「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第7部
火紅狐・序事記 5
フォコの話、347話目。
直接対決の兆し。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「ファスタ卿、それでは、どう対処なされるのですか?」
コツ、コツ、と小さな音を立てながら、杖を持ち、目に厚い布を巻いた少女が部屋の中に入ってきた。
「双葉殿下、聞いておられたのですか」
席を立ち、そう尋ねた玄蔵に、双葉は小さくうなずく。
「ええ、近くを歩いていたら、話し声が聞こえましたので」
「扉は閉めていたはずですが……、どうやらこの議事堂、隙間か何かがあるようですな」
「いいえ。風の音は、扉以外からは聞こえません。間違いなく密室です。……わたしは特別、耳が良くなりました故」
「あ、……いや、これはとんだ失礼を」
「クスクス……、失礼はお互い様です。
それよりもファスタ卿、中央軍が攻めてくるとのお話でしたが、対応は如何に?」
散々悲惨な目に遭ったからか、それとも顔の3分の1ほどを隠す布が神秘的に見せているのか、双葉は16歳と言う年齢にしては、ひどく大人びた雰囲気を漂わせていた。
そのせいか、王朝を征服・占領した側の玄蔵とランドも、彼女を前にすると、妙にかしこまってしまう。
「そうですね……、中央政府とのコネクション、人脈は全滅ですし、これ以上の交渉や根回しは不可能でしょう。
そうでなくとも、前回の中央政府内の内部決定が余計な横槍で覆された以上、天帝陛下はもう、他者の言葉を聞こうとはしないでしょう」
「それはもう、伺いました。先を仰って下さいな」
「あ、はい。……結論から申し上げましょう。戦争は不可避です」
「そうですか」
双葉はひょいと杖を挙げ、椅子の位置を確かめようとする。
「あ、殿下。こちらへ」
その様子を見た玄蔵は、慌ててゴトゴトと椅子を持ってくる。
双葉は玄蔵の立てたその物音で、位置を把握したらしい――杖で位置を確かめることも無く、二、三歩進み、すとんとその椅子に腰を落とした。
「ありがとうございます、閣下。
それではファスタ卿、続いて問いますが、勝算はあるのですか?」
そう問われ、ランドは一瞬押し黙る。
「……ええ、それは」「難しいのですね」
その一瞬の間で、双葉は察したらしい。
「難しい、……でしょうね。そのまま、攻め込まれれば」
「何か方策をお持ちなのですか?」
「一応は」
「伺ってもよろしいでしょうか」
「ええ。……まず、そもそも。我々にとって何が勝利で、何が敗北なのか。そこから論じましょう。
敗北とは一体、我々がどんな状態になれば、そうと言えるでしょうか?」
「それは勿論、この白京が制圧され、我々が拿捕ないし殺害されればでは無かろうか」
答えた玄蔵に、ランドはうなずいて見せる。
「ええ、それで正解です。……となれば、敵はどう動くか」
「まあ、大艦隊なり何なりを率いて、ここへ攻め込むのが常道であろうな。それ以外に道は無い。まさか克の如く、一瞬で来られるわけも無し」
「そこです。幸いにも、世界最強の敵が進める道は、一本しか無いんです。逆に言えば、その一本を抑えてしまえば、敵は手も足も出なくなります」
「理屈はそうですが、具体的にはどのような手段を?」
「いくつか考えてありますが、それは置いておいて。
次に、我々の勝利とは何でしょうか?」
「それはもちろ、……ん」
答えようとした玄蔵が、途中で言葉を切る。
「……いや、うーむ」
「言ってみてください」
「いや、これは非常識に過ぎるし」
「思い付くままにどうぞ」
「……その、……まあ、……敵の本拠を制圧し、……その、……敵の元帥を拿捕ないし、……あるいは、討ち取ることが、……できれば、……そう言えるのでは、なかろうか」
「でしょうね」
さらりとうなずいて見せたランドに、玄蔵は唖然とする。
「卿よ、いくらなんでもそれは、荒唐無稽に過ぎはせんか? 相手は中央軍、中央政府――紛うことなき、世界最高の戦力なのだぞ?」
「ええ。5年前なら僕も難色を示したでしょうね、その選択は」
そう返したランドに、双葉は不思議そうな声色で尋ねてきた。
「では……、今なら難しくないと言うのですか?」
「ええ」
ランドはうなずき、自信たっぷりにこう言った。
「今現在に至るまでに築いた僕たちの陣営、コネクションがあれば、勝算は十分にあります」
火紅狐・序事記 終
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直接対決の兆し。
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「ファスタ卿、それでは、どう対処なされるのですか?」
コツ、コツ、と小さな音を立てながら、杖を持ち、目に厚い布を巻いた少女が部屋の中に入ってきた。
「双葉殿下、聞いておられたのですか」
席を立ち、そう尋ねた玄蔵に、双葉は小さくうなずく。
「ええ、近くを歩いていたら、話し声が聞こえましたので」
「扉は閉めていたはずですが……、どうやらこの議事堂、隙間か何かがあるようですな」
「いいえ。風の音は、扉以外からは聞こえません。間違いなく密室です。……わたしは特別、耳が良くなりました故」
「あ、……いや、これはとんだ失礼を」
「クスクス……、失礼はお互い様です。
それよりもファスタ卿、中央軍が攻めてくるとのお話でしたが、対応は如何に?」
散々悲惨な目に遭ったからか、それとも顔の3分の1ほどを隠す布が神秘的に見せているのか、双葉は16歳と言う年齢にしては、ひどく大人びた雰囲気を漂わせていた。
そのせいか、王朝を征服・占領した側の玄蔵とランドも、彼女を前にすると、妙にかしこまってしまう。
「そうですね……、中央政府とのコネクション、人脈は全滅ですし、これ以上の交渉や根回しは不可能でしょう。
そうでなくとも、前回の中央政府内の内部決定が余計な横槍で覆された以上、天帝陛下はもう、他者の言葉を聞こうとはしないでしょう」
「それはもう、伺いました。先を仰って下さいな」
「あ、はい。……結論から申し上げましょう。戦争は不可避です」
「そうですか」
双葉はひょいと杖を挙げ、椅子の位置を確かめようとする。
「あ、殿下。こちらへ」
その様子を見た玄蔵は、慌ててゴトゴトと椅子を持ってくる。
双葉は玄蔵の立てたその物音で、位置を把握したらしい――杖で位置を確かめることも無く、二、三歩進み、すとんとその椅子に腰を落とした。
「ありがとうございます、閣下。
それではファスタ卿、続いて問いますが、勝算はあるのですか?」
そう問われ、ランドは一瞬押し黙る。
「……ええ、それは」「難しいのですね」
その一瞬の間で、双葉は察したらしい。
「難しい、……でしょうね。そのまま、攻め込まれれば」
「何か方策をお持ちなのですか?」
「一応は」
「伺ってもよろしいでしょうか」
「ええ。……まず、そもそも。我々にとって何が勝利で、何が敗北なのか。そこから論じましょう。
敗北とは一体、我々がどんな状態になれば、そうと言えるでしょうか?」
「それは勿論、この白京が制圧され、我々が拿捕ないし殺害されればでは無かろうか」
答えた玄蔵に、ランドはうなずいて見せる。
「ええ、それで正解です。……となれば、敵はどう動くか」
「まあ、大艦隊なり何なりを率いて、ここへ攻め込むのが常道であろうな。それ以外に道は無い。まさか克の如く、一瞬で来られるわけも無し」
「そこです。幸いにも、世界最強の敵が進める道は、一本しか無いんです。逆に言えば、その一本を抑えてしまえば、敵は手も足も出なくなります」
「理屈はそうですが、具体的にはどのような手段を?」
「いくつか考えてありますが、それは置いておいて。
次に、我々の勝利とは何でしょうか?」
「それはもちろ、……ん」
答えようとした玄蔵が、途中で言葉を切る。
「……いや、うーむ」
「言ってみてください」
「いや、これは非常識に過ぎるし」
「思い付くままにどうぞ」
「……その、……まあ、……敵の本拠を制圧し、……その、……敵の元帥を拿捕ないし、……あるいは、討ち取ることが、……できれば、……そう言えるのでは、なかろうか」
「でしょうね」
さらりとうなずいて見せたランドに、玄蔵は唖然とする。
「卿よ、いくらなんでもそれは、荒唐無稽に過ぎはせんか? 相手は中央軍、中央政府――紛うことなき、世界最高の戦力なのだぞ?」
「ええ。5年前なら僕も難色を示したでしょうね、その選択は」
そう返したランドに、双葉は不思議そうな声色で尋ねてきた。
「では……、今なら難しくないと言うのですか?」
「ええ」
ランドはうなずき、自信たっぷりにこう言った。
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