黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・興中記 4

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    フォコの話、342話目。
    大火の秘密。

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    4.
    「しかし何度聞いても、驚くことばかりだなぁ。僕の知識だと、鋼にミスリル化処理なんて、ありえない話なんだけど」
    「常識や定説など、技術の革新や情報量の変化でいくらでもうつろうものだ。現実に、これがあるのだからな」
     そう言って大火は、藍色に光る鋼板を手に取って見せる。
    「現行で世間一般に広まっている製造・処理法とは、基本的に違うからな。この技術が一般化するには、あと100年や200年では足りんだろう、な」
    「是非とも教えてほしいんだけどねぇ」
    「断る。そうそうみだりにばら撒いていい技術ではない」
    「そうかなぁ? 便利だと思うんだけど」
     と、二人で話していたところに、ルピアが苦い顔でやって来た。
    「シロッコ。昼食後、執務室に来いと言っただろう? 何故工房にいる?」
    「え、そうだっけ?」
    「そうだ」
    「ごめんごめん、聞いてなかったかも」
    「いい加減にしろよ。お前は私や娘たちと話をするより、鉄板を撫でてる方が好きなのか?」
    「いや、それは無いよ、無いけど、いや、本当に。聞いてなかっただけなんだ」
    「私が面前でしている話を、まるで聞いてなかったと?」
    「ごめん、あの時はほら、これの話を」
     そう言ってシロッコは大火から鋼板を受け取り、ルピアに見せる。
    「これすごいんだって、鋼なのにミスリル化……」「いい加減にしろと、何度言わせる気だ?」
     ルピアは鋼板を取り上げ、壁に投げつける。
     びいい……、と震えた音を立てて漆喰の壁に突き刺さった鋼板を見て、シロッコの狼尻尾が毛羽立った。
    「あ……、その……」「来い」「……はい」
     うなだれたシロッコを伴い部屋から出るところで、ルピアは大火に向き直る。
    「悪いなカツミくん。つい、投げてしまった」
    「構わん。その程度で曲がる素材ではないし、丁度いい人払いにもなった」
    「そうか。じゃ、また後で、な」
    「ああ」

     大火は一人工房に残り、「黄金の目録」を片手にしながら作業台をぼんやり眺めていた。
    「……」
     作業台の上にとん、と「目録」を置き、ゆっくりと開く。
     開かれたその、金属を思わせる輝きを放つページには、大火と、そして彼を囲む八人の男女が、恐ろしく精密に、写実に記されていた。
    「……クク……」
     その絵を撫で、大火は珍しく、力なさげに笑った。
    「詫びの言葉も無い、……な。あいつが折角、俺のために打ってくれたと言うのに」
     大火は目録を閉じ、これもまた珍しく、落ち込んだ様子で顔を伏せた。

     その時だった。
    《……や……じ……》
    「……?」
     大火の耳に、かすかに少女のものらしき声が飛び込んできた。
    「……空耳、……では」
    《……いに……まって……だろ……ッ!》
     声は先程よりも鮮明に届く。
    「お前か、一聖(かずせ)?」
    《その名前で呼ぶんじゃねえッ!》
     今度の声は、大火が顔をしかめるくらいに強く響いた。
    《オレは天狐だ! あの、世界の終わりの時からなッ!》
    「そうか、では天狐と呼ぼう。どうやら蘇ったようだな」
    《いいや、残念ながらまだ。まだ、封印を半分くらい、解いただけさあぁ……! でも、もうじきだぜぇ?》
    「そうそう抜けられるような封印は、施してはいなかったはずだが」
    《お前が教えたトリックの一つだぜ、忘れたのか? 術の対象をずらすコトで無効化させちまう、ってヤツさあ》
    「なるほど、確かにその手法はある。お前にかけた封印は確かに長重かつ複雑だったからな、少しでも乱れや揺らぎがあれば、効力は消えるだろう、な。
     だが気になるのは、いつ、どこに、そんな細工を仕掛ける間があったのか、だ」
    《ケケケ……、ケッケッケッ……》
     そのけたたましい笑い声は、どこか悲しそうにも聞こえた。
    《お前、『夜桜』を折りやがったな?》
    「……良く分かったな」
    《ソレだよ、ソレ。お前に封印さ……る前に、オレは『夜桜』……術を仕掛けて、……しもお前が……を裏切るようなコト……まり、このオレが折角……ンタに……った……を……》
     怒りに満ちた声は、次第に遠くなっていく。
    「かず、……天狐」
    《……れるな……オレは……めーを……》
     会話が途切れる直前、天狐の殺意に満ちた一言が、大火の耳に突き刺さった。
    《てめーを、ぜってー許さねえからな》
    「……」

    「どうした、カツミくん?」
    「……うん?」
     大火が顔を挙げると、工房に戻ってきたルピアと目が合った。
    「顔色が悪いな? 珍しく青いぞ。と言っても、元々の色が黒いから、じっくり見なきゃ分からんが」
    「……いや、何でもない。思案に暮れていたせいだろう」
    「そうか……?」
     ルピアは大火の側に座り、じっと目を見つめる。
    「……見たことのある目つきだ」
    「何?」
    「ああ、そうだ、思い出した。……あんまり思い出したくもないが」
     ルピアはニカッと笑い、大火に耳打ちした。
    「なあ、カツミくん。君……」
    「……!」
     大火は相当驚いたのだろう――ガタンと椅子を倒し、立ち上がった。

    火紅狐・興中記 終
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