「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第7部
火紅狐・黒蓮記 5
フォコの話、364話目。
愚君、ここに極まれり。
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5.
東小外門の防衛を退け、市街地へと入ってきたランドたちは、そこからは簡単に行軍を進めることができた。
どうやら二度の撤退と大火による威嚇攻撃で、戦意を完全に喪失したらしく、兵士たちの大半はドミニオン城へと逃げ込んだようだった。
それでもまだ多少、果敢に反撃してくる者もいたが、最早陣形を組んで攻められるような状態ではなく、ランドたちの相手には到底、ならなかった。
「……? 変だな」
と、その状況を受けて、ランドがけげんな表情を浮かべる。
「どないしはりました?」
「中央軍は、旧エンターゲート製造から武器を買っていたはずだ。当然その中には、大砲や火薬もあったはず。
なのにこれまでの、二ヶ所の防衛ラインで使おうともしなかったし、配備されてる様子も無かった。
その上、今いる市街地なら、僕たちは固まって行動せざるを得ない。ここで砲撃されればひとたまりもないし、形振り構わず使うなら、今が最後のチャンスと言っていい。
なのに、……既に戦力にならない白兵戦でのみ、細々と応戦だなんて?」
「……言われてみれば、そうですな?」
フォコとランドは互いに首をかしげつつも、行軍を続けた。
ランドたちが東小外門を破る、2時間ほど前――。
「へ、陛下!」
「なんだ、騒々しい」
東大外門が破られたと言う報告を受けた近衛兵が、オーヴェル帝の私室に飛び込んできた。
「敵襲でございます!」
「敵襲? どこにだ? また港か?」
「いえ、この聖都にでございます!」
「……何?」
それを聞き、オーヴェル帝は顔色を変えた。
「それは真か!?」
「は、はい! 敵軍の服装を見るに、件の『黒い蓮』ではないかとの報告が……」「どけッ!」
オーヴェル帝は近衛兵の話を聞かず、彼を突き飛ばして私室を後にし、大慌てで軍務院へ駆けた。
「軍務大臣、……ではなく、軍務大臣代行! いるか!?」
オーヴェル帝は執務室の扉を乱暴に蹴り開き、真っ青な顔をして机に着いていたジョーンズ中将に向かって怒鳴りつけた。
「どうなっておる!? 敵襲とはどう言うことぞ!? 守りは万全では無かったのか!?」
「陛下、その、詳しく説明を、その、……いや、それよりも」
中将はバタバタと慌ただしく立ち上がり、オーヴェル帝に恐る恐る尋ねた。
「現場の方より、我が軍に配備されていたはずの大砲、350門が一つ残らず解体されている、との報告がありました!
しかも聞けば、陛下直々に解体するよう、命じられたと言うではないですか!? 何故そんなことを!?
あまつさえ、何故私にそれを、報告してくださらなかったのです!?」
「大砲? ……ああ、あの悪魔の筒のことか」
オーヴェル帝は平然とそう返し、続いてこう言ってのけた。
「後で報告させようとして、そのまま忘れておったわ。
まあ……、あの賊将共の一派が残した武具なぞ、置いてはおけぬと思い立ってな、つい半月ほど前に、朕から直々に、現場の者に命じたのだ」
この返答に、中将は強いめまいを覚えた。
「なん……です……と? 何故それを……いや、……何故そんなことを!?」
「朕に同じことを言わせるつもりか、貴様は? 下衆共の遺した遺産なぞ、名誉ある我が中央軍が使うことなど、あってはならんからじゃ!」
「ば、馬鹿な!」
思わずそう叫び、中将は慌てて口を抑えたが――。
「……馬鹿? 朕をそう呼んだのか、貴様!?」
時既に遅く、オーヴェル帝は顔を真っ赤にし、ぶるぶると震えていた。
「朕を、朕を馬鹿にするのか、貴様ああああッ!」
オーヴェル帝は中将の胸ぐらをつかみ、その顔に拳骨を振り下ろした。
「ぐあっ……、な、何を!?」
「まさか逆賊共の武器をつつ使えと、貴様はそう言うのか! この聖都を、けけけ穢れた武器で護ると言うのか、貴様はああああ!?」
倒れ込んだ中将に、オーヴェル帝は蹴りを浴びせ、次いで中将の座っていた椅子を振り上げ、さらに殴りつける。
「お、落ち着いてくださ、げぼっ」
「この逆賊め! 外道め! まさかこのせせせ聖地を邪教の者どもにおめおめ踏み荒らさせただけには留まらず、その上けけ穢れた武器を使おうと言うのか!? そ、その怠慢と愚行、万死に値する! 即刻、ううう打ち首にしてくれようぞ!」
「……待ってください、陛下!」
中将はどうにか天帝の暴行から逃れ、鼻や口から血を流したまま、反論する。
「お言葉ですが陛下、あなた自身が、この首都の防御を外周へ回せと仰せられたのですぞ? 私はその後意見に対し、しっかりと『それは危険である』と、申し上げたはずです!
そして陛下、あなたはこうも仰ったはず! 『多少の危険はあろうとも、朕が許そう。即刻、兵を向けよ』と!
その一方で、今や防衛・侵攻に欠かせない、最新鋭の兵器を廃棄するなど! そんな無茶ばかりされては、中央軍といえども張り子の虎になってしまいます!」
懸命に言葉を重ねた中将だったが、怒り心頭に発したオーヴェル帝は全く耳を貸さない。
「き、貴様……ッ、朕の、朕の言葉を穢すかあああッ!」
オーヴェル帝は怒りに任せて椅子を振り上げ、中将に叩き付けた。
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東小外門の防衛を退け、市街地へと入ってきたランドたちは、そこからは簡単に行軍を進めることができた。
どうやら二度の撤退と大火による威嚇攻撃で、戦意を完全に喪失したらしく、兵士たちの大半はドミニオン城へと逃げ込んだようだった。
それでもまだ多少、果敢に反撃してくる者もいたが、最早陣形を組んで攻められるような状態ではなく、ランドたちの相手には到底、ならなかった。
「……? 変だな」
と、その状況を受けて、ランドがけげんな表情を浮かべる。
「どないしはりました?」
「中央軍は、旧エンターゲート製造から武器を買っていたはずだ。当然その中には、大砲や火薬もあったはず。
なのにこれまでの、二ヶ所の防衛ラインで使おうともしなかったし、配備されてる様子も無かった。
その上、今いる市街地なら、僕たちは固まって行動せざるを得ない。ここで砲撃されればひとたまりもないし、形振り構わず使うなら、今が最後のチャンスと言っていい。
なのに、……既に戦力にならない白兵戦でのみ、細々と応戦だなんて?」
「……言われてみれば、そうですな?」
フォコとランドは互いに首をかしげつつも、行軍を続けた。
ランドたちが東小外門を破る、2時間ほど前――。
「へ、陛下!」
「なんだ、騒々しい」
東大外門が破られたと言う報告を受けた近衛兵が、オーヴェル帝の私室に飛び込んできた。
「敵襲でございます!」
「敵襲? どこにだ? また港か?」
「いえ、この聖都にでございます!」
「……何?」
それを聞き、オーヴェル帝は顔色を変えた。
「それは真か!?」
「は、はい! 敵軍の服装を見るに、件の『黒い蓮』ではないかとの報告が……」「どけッ!」
オーヴェル帝は近衛兵の話を聞かず、彼を突き飛ばして私室を後にし、大慌てで軍務院へ駆けた。
「軍務大臣、……ではなく、軍務大臣代行! いるか!?」
オーヴェル帝は執務室の扉を乱暴に蹴り開き、真っ青な顔をして机に着いていたジョーンズ中将に向かって怒鳴りつけた。
「どうなっておる!? 敵襲とはどう言うことぞ!? 守りは万全では無かったのか!?」
「陛下、その、詳しく説明を、その、……いや、それよりも」
中将はバタバタと慌ただしく立ち上がり、オーヴェル帝に恐る恐る尋ねた。
「現場の方より、我が軍に配備されていたはずの大砲、350門が一つ残らず解体されている、との報告がありました!
しかも聞けば、陛下直々に解体するよう、命じられたと言うではないですか!? 何故そんなことを!?
あまつさえ、何故私にそれを、報告してくださらなかったのです!?」
「大砲? ……ああ、あの悪魔の筒のことか」
オーヴェル帝は平然とそう返し、続いてこう言ってのけた。
「後で報告させようとして、そのまま忘れておったわ。
まあ……、あの賊将共の一派が残した武具なぞ、置いてはおけぬと思い立ってな、つい半月ほど前に、朕から直々に、現場の者に命じたのだ」
この返答に、中将は強いめまいを覚えた。
「なん……です……と? 何故それを……いや、……何故そんなことを!?」
「朕に同じことを言わせるつもりか、貴様は? 下衆共の遺した遺産なぞ、名誉ある我が中央軍が使うことなど、あってはならんからじゃ!」
「ば、馬鹿な!」
思わずそう叫び、中将は慌てて口を抑えたが――。
「……馬鹿? 朕をそう呼んだのか、貴様!?」
時既に遅く、オーヴェル帝は顔を真っ赤にし、ぶるぶると震えていた。
「朕を、朕を馬鹿にするのか、貴様ああああッ!」
オーヴェル帝は中将の胸ぐらをつかみ、その顔に拳骨を振り下ろした。
「ぐあっ……、な、何を!?」
「まさか逆賊共の武器をつつ使えと、貴様はそう言うのか! この聖都を、けけけ穢れた武器で護ると言うのか、貴様はああああ!?」
倒れ込んだ中将に、オーヴェル帝は蹴りを浴びせ、次いで中将の座っていた椅子を振り上げ、さらに殴りつける。
「お、落ち着いてくださ、げぼっ」
「この逆賊め! 外道め! まさかこのせせせ聖地を邪教の者どもにおめおめ踏み荒らさせただけには留まらず、その上けけ穢れた武器を使おうと言うのか!? そ、その怠慢と愚行、万死に値する! 即刻、ううう打ち首にしてくれようぞ!」
「……待ってください、陛下!」
中将はどうにか天帝の暴行から逃れ、鼻や口から血を流したまま、反論する。
「お言葉ですが陛下、あなた自身が、この首都の防御を外周へ回せと仰せられたのですぞ? 私はその後意見に対し、しっかりと『それは危険である』と、申し上げたはずです!
そして陛下、あなたはこうも仰ったはず! 『多少の危険はあろうとも、朕が許そう。即刻、兵を向けよ』と!
その一方で、今や防衛・侵攻に欠かせない、最新鋭の兵器を廃棄するなど! そんな無茶ばかりされては、中央軍といえども張り子の虎になってしまいます!」
懸命に言葉を重ねた中将だったが、怒り心頭に発したオーヴェル帝は全く耳を貸さない。
「き、貴様……ッ、朕の、朕の言葉を穢すかあああッ!」
オーヴェル帝は怒りに任せて椅子を振り上げ、中将に叩き付けた。
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