黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・封臣記 3

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    フォコの話、350話目。
    手厚いもてなしの裏には。

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    3.
    「くそっ……、何と言うことだ」
     ゴールドコーストの金火狐屋敷で療養することとなったコーネリアス卿は、忌々しげに窓の外に広がる海を眺めていた。
     1万数千に上る兵士のほとんどは市内の宿や民家に泊まっていたのだが、中央政府の要人である卿は、「そんな貴人をやっすい宿に泊まらすなんてでけません。どうぞウチの方へ」と、フォコが自ら招待していたのだ。
    「あれだけの人員と装備を搭載していた艦が、一隻残らずすべて沈没とは。とんでもない失態だ……!」
     就任後初の任務に失敗したため、卿はひどく落胆していた。
    「閣下、ちょとよろしいですか?」
     と、そこへフォコが、娘のイヴォラを伴って現れた。
    「ああ、ニコル卿。何かご用ですかな」
    「いえいえ、意気消沈してはるみたいですし、気晴らしに食事でもどうか、と思いまして」
    「ふむ……。そうですな、確かに気が塞いでいたところです。是非、お願いします」

     屋敷の食堂へと歩きながら、フォコたちと卿は会話を交わす。
    「まさか異教徒の私が、これほどあなた方に厚遇されるとは思いませんでした」
    「あはは……、央中天帝教に『異教徒は排除せよ』と言うような教えはありません。皆さん等しく、『お客さん』ですわ」
    「ははは、なるほど。となると宿代が心配ではあるが……」
    「まあ、流石にタダでとは言いませんけども、非常時のことですし、お安くしときます」
    「それは助かる。帰国後に支払う形であれは、もっと助かるのだが」
    「ええ、そのつもりです。難破した人から直に金を取ろうっちゅうんは、流石にアコギ過ぎますからな」
    「ありがとう、ニコル卿。深い配慮、誠に痛み入る」
     そう言ってから、コーネリアス卿は肩をすくめ、苦笑してみせる。
    「……帝もあなたほど聡明で寛容であれば、こんな目に遭わずに済んだのだが」
    「宮仕えは苦労が多いと聞きますが、ホンマなんですなぁ」
    「おっと、私がこんなことを言っていたとは、吹聴しないでほしい」
    「勿論。なー、イヴォラ」
    「なー」
     二人して笑い合うフォコ親子に、コーネリアス卿はクス、と微笑んだ。
    「いやいや、卿を見るに、まったくうらやましいことばかりだ。
     私にも子供がいるが、残念ながらあなた方のように、あまり親しくない。私が仕事漬けなせいで、家族とは疎遠になってしまってね」
    「そらいけませんな、家族は大事にせなあきませんよ」
    「分かっている。会えないのは残念だが、不足の無いようにはしているつもりだ」
    「もし逗留期間が伸びそうやったら、こちらに招待してみてはどうです? 楽しいところですよ、ここは」
    「はは、それもいいな。……あ、いやいや、あまり長居しては、職を失ってしまう」
    「あはは……」



     食事を共にし、何度か話をするうちに、コーネリアス卿はすっかり、フォコと親しくなっていた。
    (異邦人の私を、これほど手厚く持て成してくれるとは。卿の懐の深さ、本当に学ぶべきものだ)
     卿はフォコに敬服しつつ、寝室へ向かう途中――。
    「……ええ……段階……ちゅうところ……」
     そのフォコの声が、彼の執務室からひそひそと聞こえてくるのに気が付いた。
    「うん……?」
     いつものひょうきんな口調とは打って変わった、真剣みを帯びた声に、コーネリアス卿は不穏なものを感じる。
    (恩人を詮索すると言うのは、気が引けるが……)
     そう思ってはみたが、これまでに聞いたことのない語気の堅さがどうしても気にかかったため、卿はそっと執務室の前に張り付き、聞き耳を立てた。

    「ええ、まずは第一段階終了、ちゅうところでしょうな」
     フォコは「魔術頭巾」にて、央南の玄蔵、そして滞在中のランドと連絡を取っていた。
    《では、しばらく中央軍が再侵攻することは無い、と見て間違い無いのだな?》
    「まず、ありまへんな。向こうさんは問題なく、ジョージ・コーネリアス艦隊が央南へ向かっとるもん、と思とるはずです。
     情報統制は、内外カッチリまとめとりますからな」
    「……!?」
     これを聞いていたコーネリアス卿は、目を丸くした。
    (情報統制により、我々の現況が中央政府に伝わっていない……!?
     何故だ!? 何故卿が、そのようなことを?)
     気が付いた時には、コーネリアス卿は扉を開け、中へ転がり込んでいた。
    「……あー、と。すみません、ホムラ閣下。ちょと、通信切りますで」
     フォコは「頭巾」を脱ぎ、押し入ってきたコーネリアス卿に、やんわりと声をかけた。
    「どないしました、コーネリアス閣下? 何や、悪い夢でも見やはりましたか」
    「……ああ、見てしまったよ」
     卿はふらふらと立ち上がり、後ろ手でそっと扉を閉めた。
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