「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第7部
火紅狐・猫討記 8
フォコの話、378話目。
不胎化された反乱。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
イールと大火の様子を、固唾を呑んで見守っていた反乱軍は、丘の上から空へと、極太の稲妻が放射されたのを見た。
「な、なんだ、あれは……!?」
「サンドラ卿だ! サンドラ卿が、『雷』の術を使ったんだ!」
「じゃあ、交渉は……」
「決裂した、……か」
それから10分後、丘から一人、降りて来るのが確認された。
「あ……、ああ……」
「『黒い悪魔』……」
やって来たのは、全身からブスブスと煙を立て、顔の至る穴から血を流した、大火の姿だった。
「……最後通牒を言い渡す」
今にも倒れそうなその姿に似合わない、淡々とした、しかししっかりとした口調で、大火は投降を促した。
イールが倒れたことを悟った反乱軍は、大火の説得に、素直に応じた。
反乱軍は即座に中央軍によって拘束・拿捕され、全員が2ヶ月の懲役刑を言い渡された。
「……そうか、間に合わなかったか」
ジーン王国軍を離れ、単身反乱軍に参加することを決意したレブだったが、彼が沿岸部、グリーンプールに到着し、彼らの本拠地を探そうとしたところで、既に反乱軍が投降していたことを、現地の兵士から聞かされた。
「サンドラ卿はどうなった?」
「遺体は見つかっておりませんが、死んだものと思われます。
私も人づてに聞いただけですが、交戦の現場は、それはもうひどい有様だったようで」
「どこだったんだ?」
レブは兵士から場所を聞き、そこへと向かった。
「ここか……」
ブラックウッド近隣の丘にやって来たレブは、その惨状を目にした。
「……確かにひでえな」
丘の頂上だったと思われる場所はひどく焼け焦げ、クレーター状にえぐられていた。
「どんな戦いだったか、……一目瞭然ってやつだな。こりゃ確かに、死体も残らなかっただろうな」
レブはクレーターを降り、その中心点、爆心地へ向かう。
「ここでの戦いから、1週間は経ってるって聞いたが……、焦げ臭えな、まだ。
……ん?」
レブは真っ黒に焼け焦げた地面に、何かが埋まっているのに気付く。
「これは……、魔術書か? ……つっても俺には、さっぱりだけど」
表紙こそ半ば炭化していたものの、中身はほぼ原形を留めており、記述された呪文や魔法陣はほとんど損なわれていなかった。
「……マフスなら分かるかな。……他に何も無さそうだし、帰るか」
レブは山間部に戻り、既に自分の妻となっていたマフスに、その焦げた魔術書を見せた。
「これは……、ええ、多分イールさんの書いたものだと思います。わたしも何度か、イールさんの研究内容を見せていただいたことがありますし、筆跡や構文に、見覚えがあります」
「そっか……。死体も残ってなかったらしいし、家も全焼。あいつの遺品は、これだけだ」
「そうですか……。ひどい話ですね」
「……ああ、ひどいな。恐らく俺が助太刀したところで、結果は変わらなかっただろう。
タイカの実力は、俺もよく知ってる。こうなることは、予想できなかったわけじゃない。正直な話、陛下がイールを見捨てたことを、納得してる自分もいるんだ」
「あなた……」
「……馬鹿だなぁ、俺。それを分かってたってのに、陛下に唾吐いちまった。
どーすっかなぁ、これから」
虎耳をゴシゴシとこするレブに、マフスはにこっと笑いかけた。
「それなら、わたしの故郷に来ては如何かしら」
「お前の? ……ああ、いいかもな」
「あなたの経歴なら、向こうですぐに仕官もできるでしょうし。どうかしら?」
「……ま、そうだな。納得したっつっても、俺にはもう、王国に付いてく気は無いし。
お前と一緒に、新しい生活を始めるのが一番いい」
「うふふっ」
レブ・マフス夫妻は北方を離れ、南海ベール王国に渡った。
その後、レブはベール王国の将軍として迎えられ、後に護国卿へと昇進。軍人として高い名声と実績を積む一方で家族にも恵まれ、南海で幸せに一生を過ごした。
一方、「猫姫」イールを見離したとされ、国民からの支持を一時失ったジーン王国ではあったが、後に反大火派であることを公言し、支持を回復。諸般の事情から、大火はこれを黙認した。
その事情――316年に行われた「サウストレードの大交渉」こそが、後に「黒白戦争」と呼ばれるこの長い戦いの、終着点となる。
火紅狐・猫討記 終
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不胎化された反乱。
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イールと大火の様子を、固唾を呑んで見守っていた反乱軍は、丘の上から空へと、極太の稲妻が放射されたのを見た。
「な、なんだ、あれは……!?」
「サンドラ卿だ! サンドラ卿が、『雷』の術を使ったんだ!」
「じゃあ、交渉は……」
「決裂した、……か」
それから10分後、丘から一人、降りて来るのが確認された。
「あ……、ああ……」
「『黒い悪魔』……」
やって来たのは、全身からブスブスと煙を立て、顔の至る穴から血を流した、大火の姿だった。
「……最後通牒を言い渡す」
今にも倒れそうなその姿に似合わない、淡々とした、しかししっかりとした口調で、大火は投降を促した。
イールが倒れたことを悟った反乱軍は、大火の説得に、素直に応じた。
反乱軍は即座に中央軍によって拘束・拿捕され、全員が2ヶ月の懲役刑を言い渡された。
「……そうか、間に合わなかったか」
ジーン王国軍を離れ、単身反乱軍に参加することを決意したレブだったが、彼が沿岸部、グリーンプールに到着し、彼らの本拠地を探そうとしたところで、既に反乱軍が投降していたことを、現地の兵士から聞かされた。
「サンドラ卿はどうなった?」
「遺体は見つかっておりませんが、死んだものと思われます。
私も人づてに聞いただけですが、交戦の現場は、それはもうひどい有様だったようで」
「どこだったんだ?」
レブは兵士から場所を聞き、そこへと向かった。
「ここか……」
ブラックウッド近隣の丘にやって来たレブは、その惨状を目にした。
「……確かにひでえな」
丘の頂上だったと思われる場所はひどく焼け焦げ、クレーター状にえぐられていた。
「どんな戦いだったか、……一目瞭然ってやつだな。こりゃ確かに、死体も残らなかっただろうな」
レブはクレーターを降り、その中心点、爆心地へ向かう。
「ここでの戦いから、1週間は経ってるって聞いたが……、焦げ臭えな、まだ。
……ん?」
レブは真っ黒に焼け焦げた地面に、何かが埋まっているのに気付く。
「これは……、魔術書か? ……つっても俺には、さっぱりだけど」
表紙こそ半ば炭化していたものの、中身はほぼ原形を留めており、記述された呪文や魔法陣はほとんど損なわれていなかった。
「……マフスなら分かるかな。……他に何も無さそうだし、帰るか」
レブは山間部に戻り、既に自分の妻となっていたマフスに、その焦げた魔術書を見せた。
「これは……、ええ、多分イールさんの書いたものだと思います。わたしも何度か、イールさんの研究内容を見せていただいたことがありますし、筆跡や構文に、見覚えがあります」
「そっか……。死体も残ってなかったらしいし、家も全焼。あいつの遺品は、これだけだ」
「そうですか……。ひどい話ですね」
「……ああ、ひどいな。恐らく俺が助太刀したところで、結果は変わらなかっただろう。
タイカの実力は、俺もよく知ってる。こうなることは、予想できなかったわけじゃない。正直な話、陛下がイールを見捨てたことを、納得してる自分もいるんだ」
「あなた……」
「……馬鹿だなぁ、俺。それを分かってたってのに、陛下に唾吐いちまった。
どーすっかなぁ、これから」
虎耳をゴシゴシとこするレブに、マフスはにこっと笑いかけた。
「それなら、わたしの故郷に来ては如何かしら」
「お前の? ……ああ、いいかもな」
「あなたの経歴なら、向こうですぐに仕官もできるでしょうし。どうかしら?」
「……ま、そうだな。納得したっつっても、俺にはもう、王国に付いてく気は無いし。
お前と一緒に、新しい生活を始めるのが一番いい」
「うふふっ」
レブ・マフス夫妻は北方を離れ、南海ベール王国に渡った。
その後、レブはベール王国の将軍として迎えられ、後に護国卿へと昇進。軍人として高い名声と実績を積む一方で家族にも恵まれ、南海で幸せに一生を過ごした。
一方、「猫姫」イールを見離したとされ、国民からの支持を一時失ったジーン王国ではあったが、後に反大火派であることを公言し、支持を回復。諸般の事情から、大火はこれを黙認した。
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