「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第7部
火紅狐・黒蓮記 3
フォコの話、362話目。
ただ一度の、本拠決戦。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
あのコソ泥じみた猫獣人の兵士と、それを引っ張ってきた短耳の将校が東大外門の内側に到着するかしないかのところで、彼ら二人は、絶望的な事態を確認した。
「うわ、……っ」
「遅かったか……!」
襲撃を強く想定していないとは言え、「大」と名の付く門である。
首都の防衛に配属されてから、ずっと彼らが見上げてきたその大きな門は、彼らの目の前で木端微塵に吹き飛ばされたのだ。
「敵襲、敵襲!」
「門が破られた! 繰り返す、東大外門が破られた!」
「死傷者多数! 応援を、応援をーッ!」
門のこちら側は、既に地獄と化していた。
「……戦うんだ! ほら、行くぞ!」
そう言って剣を抜きかけた将校に、兵士はプルプルと首を振った。
「い、……いやだ」
「何を寝ぼけている! 剣を抜くんだ! 早く!」
迫る将校に、兵士は後ずさる。
「無理……ですよ……」
「ふざけるな! 戦ってもいないうちから……!」
「じゃあ勝てる要素があるんですか!? こっちの守りは、1万ちょっとの兵士と、あの門だったんですよ!?
それがあんな……簡単に……!」
既に門は原形を留めておらず、周辺の道や壁は無残にえぐれ、めくれ返ってしまっている。
さらに、門を破られまいと後ろから押していた兵士もまた、砲撃に巻き込まれ、倒れた者は人の形すら留めていない。
残る兵士たちも、連綿と続く砲撃になす術もなく、退却を始めていた。
「……く……!」
「逃げましょう! ここにいたら、俺たち死にます!」
「……わか、った。……退却、……する」
将校と兵士は踵を返し、その場から走り去った。
ランドの号令で始まった砲撃は、簡単に東大外門の防衛ラインを突き崩した。
「全軍、前進! 魔術部隊、構え!」
がら空きになった門を通過し、ランドは次に来るであろう攻撃を予想し、対策を取る。
「魔術部隊、唱え! 『フォースオフ』!」
「了解! 『フォースオフ』!」
400人余りで構成された魔術部隊が揃って「術封じ」を発動させると同時に、こちらに向かってきていた火の槍、土の槍が、呆気なく四散する。
「中央軍の攻勢パターンは把握できてるさ。魔術や大砲による大規模攻撃、次いで人海戦術を軸とした白兵戦だ。
だけどもあの初弾に加え、次に来る反撃を、こうして無力化すれば……」
「心が折れる、っちゅうやつですな」
「そう言うことさ。恐らく前線に出ていた半数以上は、戦意を喪失してるはずだ」
ランドの読み通り、中央軍の兵士たちはバラバラと、戦線から離れ始めた。
「最強の軍と言っても、それは量での話だ。質を見れば、内戦に次ぐ内戦を重ねてきた北方や央南、南海とは比べ物にならない。
彼らのアドバンテージをことごとく奪う戦略を以てすれば、一両日中にこの、クロスセントラルを制圧できるはずだ」
第一の防衛ラインである東大外門を破り、ランドたちの軍は続いて第二ライン、郊外から市街地へと入るまでの、幅3キロ程度の緑地と東小外門が待つ地帯へと侵入した。
東大外門前から退却した兵士と将校は、なおも迫ってくる敵軍を、木々の陰から確認していた。
「どうなっている、援軍は……!?」
敵軍に見つからないように潜んでいた将校が、苛立たしげに市街地の方へと目を向ける。
「どうやら向こうは大砲を使って攻撃しているようだが、それはこちらも用意している! 同等の装備で防御を固めれば、呆気なく侵入されることは無いはずだ……!」
それを聞いて、兵士ははあ、とため息をついた。
「上官殿。もしかして、休暇中でした?」
「うん? ……ああ、長期休暇で二ヶ月ほど過ごすはずだったが」
「休暇に入ったのは、半月前?」
「うむ?」
そこで兵士はぼそ、とつぶやいた。
「……何だと? そんな馬鹿な!」
「そのバカが、直々に仰ったことっスよ。……あいつ頭おかしいっスよ、マジで」
「貴様、それは不敬罪に当たるぞ!」
声を荒げる将校に、兵士はぷるぷると首を振って見せた。
「……そんな罪名、今日明日には消えて無くなってますよ。その、敬う相手ごと」
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ただ一度の、本拠決戦。
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あのコソ泥じみた猫獣人の兵士と、それを引っ張ってきた短耳の将校が東大外門の内側に到着するかしないかのところで、彼ら二人は、絶望的な事態を確認した。
「うわ、……っ」
「遅かったか……!」
襲撃を強く想定していないとは言え、「大」と名の付く門である。
首都の防衛に配属されてから、ずっと彼らが見上げてきたその大きな門は、彼らの目の前で木端微塵に吹き飛ばされたのだ。
「敵襲、敵襲!」
「門が破られた! 繰り返す、東大外門が破られた!」
「死傷者多数! 応援を、応援をーッ!」
門のこちら側は、既に地獄と化していた。
「……戦うんだ! ほら、行くぞ!」
そう言って剣を抜きかけた将校に、兵士はプルプルと首を振った。
「い、……いやだ」
「何を寝ぼけている! 剣を抜くんだ! 早く!」
迫る将校に、兵士は後ずさる。
「無理……ですよ……」
「ふざけるな! 戦ってもいないうちから……!」
「じゃあ勝てる要素があるんですか!? こっちの守りは、1万ちょっとの兵士と、あの門だったんですよ!?
それがあんな……簡単に……!」
既に門は原形を留めておらず、周辺の道や壁は無残にえぐれ、めくれ返ってしまっている。
さらに、門を破られまいと後ろから押していた兵士もまた、砲撃に巻き込まれ、倒れた者は人の形すら留めていない。
残る兵士たちも、連綿と続く砲撃になす術もなく、退却を始めていた。
「……く……!」
「逃げましょう! ここにいたら、俺たち死にます!」
「……わか、った。……退却、……する」
将校と兵士は踵を返し、その場から走り去った。
ランドの号令で始まった砲撃は、簡単に東大外門の防衛ラインを突き崩した。
「全軍、前進! 魔術部隊、構え!」
がら空きになった門を通過し、ランドは次に来るであろう攻撃を予想し、対策を取る。
「魔術部隊、唱え! 『フォースオフ』!」
「了解! 『フォースオフ』!」
400人余りで構成された魔術部隊が揃って「術封じ」を発動させると同時に、こちらに向かってきていた火の槍、土の槍が、呆気なく四散する。
「中央軍の攻勢パターンは把握できてるさ。魔術や大砲による大規模攻撃、次いで人海戦術を軸とした白兵戦だ。
だけどもあの初弾に加え、次に来る反撃を、こうして無力化すれば……」
「心が折れる、っちゅうやつですな」
「そう言うことさ。恐らく前線に出ていた半数以上は、戦意を喪失してるはずだ」
ランドの読み通り、中央軍の兵士たちはバラバラと、戦線から離れ始めた。
「最強の軍と言っても、それは量での話だ。質を見れば、内戦に次ぐ内戦を重ねてきた北方や央南、南海とは比べ物にならない。
彼らのアドバンテージをことごとく奪う戦略を以てすれば、一両日中にこの、クロスセントラルを制圧できるはずだ」
第一の防衛ラインである東大外門を破り、ランドたちの軍は続いて第二ライン、郊外から市街地へと入るまでの、幅3キロ程度の緑地と東小外門が待つ地帯へと侵入した。
東大外門前から退却した兵士と将校は、なおも迫ってくる敵軍を、木々の陰から確認していた。
「どうなっている、援軍は……!?」
敵軍に見つからないように潜んでいた将校が、苛立たしげに市街地の方へと目を向ける。
「どうやら向こうは大砲を使って攻撃しているようだが、それはこちらも用意している! 同等の装備で防御を固めれば、呆気なく侵入されることは無いはずだ……!」
それを聞いて、兵士ははあ、とため息をついた。
「上官殿。もしかして、休暇中でした?」
「うん? ……ああ、長期休暇で二ヶ月ほど過ごすはずだったが」
「休暇に入ったのは、半月前?」
「うむ?」
そこで兵士はぼそ、とつぶやいた。
「……何だと? そんな馬鹿な!」
「そのバカが、直々に仰ったことっスよ。……あいつ頭おかしいっスよ、マジで」
「貴様、それは不敬罪に当たるぞ!」
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~ Comment ~
初めまして!
黄輪さん初めまして!
ご訪問ありがとうございます。
小説すごいですね!
超大作じゃないですか。
これだけのものを書こうと思うと大変でしょうね。
これからチョクチョク見させていただきますね!
ご訪問ありがとうございます。
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NoTitle
このブログを開設してから、かれこれ3年とちょっと。
その間ずっと、小説を連載してきました。
文字数にして、170万文字は書いたかも知れません。
大変でしたねぇ。
またのご訪問、お待ちしております。