「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第7部
火紅狐・契克記 2
フォコの話、367話目。
契約履行。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
と――。
「ランド」
これまで何度もあったように、唐突に、彼の声がランドへと投げかけられた。
「あ、タイカ」
ランドは眼鏡をかけ直し、声のした方へと向く。
「どうしたの?」
そう尋ねたが、大火は答えない。
「……」
その顔はいつもと同じ仏頂面だったが、ランドには何かが違うように感じられた。
「どうしたのかな……?」
「……」
大火はす、と扉に手をかざし、術を使って鍵をかけた。
「大事な話、……かな」
「ああ、そうだ」
大火はランドの方を向き、こう尋ねた。
「ランド。お前はこの世界を動かしていた中央政府を今、我が物にしたわけだ」
「そうだね。確かに僕は、中央政府を手に入れた形になる」
「では問うが」
大火は一歩、ランドの方へ近付いてきた。
「世界は、救われたわけだな?」
「え?」
その問いに、ランドは一瞬、きょとんとなる。
「救われ……? ああ」
そして7年前、自分が政治犯として投獄され、その渦中で叫んだことを思い出した。
「そうだね、うん、救われたんだと思う。
バーミー卿と、彼に協力していたエンターゲート氏は消えた。その後に残った暴君、オーヴェル帝も崩御した。そして中央政府は機能を停止し、生まれ変わろうとしている。
前中央政府における禍根はすべて、断たれた。世界は救われた、はずだ」
「そうか」
次の瞬間、ランドの視界がすとん、と落ちた。
「あれ?」
ランドは自分が、いつの間にか膝立ちになっていることに気付く。
「おかしいな、ごめん、何か腰が抜けて……?」
一瞬、脚が無くなってしまったのかと思ったが、振り返ってみるとしっかり、脚があるのが確認できる。
「え、っ……?」
頭ががくん、と重みを増す。膝立ちすらできなくなり、床に手を付いてしまう。
「……ねえ、タイカ。君、何かしたの?」
「ああ。7年前に、な」
「そんなに、前から?」
「契約内容を確認しよう。お前は『世界を救うためであれば、自分の所有物を何でも譲渡する』と、俺に言った。そうだな?」
「そう、だね、うん。確かに、そんなこと、言った気が、する」
「当時のお前が所有していたものは、囚人服と眼鏡、そして……」
大火は倒れ込んでしまったランドの顔を挙げさせ、自分に目を向けさせる。
「お前の肉体だ」
「ああ、そう、か。僕が、ほしいと」
「それ以外に譲渡できたものは、当時には無い。
この契約に、『先物』は無しだ。当時、お前が持っていたもので、支払ってもらう」
「あー……、なるほど、ね。囚人服は、あの時、渡したし、あの時の、眼鏡は、スペア、として、胸ポケットに、しまってある。
じゃあ、後は、……僕だけだ。僕、自身」
ランドはこの時何故か、自分の肉体が損なわれると言う悲観も、何をされるのかと言う恐怖も、これからの仕事ができない悔しさも、抱いてはいなかった。
目の前にいるこの悪魔が、確かに自分の契約や約束、命令通りに今まで働き、自分が期待する以上に貢献してくれたことは、十二分に分かっているつもりだったし、契約内容に則って動くことを、彼が曲げることは無いと理解していたからだ。
即ち――この克大火は、何が起ころうとも、世界を救うに値する仕事をした分だけ、それに見合う契約を履行するのだと、ランドは理解していた。
そしてそれには、一つの例外も無いことも。
「そうだ」
理解していたからこそ、ランドは何の抵抗もしなかったし、しようとも思わなかった。
ランドは大火の顔をじっと見て、それから目を閉じた。
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契約履行。
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2.
と――。
「ランド」
これまで何度もあったように、唐突に、彼の声がランドへと投げかけられた。
「あ、タイカ」
ランドは眼鏡をかけ直し、声のした方へと向く。
「どうしたの?」
そう尋ねたが、大火は答えない。
「……」
その顔はいつもと同じ仏頂面だったが、ランドには何かが違うように感じられた。
「どうしたのかな……?」
「……」
大火はす、と扉に手をかざし、術を使って鍵をかけた。
「大事な話、……かな」
「ああ、そうだ」
大火はランドの方を向き、こう尋ねた。
「ランド。お前はこの世界を動かしていた中央政府を今、我が物にしたわけだ」
「そうだね。確かに僕は、中央政府を手に入れた形になる」
「では問うが」
大火は一歩、ランドの方へ近付いてきた。
「世界は、救われたわけだな?」
「え?」
その問いに、ランドは一瞬、きょとんとなる。
「救われ……? ああ」
そして7年前、自分が政治犯として投獄され、その渦中で叫んだことを思い出した。
「そうだね、うん、救われたんだと思う。
バーミー卿と、彼に協力していたエンターゲート氏は消えた。その後に残った暴君、オーヴェル帝も崩御した。そして中央政府は機能を停止し、生まれ変わろうとしている。
前中央政府における禍根はすべて、断たれた。世界は救われた、はずだ」
「そうか」
次の瞬間、ランドの視界がすとん、と落ちた。
「あれ?」
ランドは自分が、いつの間にか膝立ちになっていることに気付く。
「おかしいな、ごめん、何か腰が抜けて……?」
一瞬、脚が無くなってしまったのかと思ったが、振り返ってみるとしっかり、脚があるのが確認できる。
「え、っ……?」
頭ががくん、と重みを増す。膝立ちすらできなくなり、床に手を付いてしまう。
「……ねえ、タイカ。君、何かしたの?」
「ああ。7年前に、な」
「そんなに、前から?」
「契約内容を確認しよう。お前は『世界を救うためであれば、自分の所有物を何でも譲渡する』と、俺に言った。そうだな?」
「そう、だね、うん。確かに、そんなこと、言った気が、する」
「当時のお前が所有していたものは、囚人服と眼鏡、そして……」
大火は倒れ込んでしまったランドの顔を挙げさせ、自分に目を向けさせる。
「お前の肉体だ」
「ああ、そう、か。僕が、ほしいと」
「それ以外に譲渡できたものは、当時には無い。
この契約に、『先物』は無しだ。当時、お前が持っていたもので、支払ってもらう」
「あー……、なるほど、ね。囚人服は、あの時、渡したし、あの時の、眼鏡は、スペア、として、胸ポケットに、しまってある。
じゃあ、後は、……僕だけだ。僕、自身」
ランドはこの時何故か、自分の肉体が損なわれると言う悲観も、何をされるのかと言う恐怖も、これからの仕事ができない悔しさも、抱いてはいなかった。
目の前にいるこの悪魔が、確かに自分の契約や約束、命令通りに今まで働き、自分が期待する以上に貢献してくれたことは、十二分に分かっているつもりだったし、契約内容に則って動くことを、彼が曲げることは無いと理解していたからだ。
即ち――この克大火は、何が起ころうとも、世界を救うに値する仕事をした分だけ、それに見合う契約を履行するのだと、ランドは理解していた。
そしてそれには、一つの例外も無いことも。
「そうだ」
理解していたからこそ、ランドは何の抵抗もしなかったし、しようとも思わなかった。
ランドは大火の顔をじっと見て、それから目を閉じた。
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