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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・序事記 3

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    フォコの話、345話目。
    水面下で起こる不穏。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     さらに日は進み、313年の5月。
     開発計画の第一段階――財団設立と港湾開発、および商工業体制の確立は完了した。
    「早速、市場が立っとりますな」
    「せやな。……と、ご苦労さん」
     フォコとジャンニ、そしてイヴォラは、往来の反対側から歩いてきた公安職員に手を振り、挨拶した。
    「はっ、ありがとうございます!」
     職員たちはフォコたちを見るなり足を止め、ビシ、と敬礼する。
    「そんな堅くならんでええよ。ほんで、どないやろ? 今日も平和かな?」
     そう尋ねたフォコに、職員は敬礼を解き、はきはきとした口調で返す。
    「はい、本日も異常ありません」
    「そうか、ありがとさん。ほな、引き続き頑張ってや」
    「はいっ!」
     職員たちは再度敬礼し、その場から立ち去っていった。
    「……ちょと、物々しい感じはあるけども、ま、ええくらいかな」
    「ええ。まだ公安局が発足して一ヶ月も経ってませんし、皆さんも緊張してはるんでしょうな。そのうちこなれてきますわ。
     ま、これでならず者が割り込んでわーわー言うようなことは、起こらへんでしょ」
    「せやろなぁ。……と、そうや」
     ここでジャンニが、フォコに憮然とした目を向けてきた。
    「何でか俺の方にも、『総帥はいつ結婚するんやろな』って質問が来たんやけど。そっちの話はどないなっとるん?」
    「……耳にタコですわ」
    「タコだねー」
     フォコとイヴォラは、同時に苦い顔をした。
    「『頭巾』でちょくちょく連絡は取ってるんですけども、まあ、ちょっと、……向こうも色々難航しとるらしくて。向こうさんが落ち着くまで、ちょっと保留しとこかなって」「アホか」
     ジャンニは呆れた顔で、フォコを諌める。
    「ヨメさんもらうような大事なこと、なんで保留すんねん。向こうに恥かかす気か?
     それにな、巷でもかなりうわさになってるんやで、『あのやもめ総帥、いつ結婚するんやろ』って」
    「……ん、……まあ、そうですな。街の開発も一段落したことですし、一応、向こうと相談してみますわ」
    「そうせえ。……俺も耳タコやからな」
     肩をすくめて苦笑するジャンニに、フォコたち父娘もクスッと笑った。
     が――フォコは表情を変え、ジャンニにぼそ、と耳打ちした。
    「……なるべくなら心配をかけさせたく無かったんですが」
    「何やて?」
    「大叔父さんやったら、落ち着いて聞いてくれるでしょうな。
     今夜、ネール組合総長と連絡を取ります。一緒に話を、聞いてもろてええですか?」
    「は……?」

     その晩、フォコはジャンニを伴い、ルピアと連絡を取った。
    「ちゅうわけで、結婚の話もボチボチ出てきとるんです。……でも」
    《ああ。無理だな》
    「な、なんでやねんな?」
     一緒に「魔術頭巾」を巻いて話を聞いていたジャンニは、目を丸くする。
    《聞いてないのか、ジャンニ?》
    「何をや?」
    《中央政府の動向をだ》
    「現状? 軍務大臣がとうとう更迭されよって、ほんで、央南から久しぶりに、統治についての打診があったとか何とか。
     それ以外に最近、特に大きな動きは無かったはずや。少なくともウチら商人に関するようなもんは……」
    《フォコくん。説明してくれるか?》
    「ええ。……そうですな、単刀直入に言うと。
     無関係どころか、中央政府はウチらを攻撃する気、満々なんですわ」
    「ホンマかいな? なんでまた……」
    「何でかっちゅうたら、宗教的な理由からです。
     元々、ケネスがこっちに中央軍の軍隊引っ張ってきた口実は、央北天帝教を信奉せず――向こうから見たら――自分勝手に新しい宗教、央中天帝教を創って祀り上げとるウチらをこらしめるため、やったわけです」
    「まあ、そうやな。そんなん言うてたわ」
    「で、ケネスがウチらの総帥になって、それで宗教問題は一応の解決を見たわけですけども。
     しかしその後、僕が総帥になったことで、中央政府はまた、央中天帝教の台頭があるんやないかと懸念しとるんですわ。
     実際、今日の視察でも、街にできてた教会、見とりましたでしょ? あそこは、あの央北天帝教のシンボル、『スリップクロス』を掲げてましたか?」
    「いや……、掲げとったんは、『ロタ・デラ・フォルティッサ』――『エリザさん』のお守りやったな。央中天帝教のシンボルや。
     まあ、そうなるわな。お前が総帥になって以後、商会とこの街への、中央政府からの影響力は格段に小さなった。そら当然、今まで街で偉そうにしとった央北天帝教も、影を潜めざるを得えへんわなぁ」
    《そう。そしてそれを、天帝教の現教皇であるオーヴェル・タイムズ帝が良しとするはずが無い。『このまま放っておけばまた、央中は央中天帝教の天下になるだろう』、そう考えているのは明白だ。
     よって、このまま看過していれば、中央政府がこちらへ攻め込んでくる可能性は高い。まあ、それが半年後か一年後か、それとももう少し後になるかは分からんが、な》
     これを聞いて、ジャンニは首をかしげた。
    「えらい腰の重い話やな……? 今の天帝さんやったら、もっと苛(いら)ちやろかと思っとったけども」
    「なんでか言うたら、大叔父さんも言うてた通り、天帝さんは今、央南の方に目を向けてはるからですわ。
     央南の名代さんがやられてしもたから、天帝さんとしては何が何でも、元の状態に戻したい。そう思てはるんでしょうな」
    「元の状態っちゅうと?」
    「焔軍が治めとる今の央南をまっさらにして、新しく名代を置き直す。そう考えとるはずです」
    「……つまり、その焔軍っちゅうのんと戦争するつもりなんか」
    《そう言うことだ》
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