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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・契克記 1

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    フォコの話、366話目。
    街の混乱、組織の混乱。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     双月暦314年、5月。
     天帝を主権とする中央政府が解体され、その首都であったクロスセントラルは、緊張に包まれていた。
     これまで街を警護していた中央軍の姿はどこにも見当たらず、その代わりに「異教の徒」――央中天帝教の武力組織、「黒い蓮」が闊歩していたからだ。
    「どうなるんだろう……」
     街のとある礼拝所――見た目こそ教会なのだが、この街に総本山があるため、分類上はそうなる――に集まっていた住民たちは、外を恐る恐る眺めながら、一様に不安げな顔を突き合わせていた。
    「とりあえず、『危害は加えない』とは言ってたけど……」
    「異教徒だからなぁ、……あいつらにとっては」
    「あいつら事あるごとに『迫害されてきた』『その報いを受けよ』って言ってるからなぁ」
    「……もろ、目の仇にしてるよな」
     そこで彼らは、奥に祀られていた偶像に目をやる。
    「どうせあいつら、天帝教関係を追い出すだろうし、この像とかも……」
    「まあ、多分。……やっとくか?」
    「……媚びといて損は無いよな、きっと」
     彼らは煉瓦や棒切れを手に、偶像へと近付いた。

     別の礼拝所では――。
    「どうかどうか、お願いいたします……」
    「彼らを鎮めてくださいますよう……」
     こちらには、狐獣人を象った女神像が祀られていた。
     元々、この「狐の女神様」――エリザ・ゴールドマンは、古代における「世界平定」に協力した功績から、央北天帝教における神の一柱に挙げられている。
     その扱いを拡大解釈し、央中にとって都合のいい形で祭り上げたのが、央中天帝教の発祥である。
     そのつながり、起源を知る者たちがここに集い、彼女に祈りを捧げているのである。

     また別の、礼拝所――。
    「ここは壊させないぞ!」
    「退け、悪魔どもめ!」
     中にいた者たちが扉の前にバリケードを張り、外で困った顔をして立つ「黒い蓮」たちに、ポンポンと石や木片を投げつけている。
    「いや、その……」
    「黙れ! お前らのせいで、天帝陛下が死んだのだ!」
    「これ以上犠牲を増やしてなるものか! 我々は徹底的に抗戦する!」
    「……ダメだこりゃ。話にならん」
     聞く耳を持たず、半狂乱になって喚き散らす彼らに、「黒い蓮」は小さく首を振って背を向け、そのまま立ち去った。



    「……と言うように、街は現在、混乱の渦中にあるようです」
     中央政府側の政務大臣から報告を受けたランドは、元々自分が就いていた、政務大臣の机に頬杖をつき、「うーん……」とうなった。
    「いまいち、僕たちが民間人に危害を加えない、と言うのが伝わってないみたいだね。……仕方ないことではあるけど」
    「と申しますと?」
    「向こうにとっては、僕たちはどう解釈されようと『異教徒』だ。
     言い換えれば、自分たちの常識が通用しない、何だか良く分からない、怖い相手なんだ。その怖い相手が街中をウロウロ……、なんて言うのは、確かに正気でなんかいられない。こっちの言うことなんて、どう優しく言ったって悪魔の叫び声と一緒だろうしね。
     このまま『黒い蓮』を市内に徘徊させたままじゃ、その恐怖から暴動やら集団自決やらしかねないな」
    「それはよろしくありませんな」
    「とは言え、話もまとまってないうちに引き揚げさせるわけにも行かないし、早いところ、新しい統治体制を築き直さないといけないね」
     ランドは机を離れ、政務大臣に付いてくるよう促した。
    「今日の協議を始めよう。遅くても、あと3、4日以内には話をまとめたい」
    「承知しました。各執務院の大臣を集めてまいります」
    「よろしく」



     首都制圧から2週間近く経った現在、その「新しい統治体制」は次のようにまとまっていた。
     まず天帝一族、タイムズ家の今後の扱いについて。これまで神の名の元に政治を統率してきた天帝一族は、「黒い蓮」が以前に要求した通り、永久に中央政府、および世界政治と関わらないことを約束させられ、一族全員が、まだ「黒い蓮」の占拠下にある天帝廟へと移送された。
     これ自体はすんなりと話はまとまったのだが、次の議題である中央政府自体の処遇については、数日の協議を経てなお、決定が難航していた。
     神権政治を廃することに成功した今、最早「天帝への寄進」を名目とした徴発はできない。これまでより強制力が抑えられるのは確実であるし、「従来の体制で存続させても、問題ないのでは」と言う意見もあったが、ランドはこれを「非常に楽観的、および保身的な意見」として却下。別の口実で徴発しようとする不埒者の存在を考えるランド側からは、より厳しい再編を求めており、それが争点となっていた。
     また、中央政府を攻撃するために結成された「黒い蓮」からも、今回の作戦成功に対する報酬を求められている。彼らの7割以上は、実は央中天帝教の信者ではなく、これまでフォコやランドたちと懇意にしてきた北方や南海、央南の諸国から派遣されてきた兵士であり、中央政府からタイムズ一族を追い出したところで、その7割にとっては特に、感慨深いものでもない。
     とは言え単純に金品などでは、彼らの雇い主である各国の王や大臣が納得しない。彼らも全くの善意、無償で兵を貸したわけではなく、何らかの見返りを密かに求めているのは明白だからだ。



    「……やれやれ、だ。まだまだ僕の戦争は、終わってないみたいだ」
     ランドはそうつぶやきながら眼鏡を顔から外し、拭こうとした。
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