい街になる。そう、僕は確信しとる。
で、いつか僕はランニャ、そしてイヴォラ。君らに、『どうや、これが僕の街なんや!』って自慢する。
それが僕の、新しい夢や」
フォコの夢を聞き、ランニャとイヴォラは、嬉しそうに笑う。
「楽しみにしてる。きっと成し遂げてくれよ、フォコくん」
「あたしも楽しみにしてる。ううん、大きくなったらお手伝いする」
「……そやね」
フォコは二人を抱きしめ、こう言った。
「頑張ろう、みんなで」
火紅狐・抱罪記 終
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8.
エール家屋敷に戻って水を浴びた後、フォコとランニャは改めて、結婚する旨を伝えた。
「そうか、やっぱり! おめでとう、お二人さん!」
ルシアンに祝福を受け、二人は揃って照れ笑いを浮かべた。
「と言うわけで」
ランニャはイヴォラの前にしゃがみ込み、挨拶した。
「ごめんな、会った時にちゃんと挨拶してなくて。あたしはランニャ・ネール。よろしくな、イヴォラちゃん」
「よろしく、……えっと」
イヴォラは少し逡巡する様子を見せ、恐る恐るランニャをこう呼んだ。
「お母さん、……って呼んでいいのかな」
「……ダメだ、尻尾がムズっと来た。ごめん、当面はランニャでいい、って言うか、ランニャって呼んでくれた方がいいかな、……まだ、その、今のトコは」
「うん、ランニャ。よろしくね」
「……へへ、よろしく、イヴォラ」
「で」
フォコは縄で拘束したシロッコをべちべちと叩き、呆れた目を向けた。連れて帰る途中に二度、逃げ出そうとしたからである。
「このおっさん、どうしましょかね」
「ひ、ひどいな二人とも」
「ひどいはどっちだよ。この10年、まーた世界中ふらっふらしやがって」
「だから、それは性分なんだって」
「性分って言っときゃ何でも許されると思うなよ」
「……はい」
娘ににらまれ、シロッコはしゅんとなる。
「とりあえず、捕まえたっちゅう報告、ルピアさんにしときましょか」
「そうだね。母さんも喜ぶよ。折角の娘の結婚式に父親が欠席だなんて、ありえないしな」
「僕の方は両親とも居てませんし、是非参加してほしいですしな」
「……分かった。頑張る」
「頑張る頑張らないの問題じゃないだろ!?」
「……はい」
このままでは、結婚式を待たずしてシロッコが逃亡するのは明白だった。
ところが、ルピアに連絡を入れたところで、その問題はあっさり解消した。
《何!? シロッコがいるのか、そこに!?》
「ええ、まあ」
ルピアに「頭巾」で通信を入れたところ、彼女は嬉しそうな声を上げた。
《……カツミくん、渡りに船ってやつだぞ、こりゃ》
「何ですて?」
《ああ、いや。今な、カツミくんがこっちに来てるんだ。刀が折れたから、新しいのを造ってほしいって。
ただ、確かに私も武器職人の端くれではあるし、新しい武器の製造に手を付けてみたい気持ちは強くあるんだが、カツミくんの要求を満たすには、人手と材料が足りんからな》
《そこで俺は》
と、通信に大火が割って入る。
《当代最高の名工と称される、シロッコ・ファスタ氏の捜索を行おうとしていたのだが、まさかお前が見つけるとは、思いもよらなかった。
そうだ火紅、良ければお前にも協力してほしいことがあるのだが、構わないか?》
「僕に? なんでしょ?」
《刀製作に使うミスリル化鋼を製造するのに、数種類の原料が必要になるのだが、その調達を頼みたい。鉱業を営むゴールドマン家であれば、容易だろうと思って、な》
「なるほど、分かりました。央中へ戻り次第、手配しておきます」
《どうせだからカツミくんに、迎えに来てもらえばいい。構わないよな、カツミくん?》
《ああ。協力してくれると言うのであれば、それくらいのことは吝かではない》
通信を終え、フォコはランニャに経緯を説明した。
「……じゃあ、父さんが逃げることはまず無いだろうな。なんだかんだ言って職人だし、仕事を放っぽって旅に出るようなコトはしないだろうし」
「ええタイミングでの依頼でしたな。旅費もかかりませんし」
「……コレでさ」
ランニャはそこで、フォコの腕に抱きつく。
「コレで、気持ちよく帰れるよな、フォコくん」
「……そうやね。ありがとな、ランニャ」
「お二人さん、邪魔して悪いんだけども」
と、シロッコが口を挟む。
「もう逃げないことがはっきりしたわけだし、ほどいてもらっても……」
「おっさん、あんた本当にダメ人間なんだね。ちっと空気読もうか」
見かねたペルシェが、シロッコを引っ張っていった。
フォコとランニャ、そしてイヴォラの三人になったところで、フォコはこんなことを言い出した。
「帰ったら、やってみよかなって思てることがあんねん」
「なに?」
「今、金火狐の本拠になっとるイエローコーストやけど、今のところはただの鉱山都市でしかないんよ。
でもあそこ、央南からも結構人が来る街やし、海に面しとるから交通の便もええ。そのまんま金掘り尽くして終わり、っちゅうのんは勿体ないなって。
せやから僕は、あそこを一大貿易都市にしてみたいなと思てるねん」
「いいじゃないか」
「せやろ? きっとその街は、世界一の大都市になる。色んな人が集まって、色んな物売り買いして、それはそれは楽しい街になる。そう、僕は確信しとる。
で、いつか僕はランニャ、そしてイヴォラ。君らに、『どうや、これが僕の街なんや!』って自慢する。
それが僕の、新しい夢や」
フォコの夢を聞き、ランニャとイヴォラは、嬉しそうに笑う。
「楽しみにしてる。きっと成し遂げてくれよ、フォコくん」
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よーし次は第七部だ。
楽しみであります。
ティナちゃん、かわいそうすぎる……(T_T)
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第7部は「火紅狐」最終部となります。
最後までよろしく、お付き合いください。
ティナは最後まで生かしておこうか、それとも死なせてしまうか、
非常に迷っていました。
生きていたらそれはそれで、フォコ君とランニャの三角関係になって……、と言う展開もあったかもしれませんね。