「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第7部
火紅狐・闘焔記 5
フォコの話、383話目。
未来をかけた真剣勝負。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
玄蔵には最初、一つの楽観的な予測、期待があった。
(わざわざ大艦隊や口八丁、手八丁の官僚共を差し向けるでもなく、己の身一つで交渉に来たくらいだ。
ならばこの一騎打ちに関しても、実のところは半ば八百長――苦戦しているように見せかけて、結局は拙者側が勝つように、水を向けて来るのではないか?)
そう考え、対決に臨んだのだが――。
(……まずいな。彼奴は、手加減する気が無いらしい。
いや、確かに『一閃』や魔術を使ってはこない。それは確かに手加減と言える。使われたら、ひとたまりも無いからな。
しかし、剣術本体に関しては――これは迷いない、本気の太刀筋だ)
一騎打ちが始まってからまだ3分も経っておらず、間合いに踏み込み刀を交えたのは、たった数合に過ぎない。
しかし玄蔵は、まるで一晩中全力疾走したかのような、極度の疲労を覚えていた。
(拙者の人生の中で最も過酷な勝負となるな、これは)
彼自身から技、術を教わっている故に、玄蔵も十二分に、大火の実力を理解している。その情報が玄蔵に、この勝負に勝ち目が無いことを悟らせていた。
しかし――玄蔵は勝負を放棄しようとは、全く思っていなかった。
(拙者がここで引けば、央南は今度こそ荒廃し、草一つ生えぬ荒れ地となる。
15%もの上納金、武力による圧力外交、……そして何より、克からの恐怖。もしここで拙者が負けるようなことがあれば、それらが一挙に、央南の地を焼くことになろう。
それは、……ならん! あってなるものか!)
一瞬だが、玄蔵はチラ、と見届け人席に座る、手を取り合って見守る双葉と蓮蔵に目をやる。
(あの二人の未来のためにも、……央南の、未来のためにもだ!)
玄蔵はすう、と大きく息を吸い、大火に飛びかかった。
「でえやあああーッ!」
玄蔵は勢いよく刀を振り下ろし、大火の額を狙う。
「……」
大火はそれに応じて刀を上に構え、防御しようとする。
しかし玄蔵はぐっと右脚に力を入れて体を止め、己の姿勢を無理矢理に低くする。
「……っ」
上段に構えたため、大火の胴はがら空きになっている。
その一瞬の隙を突き、玄蔵は半ば転倒したような体勢で、大火にぶつかった。
「う、……っ」
長身の大火が、ぐら、と揺れる。
「はあっ、はあっ……」
玄蔵はばっと身を翻し、ふたたび構え直した。
だが――。
「ち、父上!」「お義父さま!」
玄蔵の右肩から、だくだくと血が噴き出していた。
「く……、流石に無傷では済まなんだな。……しかしこれで」
大火の着ていた黒いシャツにも、切り傷が付けられている。
「1勝1敗、と言うところか」
「……もっともその一勝を得るのに」
大火も体勢を整え、構え直す。
ボタボタと血を滴らせる玄蔵に対し、大火の方は特に失血している様子は無かった。
「多少、高く付いたな」
「それでも勝ちは勝ちだ。あと2勝挙げれば、拙者は堂々、勝利を誇れる」
「そう上手く行けばいいが、な」
虚勢を張ったものの、この時点で既に、玄蔵はただならぬ寒気を右腕から感じていた。
(まずいな……。少しばかり深いぞ、この傷)
玄蔵は羽織を破り、肩にきつく巻きつける。
その間、じっと自分を見ていた大火に、玄蔵は脂汗の浮いた笑顔を向け、こう尋ねる。
「どうした、克。拙者は今、動けんぞ?」
「傷の手当てくらい、待ってやる。俺は傷を負わんし、それくらいの条件を付けんと、釣り合わんだろう?」
「……くっく、それは痛み入る」
傷の手当てを終え、玄蔵は右手を一度、閉じ、開いてみる。
(動くことは動く、……が。それでもしびれた感じがあるな。
あと2ヶ所ではあるが、いきなり利き腕が犠牲になるとは。……しかし)
玄蔵は両手で、刀を構えた。
(あの悪魔、克大火に刀を当てられたのは、間違いなく僥倖。『できる』と言うことだ。
勝負は負けと、決まったわけでは無い!)
「待たせたな克、再開だ!」
玄蔵は今一度、己を奮い立たせるべく、大声を発して大火と対峙し直した。
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未来をかけた真剣勝負。
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玄蔵には最初、一つの楽観的な予測、期待があった。
(わざわざ大艦隊や口八丁、手八丁の官僚共を差し向けるでもなく、己の身一つで交渉に来たくらいだ。
ならばこの一騎打ちに関しても、実のところは半ば八百長――苦戦しているように見せかけて、結局は拙者側が勝つように、水を向けて来るのではないか?)
そう考え、対決に臨んだのだが――。
(……まずいな。彼奴は、手加減する気が無いらしい。
いや、確かに『一閃』や魔術を使ってはこない。それは確かに手加減と言える。使われたら、ひとたまりも無いからな。
しかし、剣術本体に関しては――これは迷いない、本気の太刀筋だ)
一騎打ちが始まってからまだ3分も経っておらず、間合いに踏み込み刀を交えたのは、たった数合に過ぎない。
しかし玄蔵は、まるで一晩中全力疾走したかのような、極度の疲労を覚えていた。
(拙者の人生の中で最も過酷な勝負となるな、これは)
彼自身から技、術を教わっている故に、玄蔵も十二分に、大火の実力を理解している。その情報が玄蔵に、この勝負に勝ち目が無いことを悟らせていた。
しかし――玄蔵は勝負を放棄しようとは、全く思っていなかった。
(拙者がここで引けば、央南は今度こそ荒廃し、草一つ生えぬ荒れ地となる。
15%もの上納金、武力による圧力外交、……そして何より、克からの恐怖。もしここで拙者が負けるようなことがあれば、それらが一挙に、央南の地を焼くことになろう。
それは、……ならん! あってなるものか!)
一瞬だが、玄蔵はチラ、と見届け人席に座る、手を取り合って見守る双葉と蓮蔵に目をやる。
(あの二人の未来のためにも、……央南の、未来のためにもだ!)
玄蔵はすう、と大きく息を吸い、大火に飛びかかった。
「でえやあああーッ!」
玄蔵は勢いよく刀を振り下ろし、大火の額を狙う。
「……」
大火はそれに応じて刀を上に構え、防御しようとする。
しかし玄蔵はぐっと右脚に力を入れて体を止め、己の姿勢を無理矢理に低くする。
「……っ」
上段に構えたため、大火の胴はがら空きになっている。
その一瞬の隙を突き、玄蔵は半ば転倒したような体勢で、大火にぶつかった。
「う、……っ」
長身の大火が、ぐら、と揺れる。
「はあっ、はあっ……」
玄蔵はばっと身を翻し、ふたたび構え直した。
だが――。
「ち、父上!」「お義父さま!」
玄蔵の右肩から、だくだくと血が噴き出していた。
「く……、流石に無傷では済まなんだな。……しかしこれで」
大火の着ていた黒いシャツにも、切り傷が付けられている。
「1勝1敗、と言うところか」
「……もっともその一勝を得るのに」
大火も体勢を整え、構え直す。
ボタボタと血を滴らせる玄蔵に対し、大火の方は特に失血している様子は無かった。
「多少、高く付いたな」
「それでも勝ちは勝ちだ。あと2勝挙げれば、拙者は堂々、勝利を誇れる」
「そう上手く行けばいいが、な」
虚勢を張ったものの、この時点で既に、玄蔵はただならぬ寒気を右腕から感じていた。
(まずいな……。少しばかり深いぞ、この傷)
玄蔵は羽織を破り、肩にきつく巻きつける。
その間、じっと自分を見ていた大火に、玄蔵は脂汗の浮いた笑顔を向け、こう尋ねる。
「どうした、克。拙者は今、動けんぞ?」
「傷の手当てくらい、待ってやる。俺は傷を負わんし、それくらいの条件を付けんと、釣り合わんだろう?」
「……くっく、それは痛み入る」
傷の手当てを終え、玄蔵は右手を一度、閉じ、開いてみる。
(動くことは動く、……が。それでもしびれた感じがあるな。
あと2ヶ所ではあるが、いきなり利き腕が犠牲になるとは。……しかし)
玄蔵は両手で、刀を構えた。
(あの悪魔、克大火に刀を当てられたのは、間違いなく僥倖。『できる』と言うことだ。
勝負は負けと、決まったわけでは無い!)
「待たせたな克、再開だ!」
玄蔵は今一度、己を奮い立たせるべく、大声を発して大火と対峙し直した。
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