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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・興中記 2

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    フォコの話、340話目。
    過去の発展、未来の展望。

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    2.
    「な、何やて!?」
    「ウチらは、金を掘ってこそのゴールドマン家やで!?」
    「それ抜きにしたら、金火狐やない!」
     口々に反対する一族に対し、フォコは淡々とした、しかし強い決意を秘めた声で持論を通そうとする。
    「皆さんの混乱、当惑は、当然のことやとは思います。
     しかし、重ねて言いますが、ゴールドマン家は非常に拡大しました。到底、ただ金を掘るだけの商家に収まらない規模に到達している。いや、もうその規模、規格を大きく超えてしまっていると、僕は考えとります。
     確かにこれまでずっと、鉱業で身を立ててきた家です。しかし、そうなったのはいつからか、ご存じでしょうか?」
    「そら、初代からずっとやろ」
     そう言った者に、フォコは首を横に振る。
    「いいえ。厳密には三代目総帥、レオン1世の頃からです。
     初代のエリザさんは非常に精力的な人物やったと、歴史の本の多くは言うてます。1世紀前半にあった二天戦争に従軍しとった時も、戦闘に参加する傍ら、立ち寄った街と将来どう関係を結び、どう利益を作り、どう発展させるかを熱心に検討しとったそうです。新たな稼ぎ場所、市場を、創成しようとしとったんですな。
     それだけやなく、開祖さんは鉱業や都市開発の他にも、武具製造や造船にも手を伸ばしていたと聞きます。初代の頃は、今よりもっと広範に、多岐に渡って商売を広げとったんですわ。
     それが今のように、ほとんど鉱業一本になってしもたんは、二代目のロイドの失敗からです。残念ながら『お母さん』ほど商売の腕が良くなかったために、初代で築き上げた商売のほとんどが頓挫してしもたんですわ。
     業績悪化の責任を取って二代目は失脚し、代わりに従兄弟のレオンが鉱業一本に絞らせて、事態の収拾に当たった。
     そこからずっとですわ。1世紀の末に起こした失敗からずっと、金火狐はその失敗に怯え、鉱業だけやるっちゅうことをしてきたわけです。……ここまで言うてしもたら言い過ぎかも分かりませんが、僕は先代がのさばった原因は、ここにあるんやないかと思うんです。
     そら、金を掘ったら儲かりますわ。でもそれ以上の進歩を恐れ、金を掘って儲けたお金を、新しいことに使おう、投資しようとはせんかった。せやからこそ、急進的な商人だった、あの忌み嫌うべき最低の下衆、ケネス・エンターゲートに付け入る隙を与えてしもた。
     皆さん、また同じことをするつもりですか? また1世紀から続けたことを懲りもせずに続け、また進歩的な商人に付け入られて、また、先代の頃のように隷属するつもりですか?」
    「……」
     苦い顔を並べる一族に、フォコは自分の構想を説明した。
    「僕たちの未来はどっちかです。進歩した商人に喰われるか、それか自分たちが進歩するか。
     僕は喰われたいとは思いません。当然、後者を選びます。そしてそのための第一歩、僕たちがただの鉱山掘りから脱却し、真に世界を動かす大商家になるための第一歩として、この街を永世、金火狐の本拠地と定め、そして街の開発と発展促進を本業としていくことを提案します」
    「……ちょっと聞いときたいんやけど」
     と、大叔父のジャンニが手を挙げた。
    「街の開発利権は先代が中央政府から買うとるし、開発するのんに一応、不都合はあらへん。
     せやけど、開発費はどないするんや? それから、どんな風に街を作るのかも、展望を聞かせてもろてもええか?」
    「開発費に関しては、当面は僕の私財を投じて。総帥になるにあたって支払った支度金を除いても、まだ個人資産として十数億は持っとりますし、基礎開発にはそれを、全額つぎ込む予定です。
     どのように開発するかですが、まずは港の造成からですな。ここからあちこちへ出向く時に度々思てたことですが、船を停泊させるのんには一応、現在の規模でも十分です。しかし今後の発展を考えるに、もし現在の十倍程度船がやって来ることになれば、あっと言う間にパンクしてまいます」
    「十倍って、アホな」
    「そないにガンガン来るかいな」
    「夢物語もええかげんにしときいや」
     鼻で笑う者に対し、フォコは根拠をつぶさに説明する。
    「例えば西方のセラーパーク。ここには西方大三角形の一角、エール家が運営するジョーヌ海運の本拠があります。街の規模は、現在のイエローコーストの7、8倍です。そして交通量は、イエローコーストの20倍以上。
     もしこの街が、そこと同規模に発展するとすれば、交通量も相応に増えると見て、何らおかしいことはあらへんでしょう? 加えて、この街は現在でも貴金属や鉄鉱石の出荷のために船が出入りしとりますが、距離や海流・海路のことを考えても、南海や央南への便も悪くない。
     将来的に鉱業以外に進出し、それらの地域に向けて大幅な輸出を行うことになった際、どんだけ少なく見積もっても十倍、二十倍の交通量になるのは明白です」
    「ホンマかなぁ……」
    「結局は仮定に仮定の話やんか」
     フォコの熱意に対し、一族の半分近くは否定的な態度を見せる。
     しかし、ジャンニは熱心に応答してくれた。
    「港作るっちゅうのんは、俺も賛成や。俺の今の見立てでも、手狭な感じがあるからな。
     それにや、今のところ港の管理はウチらがしてへんから、余計な手数料やらチップやらを一々払うのんが慣習化しとるし、俺としてはそれも気にかかっとる。
     ニコル、お前も他の事業にも手を出したいっちゅうてるし、これもついでに何とかでけへんかな?」
    「ええですな、やりましょ」
     ようやく積極的に応じてくれる者が現れ、フォコは内心ほっとした。
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