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    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・闘焔記 7

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    フォコの話、385話目。
    央南の平穏、中央の不穏。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     玄蔵と大火の一騎打ちが前者の勝利に終わり、中央政府と清王朝との交渉は、以下の形でまとめられた。
     まず、これまで続いていた、清王朝の中央への従属関係を解消。今後は同位、対等の国家として、関係を築いていくことが約束された。
     それに伴い、懸念されていた上納金についても、撤廃することで両者が合意。中央政府は央南を、完全に手放す形となった。
     央南における国際問題がすべて解決されたため、改めて清家と焔家の縁談が進められた。

    「如何でしょう、お義父さま?」
    「ええ、似合っております」
    「それは何よりです」
     花嫁衣装を披露する双葉に、玄蔵は顔をほころばせる。
    「しかし、想像もしませんでしたな。まさか双葉殿、あなたが蓮蔵を婿に取るとは」
    「あら、そうですか?」
    「拙者が言ってはまた、あいつは顔をしかめるでしょうが、……あまり腕っ節の無い、ひょろひょろと頼り無い優男ですぞ、倅は」
    「そうなのですか? でも、見た目がどうなのかは、わたしには関係の無いことですし。
     それよりもお話をしている時などは、機知に富んでいると言うか、聡明と言うか、話をしていて非常に穏やかで、魅力的な方と感じていますよ」
    「そう仰っていただければ、幸いです。
     ……まあ、今後の治世に求められるのは、大勢を覆してみせる神算鬼謀でも、怪力乱神を語る奸雄でもございますまい。
     穏やかに意見を聞き分け、中庸な判断を下す。それくらいの、温和な君主が望ましいでしょうな」
    「それなら適任ですね。わたしも、蓮蔵さんも」
     ころころと笑う義娘に、玄蔵も笑って返した。

     その後正式に双葉が国王となり、玄蔵は軍の総司令官、大将に任ぜられた。
     玄蔵が没するまでの20年余、央南には平和が訪れた。



     一方――。
    「カツミ様、これはいくらなんでも……」
     央南との交渉が惨々たる結果に終わり、中央政府の大臣・官僚たちは、こぞって大火を非難した。
    「あろうことか、央南独立とは! 考えられていた中で、最悪の展開ですぞ!」
    「中央政府の税収は、これで9割以下に激減することになります!」
    「これから世界中を回り、関係再構築と統治体制の確立・強化を成さねばならぬと言うその矢先に、こんなことをされては……!」
    「一体どう、責任を取るおつもりですか!?」
     これらの非難に対し、大火は平然と、こう返した。
    「責任と言ったが、そもそも今回、交渉を一騎打ちの結果に準ずるものと俺が提案し、それを全会一致で賛成したのは、お前たちでは無かったか?」
    「そ、それは確かに我々ですが、しかしあなたが確実に勝つものと……」
    「確実に勝つものと考え、常識的な交渉手段を放棄したのは俺では無く、実務者クラスのお前たちだろう? 世界最大の統治府に属する者として、その判断はあまりにもお粗末と、俺は思うのだが」
    「ご自分の不始末を人に押し付けるおつもりですか、カツミ様!」
    「もう一つ、税収減と言った者もいるが、現在の政治体制になって以後、央南からの徴収は無かったはずだ。
     それで問題なく運営されていたのだし、この件を以て政治運営が困難になる、などと唱えるのは、余程の出費を無理矢理に捻出しようと企んでいるとしか思えんな。
     それに、だ。世界に手を広げよう、世界全体を統治しようと言う発想は、前政府の『世界平定』構想そのもの。お前らはそれに辟易していたはずではないのか? 陰で天帝の、その夢想・妄想を謗(そし)る者が、いなかったわけではあるまい?
     俺自身も、この中の半分以上から、前政府に対する不平、不満や非難、罵倒、中傷を、呆れるほど聞いた覚えがあるのだが、な」
    「それとこれとをつなげ、詭弁を弄されても困ります!
     我々が言いたいのは、カツミ様、あなたは中央政府の主権者であるのに、何故、中央政府のためにならぬことをなさるのか、と……」
    「俺とてむざむざ、自分に不利益を被るような行動を執ろうとは思っていない。
     それよりも、だ」
     言い合いにうんざりし、大火は無理矢理に話を切り上げた。
    「どうしても責任を取らせたい、と言うのであれば、それ相応の対価を求めるのだが、それでもいいのか?」
    「……と、言いますと?」
    「俺の座る椅子を、買えと言うことだ。俺は自ら退く気は、さらさら無い。それをどうしても退け、と言うことであれば、何かしらの見返りが無くては、な」
    「……これは、……あくまで仮定として、ですが。
     おいくらで、売るおつもりです?」
    「ランド・ファスタ卿の言を借りれば、1000億クラムの価値があるとのことだ。
     用意できるのか?」
    「……それは……」
    「できないのならば、話はこれで終わりだ」
     閉口する大臣たちを横目に眺めつつ、大火は会議の場から去ろうとした。
    「……カツミ様!」
     と、官僚の一人が呼び止める。
    「なんだ?」
    「……次の、央中との交渉は、……一騎打ちなど提案なさらぬよう、くれぐれもお願い致します」
    「承知した」
     大火は軽く手を振って同意する姿勢を見せ、議事堂を後にした。

    火紅狐・闘焔記 終
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