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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・霊剣録 1

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    晴奈の話、第111話。
    篠原の過去。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     まるで滝のように降り注いでいた雨は、夜の半ばに差し掛かった頃、唐突にやんだ。
     夜空は急速に晴れ渡り、風がまた、激しく吹き荒ぶ。水気をたっぷりと含んでいた空気は、北へと流れていった。

     天玄北にある天神湖。その周囲三方をぐるりと囲む小さな山、天神山の中腹で止まった黒い荷馬車から、黒い頭巾を被った者たちが数名降りてくる。
    「やあやあ、ご苦労様でした」
     彼らの前に天原が現れ、嬉しそうに尻尾を揺らしながら、彼らに近付く。
    「……」
     黒頭巾たちは一言も発さず、天原の前に並んで直立する。最後に荷馬車を降りてきた、痩せ型の短耳――篠原だけが、天原に応える。
    「殿、お申し付けの通り、東門にて交戦していた者をすべてこちらまで運び出しました。
     処分は如何になさいますか?」
    「そうですねー、半分は実験室横の倉庫に監禁、残り半分は『売る』用に、第3地下倉庫に押し込んどいてください」
    「殿、それではワルラス卿から怪しまれるでしょう。800人動員しておいて、一人も戻ってこないと言うのは……」
     篠原の指摘に、天原は腕を組みつつ言い訳を考える。
    「んー、まあ、ワルラス台下には『意外に相手が粘って、共倒れになった』とでも言っておきましょう。あちらへの報告は全滅とでも」
    「いや、しかし。一人も残らないのは、流石にいぶかしがられるかと」
     篠原の反論に天原は一瞬顔をしかめるが、間を置いて「そうですね……」とうなずく。
    「じゃあ、使い物になりそうも無い、重体の人だけ台下に返しておきますか。それなら納得もされるでしょう」
    「……承知いたしました」
    「よろしくお願いしますよ。
     ……ウフフ。台下には悪いですが、これだけ実験材料が集まればホクホクと言うものですよ。敵方と合わせて、およそ1000人! そのうち半分の500人を、やりたい放題いじくり回せるわけですよ!
     しかも、これまでは『あの組織』からずーっと人を買ってばっかり、失敗作を処分してもらってばっかりでしたが、今回は残り半分、500人を大量に売りつけることができますからねぇ。僕はより良い顧客と見られ、今後もっといい条件で売ってもらえるようになるでしょう」
     天原は嬉々とした口調で、捕まえた者たちの処分――人体実験と人身売買について語り出す。篠原はできるだけ無表情で聞いていたが、内心は始終、天原に毒づいていた。
    (この下衆、外道が……ッ! 人間を何だと思っているのだ!)
     篠原は改めて、この主人と己が相容れないことを実感していた。



     朔美と共に紅蓮塞を離れてからの2年、篠原は不遇の日々を過ごしていた。
     免許皆伝こそすれ、家元に刃を向けた謀反人である。大っぴらに焔流を名乗ることはできない。かと言って新たに剣術流派を立ち上げても、まったくの無名であるし人は集まらない。
     それでもどうにか十数名の弟子を取ることはできたが、皆貧しく、名のある流派に入ることを許されなかった未熟者たちである。金も力も無い者ばかりが集まり、篠原一派はますます困窮した。
     そこに現れたのが、藤川であった。

    「篠原、聞いたぜ……。お前、随分左前になっちまったそうじゃねえか」
     片腕を無くしているため、藤川は左手で握手してきた。篠原がその手を握るなり、藤川は篠原をなじった。
    「俺の腕を斬って、家元に刃向かってまで得た人生がそれか?
     情けねえたあ、思わねえのか?」
    「黙れ、藤川。お前如きに、俺の生き方は分かるまい」
     胸を反らし、手を払いのけて突っぱねようとする篠原に対し、藤川は馬鹿にしたようにニタニタと笑う。
    「そりゃ、分かるもんか。落ちぶれたお前と違って、俺は絶頂なんだからよ」
    「……何だと?」
    「実はな、俺は今あるお方の隠密をしている。片腕でちと衰えたとは言え、俺の『霊剣』がここで非常に役立ってんだ。
     どうよ、篠原? ちっとばかし、俺と話をする気はねえか?」
     一派の資金繰りと働き口に困っていた篠原は、藤川の話を聞くことにした。
     藤川も塞を離れた後、半年ほど流浪の日々を送っていたと言う。知り合い筋を回り、片腕の自分でも就ける仕事は無いかと探していたのだが、そこで秘密裏に、天原桂の母であり、当時の当主であった天原篠からの声がかかったのだ。
    「音も無く敵を討ち、妖怪や霊魂のごとく斬り進む、これぞ『霊剣』の極意。……ってな評判が受けて、俺は天原御大に気に入られた。
     あの方も政界の大物だからな、要人暗殺の人手がほしいってことで、俺が選ばれたんだ」
    「暗殺だと!? 藤川、正気か!?」
     うろたえる篠原を見て、藤川はケタケタと笑い出す。
    「正気も正気、まっとうな人間だよ俺は。
     こう見えても表では、悠々自適に暮らしていられる。仕事が無い日は昼まで寝て、のんびり庭いじりができる。庭いじりが終わったらダラダラ市場に出かけて、娘のために人形やオモチャを2、3個ホイホイ買って帰れる。ついでに酒も買って、夜まで呑んで、またぐっすり、たっぷり眠れる。
     正直な話、最近じゃあお前に腕斬られて、却って良かったって気までしてきてるんだぜ、ケケケ」
    「何を馬鹿な! そこまで堕したか、藤川!?」「ああん? 何寝ぼけてやがる、篠原」
     藤川はニヤニヤと笑いつつ、さらに自分の暮らしぶりを語る。
    「他にも、彼女から見合いだの家だのも勧められてな。表向きは、本当に夢みたいな生活ができる。まあ、裏ではちと汚いことしなきゃなんねえが、本当に美味しい商売だぜ、これは。
     なあ、篠原。お前、困ってるんだろ? 金は無い、名声も無い、おまけに仕事の口も無いと来てる。キレイゴト、言ってる場合か?」
     藤川のこの言葉に、篠原は折れた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    第3部後編、開始っ。
    でも晴奈の安否はまだ明かしません。
    お楽しみはまだまだ後ですよ、と言うことで。

    あと、体裁について変更。
    これまで小説の内容は、最初から追記に納めていました。
    しかし、もっと多くの人に読んでもらえるよう、
    最新の話だけ、本文に掲載することにしました。


    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.03.25 修正
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