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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・大渉記 1

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    フォコの話、386話目。
    央中再開発計画。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     央北から撤退した後しばらくして、フォコはある壮大な計画を立ち上げた。
     それは実にダイナミックで、いかにも金火狐総帥らしく、また、いかにも「ニコル3世ならやりかねない」と、後世において高く評価されるものだった。

     央中で有数の商人たちをゴールドコーストの商工会議所に集めたフォコは、その壮大な計画を発表した。
    「ずーと考えとったんです。今度、僕の奥さんになるランニャ・ネール氏が、どないしたら実家のクラフトランドとこことを、楽に行き来でけるようになるかなー、っちゅうのんを。
     で、これが何ちゅうても一番、単純で効果的、さらには奥さんだけやなく、央中に住むみんなにとっても美味しい、利益の出る方法やないか、と。
     それが、『央中再開発計画』ですわ」
    「央中……、再開発?」
    「ご存じのように、央中の主要都市間には、それぞれをつなぐ形で街道が張られており、そのルート上における利益は、相当なもの。それに比例する形で、街もそれぞれ大きく発展しとります。しかしそのルートから一度外れてしまうと、いきなり寂れてしまう。街道を1キロ、2キロ外れたら、小都市からいきなりド田舎ですわ。
     これまでこの歴史、主要都市間にのみ大きな街道が敷かれていたことによる効果は、確かに主要都市とその交点上における発展を促し、今ここにこうしてお集まりいただいている皆さんの利益につながっとったわけですけども、……さ、ここからが問題ですわ。
     皆さんは数年前、央中を襲った未曾有の不況、通称、『清王朝大恐慌』のことを覚えてらっしゃるでしょう。そう、央南の清王朝に無茶な投機をした上、その王朝がまさかの破産、崩壊と言う、異例の事態。あの時期には、かなりの老舗さん、大店さんでさえもポンポン潰れるほどの甚大な損害をもたらし、今なお、央中の経済は冷えたまま。
     さっき言うた、街道をつなげたことにより創出されてきた利益はこの一件、ここ数年の事件で吹っ飛んでしもてます。今ここにいらっしゃる皆さんも、新たに稼ぎ口、稼げる場を確保せなアカンと、少なからず危惧されとるでしょう。
     その商売の場を、我々自身で建設・運営し、利益を創出していく。即ち新たに街道と、その中間点、交点に街を築くことで央中の産業・商売を活性化させる。
     それが、この計画の本意です」
     ここまで説明したところで、数名から批判的・懐疑的な意見が挙がった。
    「現在、あんたの言う通り、我々の多くは赤字で苦しんでいる。死に体同然の今、そんな金のかかる事業に手を出して、もし失敗したら、どう責任を取ってくれる?」
    「賛同したくない、と言うのであれば、それで結構です。賛同してくれる方とだけ、この事業を進めるつもりです。
     事業に参加してくだされば、出資・協力してもろた分だけ配当を支払う予定としています。発生した損害についても、ある程度は補償する用意もあります」
    「実際に再開発を行ったとして、どれだけ儲かると予想してるんだ? その費用は?」
    「旧イエローコーストをゴールドコーストと改称し、再開発した際の費用を軸に試算を行ったところ、今回の再開発にはおよそ、1200億クラム相当の開発費を必要とします。
     ただしこれは最終的な総額であり、計画は長期的かつ段階的に進めていく予定としとります。第一次開発計画、即ち街道の再整備と新たな交易地の基幹開発にかかる費用は、およそ100億クラム程度やと考えとります。また、この第一次計画の費用に関しても、我々金火狐財団がその半額、50億クラムを出資する予定です。
     そしてゴールドコースト市が発足した313年以降から本年までの、金火狐財団における粗利益は、年平均でおよそ35、6億クラム。数年後、ゴールドコースト開発が一通り完了した頃には、年200億に拡大するだろうと見込んどります。
     同じ手法で行われる再開発計画に関しても、第一次計画については、10年程度で費用の回収が見込めるでしょう」
    「開発利権を丸ごと買ったゴールドコースト単体でなら、成功してもおかしくない。だけども央中全域となると、あいつらが黙っているかどうか……」
    「中央政府のことですか? それなら、ご心配なく」
     フォコはドンと自分の胸を叩き、自信を持って答えた。
    「現在、中央政府は央北の情勢安定のため、内政重視の政策を執っています。外交に目が向くのは、もう少ししてからでしょう。
     そうなる前に、こちら側で利権を創出・獲得し、そして実質的に、央中の全権利を我々のものにする。前中央政府のように『中央大陸はすべて自分たちのもの』と主張される前に、我々央中の人間が、我々の土地を買い占めてしまうんです」
    「そんなことしたら、あいつら武力行使してでも奪いに来るんじゃ……」
    「大丈夫です。そうさせないアイデアが、僕にあります」
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    確かに自分の考えとしては、「政府」や「体制」と言ったものは、
    「強力な存在ではあるが、決して絶対的な存在ではない」
    もしくは「最も大きな『私』的存在であり、決して『公』ではない」
    という見方が強いですね。
    その考え方が、フォコの行動にも、
    新旧中央政府の動向にも、強く表れていると思います。

    もしフォコが終末港の住人、権力者であったなら、
    きっと公爵家らと徹底抗戦するだろうなぁ、なんて。
    彼も「公」的存在に懐疑的であり、嫌うタイプなので。

    NoTitle 

    なるほど。道理でフォコくんとの話がすれ違うと思ったら、わたしがどちらかといえば、「大きな政府」支持者だからでしょう。

    だからわたしの作品では「帝国」なり「連合体」といった強力な政治権力機構が必然的に出てくるのに対し、黄輪さんの作品では、そういった機構は乗り越えられるものとして描かれる、と。

    「紅蓮の街」なんてまさにそれですからねえ。中央の政治権力機構が麻痺した世界において、支配下の人間をいかに食わせていくか、というのが主人公たちに突き付けられた問題ですから。「敵味方問わず一人でも多くの命を救う」のか、「味方だけ救う」のか、を迫られたとき、前者を選んだのがあの小説でありまして……。

    NoTitle 

    おぉ……、ついにここまで!
    ありがとうございます。ご愛顧いただき、感謝の極みです。
    ここでのコメントを見て、思わず立ち上がりました。

    近代政治、いや、「文明」というものが成立して以降、
    老若男女、階級、人種、門戸、宗教、主義・主張を問わず、
    普遍的かつ絶対的に重要視されている、とあるファクターが、
    どの時代にも、確実に存在します。
    フォコはそこを突こうとしています。
    その有り余る、経済力によって。

    ただしフォコは、厳密には善性の人間ではありません。
    用いようとするその手段は、文明社会にとって極めて悪辣であり、
    かつ、最悪の場合、文明の破壊すらもたらし得るものです。

    そしてどちらかと言えばフォコは「小さな政府」、
    すなわち自由経済主義者です。
    彼は「政府を作ろう」「政治をやろう」などとは、
    微塵も思っていなかったりします。

    NoTitle 

    ついにここまで来た……。

    政治体制がなんであろうとも、それ自体に問題はない。問題なのは、善政なのか悪政なのか、である。

    そして、確実に善政をもたらす政治体制など存在しない。

    悪政を打ち倒すことが可能な政治体制は、同様にして善政をも打ち倒す。どちらにせよ、打ち倒した後に善政が来ることを保証するものはなにもない。

    この事実に、経済力だけで勝てるかなフォコくん……。
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