「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第7部
火紅狐・闘焔記 4
フォコの話、382話目。
一騎打ち。
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4.
玄蔵と大火の密談から3ヶ月後、両者の決闘の場が、白京郊外に立てられた。
決闘場には中央軍と焔軍の幹部、清王朝の重臣、そして双葉と蓮蔵とが見届け人として集められ、二人が揃うのを待っていた。
「待たせたな」
と、真っ白な紋付袴に赤い鉢巻とたすきで待ち構えていた玄蔵の前に、いつも通りに真っ黒な出で立ちで、大火が現れた。
「こんな乱暴な決定は、普通なら閣僚級の決議などで通るどころか、提案されるはずもないのだが」
そう前置きしつつ、大火は中央政府での決定事項を、改めて伝えた。
「俺とお前との一騎打ちに、央南統治における諸権利の全決定権を委ねることを、奴らは満場一致で承諾した。
よほど、俺が勝つものと確信しているらしい。もっとも玄蔵、お前の側の見届け人たちも、そう思っているようだが、な」
大火の話に、玄蔵はわざとらしく笑って見せる。
「かっかっか……、まこと、盲信とは恐ろしきものよ」
「うん?」
「勝負事に絶対なぞござらん。敵がどれほど鬼神や悪魔の如き強さを持っていると言っても、それ即ち勝利に値する、と言う論理は成立するまい。
どんな前評判があろうと、いざ勝負に入れば『まさか』はいくらでも起こりうるものよ」
「……クク、違いない」
大火は刀を抜くが、まだ構えはしない。
「決着についてだが、流石に殺す、殺されると言うような野蛮極まりない判定では、今後の統治や評価に関わるし、何よりあまりに原始的で、無粋に過ぎる。
そこで、だ」
大火は空いた左手で、自分の眉間と肩、そして腕と胸、腹を指差した。
「この7ヶ所のうち3ヶ所に、先に刀を当てた方を勝ちとしよう。傷の有無は問わん。それでいいか?」
「結構」
玄蔵が刀を抜き、正眼に構えたところで、大火も刀を右手一本で、脇に構えた。
「始めるぞ」
玄蔵は当初、「燃える刀」を使うかどうか、逡巡していた。
(使えば確かに、克に一太刀くらいは浴びせられるかも知れぬ。……とは言え、その一太刀が有効打となるかは、別の話だ。
それにこの決闘、有効打以外の取り決めをしていない。克も賢しい男だ、恐らくわざと取り決めておらんのだろう。……そう、拙者が『火刃』を使えば、克も『一閃』や『五月雨』を、堂々と使ってくる。この勝負は暗に、そう言う条件付けがなされているのだろうな。
強い手を一度使えば、相手もより一層の強い手で攻め返す――この勝負、軽々には動けぬ。長期戦は、必至であるな)
と、大火が声をかけてくる。
「来ないのか?」
「う……ぬ」
「来ないなら、こちらから行くぞ」
そう言うと、大火は脇構えを崩さず、じり、と一歩分にじり寄ってきた。
「く……」
促される形で、玄蔵も一歩、前へと進む。
やがて両者が互いの間合いに踏み込むか踏み込まないかのところまで寄ったところで、大火が仕掛けてきた。
「はッ!」
大火は脇に構えていた刀を片手のまま、打ち上げるように振り払う。
「ふん……ッ」
それを見切った玄蔵は、向かってくる刀を弾こうと、両手を振り下ろし、自分の刀を叩き付ける。
だが、大火の振るった刀は予想以上に重たく、逆に玄蔵の刀が弾かれてしまった。
「うお、……ッ!」
弾かれたことで、玄蔵の構えは強制的に、上段構えへと変わる。
がら空きになった腕、そして腹に、大火が手首を返し、もう一度払いをかけてきた。
「……させるかあッ!」
玄蔵は上段になった構えから、ぐるりと腰を左に引いてのけぞらせる。間一髪のところで、大火の刀は玄蔵を捉えられず、ひゅんと音を立てるだけに留まった。
「……ふうっ、……はあ」
玄蔵は三歩ほど下がり、もう一度刀を構え直す。
「いやいや、やはり貴様はなかなかの剣豪、右手一本で振るう太刀筋が、これほど重いとは」
「お前は両手で握りしめている割には、柔すぎるな」
「はは、失礼仕った」
玄蔵はすっ、と短く息を吸い込み、続いて叫んだ。
「……では、今度はこちらから参るぞッ!」
玄蔵は離した間合いを、今度は自分から狭めていった。
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一騎打ち。
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玄蔵と大火の密談から3ヶ月後、両者の決闘の場が、白京郊外に立てられた。
決闘場には中央軍と焔軍の幹部、清王朝の重臣、そして双葉と蓮蔵とが見届け人として集められ、二人が揃うのを待っていた。
「待たせたな」
と、真っ白な紋付袴に赤い鉢巻とたすきで待ち構えていた玄蔵の前に、いつも通りに真っ黒な出で立ちで、大火が現れた。
「こんな乱暴な決定は、普通なら閣僚級の決議などで通るどころか、提案されるはずもないのだが」
そう前置きしつつ、大火は中央政府での決定事項を、改めて伝えた。
「俺とお前との一騎打ちに、央南統治における諸権利の全決定権を委ねることを、奴らは満場一致で承諾した。
よほど、俺が勝つものと確信しているらしい。もっとも玄蔵、お前の側の見届け人たちも、そう思っているようだが、な」
大火の話に、玄蔵はわざとらしく笑って見せる。
「かっかっか……、まこと、盲信とは恐ろしきものよ」
「うん?」
「勝負事に絶対なぞござらん。敵がどれほど鬼神や悪魔の如き強さを持っていると言っても、それ即ち勝利に値する、と言う論理は成立するまい。
どんな前評判があろうと、いざ勝負に入れば『まさか』はいくらでも起こりうるものよ」
「……クク、違いない」
大火は刀を抜くが、まだ構えはしない。
「決着についてだが、流石に殺す、殺されると言うような野蛮極まりない判定では、今後の統治や評価に関わるし、何よりあまりに原始的で、無粋に過ぎる。
そこで、だ」
大火は空いた左手で、自分の眉間と肩、そして腕と胸、腹を指差した。
「この7ヶ所のうち3ヶ所に、先に刀を当てた方を勝ちとしよう。傷の有無は問わん。それでいいか?」
「結構」
玄蔵が刀を抜き、正眼に構えたところで、大火も刀を右手一本で、脇に構えた。
「始めるぞ」
玄蔵は当初、「燃える刀」を使うかどうか、逡巡していた。
(使えば確かに、克に一太刀くらいは浴びせられるかも知れぬ。……とは言え、その一太刀が有効打となるかは、別の話だ。
それにこの決闘、有効打以外の取り決めをしていない。克も賢しい男だ、恐らくわざと取り決めておらんのだろう。……そう、拙者が『火刃』を使えば、克も『一閃』や『五月雨』を、堂々と使ってくる。この勝負は暗に、そう言う条件付けがなされているのだろうな。
強い手を一度使えば、相手もより一層の強い手で攻め返す――この勝負、軽々には動けぬ。長期戦は、必至であるな)
と、大火が声をかけてくる。
「来ないのか?」
「う……ぬ」
「来ないなら、こちらから行くぞ」
そう言うと、大火は脇構えを崩さず、じり、と一歩分にじり寄ってきた。
「く……」
促される形で、玄蔵も一歩、前へと進む。
やがて両者が互いの間合いに踏み込むか踏み込まないかのところまで寄ったところで、大火が仕掛けてきた。
「はッ!」
大火は脇に構えていた刀を片手のまま、打ち上げるように振り払う。
「ふん……ッ」
それを見切った玄蔵は、向かってくる刀を弾こうと、両手を振り下ろし、自分の刀を叩き付ける。
だが、大火の振るった刀は予想以上に重たく、逆に玄蔵の刀が弾かれてしまった。
「うお、……ッ!」
弾かれたことで、玄蔵の構えは強制的に、上段構えへと変わる。
がら空きになった腕、そして腹に、大火が手首を返し、もう一度払いをかけてきた。
「……させるかあッ!」
玄蔵は上段になった構えから、ぐるりと腰を左に引いてのけぞらせる。間一髪のところで、大火の刀は玄蔵を捉えられず、ひゅんと音を立てるだけに留まった。
「……ふうっ、……はあ」
玄蔵は三歩ほど下がり、もう一度刀を構え直す。
「いやいや、やはり貴様はなかなかの剣豪、右手一本で振るう太刀筋が、これほど重いとは」
「お前は両手で握りしめている割には、柔すぎるな」
「はは、失礼仕った」
玄蔵はすっ、と短く息を吸い込み、続いて叫んだ。
「……では、今度はこちらから参るぞッ!」
玄蔵は離した間合いを、今度は自分から狭めていった。
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