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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・霊剣録 2

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    晴奈の話、第112話。
    利用する者、される者。

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    2.
     藤川の紹介で、篠原一派は天原家の当主、天原篠と会った。
    「まあ、これはなかなかの傑物ね。お強そうだこと」
     それが篠原と対面した時の、篠の第一声であった。篠原とその一派はすぐに、篠の隠密として召し抱えられることになった。
     篠原の正直な感想として、篠の下での生活は非常に過ごしやすいものだった。当時の政局が安定していたせいか、思っていたよりも汚い仕事はせずに済んだ。せいぜいが篠に隠れて行われている会合、会議の盗聴、もしくは天玄を離れた要人の尾行、監視と言った内容で、篠原は己の剣を汚さずに済んだと、胸を撫で下ろしていた。
     天原桂の監視をするまでは。



    「龍明さん。折り入って、ご相談があるのです」
     篠から「内密に、早急にお願いしたい件がある」と伝えられ、篠原は篠の元を訪れた。
    「息子の桂が、最近頻繁に天玄を出入りしているのです。
     最初は大学院の関係かと思っていたのですが、つい先日学校の方から『姿を見せていない』と連絡を受けまして、不審に思ったのです。
     しかし、大変な変わり者ですが自分の息子には変わりありませんし、あまり露骨に問いただすのもどうかと思いまして、こうして龍明さんに来ていただいたのです」
    「はあ……」
     篠はためらいがちに、用件を伝える。
    「ですのでしばらくの間、桂を監視してほしいのです。
     素性の良くない者とみだりに会い、それでもしも感化されるようなことがあれば、天原家の恥になります。そうならないように、桂の動向を陰で見ていていただけませんか?」
    「ふむ……。何故、某に?」
    「英心さんには現在、私の弟夫婦を監視してもらっています。こちらも少し、怪しげな動向が見られたので……。他に手が空いている者もいるのですが、桂には顔が割れております。
     ですので入って間も無い龍明さんにしか、お頼みできないことなのです」
    「なるほど。……承知いたしました、殿」
    「よろしくお願いします、龍明さん」

     結論から言えば、篠の予感は的中していた。
     篠原は朔美と協力し、桂が天玄の南東にある小さな街、柳丘に出入りしていることを突き止め、その後を追った。
     そして桂がとある喫茶店で黒髪の「狼」と面会する様子を、二人は天井裏から密かに観察していた。
    「あれは誰だ?」
    「あの黒い僧服、そして紋章。間違い無いわ、あれは黒炎教団の者よ」
     会っていた相手は、当時から既に教団の権力者であったワルラス卿であった。
    「何故、央南のこんなど真ん中に、黒炎の者が? それに何故、桂さまと話を?」
    「分からないわ。もう少し詳しく、話を聞いてみましょう」
     二人は聞き耳を立て、会話の内容を盗み聞く。
    「本当に感激です、ウィルソンさん。僕の論文をこんなに評価してくださるなんて」
    「いやいや、当然の評価ですよ。むしろ、この内容を理解できず、でたらめな酷評をする教授の方がおかしい」
    「へへ、恐縮です……」
     当時の桂はまだ28で、今のように偏執じみた言動は見せていなかった。魔術研究が大好きな、まだまだ常識のある変わり者でしかなかった。
    「実はですね、アマハラくん。君の頭脳と魔術に対する深い理解力を見込んで、お願いがあるのです」
    「お願い、ですか?」
    「ええ、私たちの教団のことはご存知でしょう? 黒炎様から多数の経典、教本を賜り、その通読、実践にいそしんでいるのですが、一つ、解釈が困難なものがありましてね」
     そう言ってワルラスは懐から一冊の本を取り出す。
    「読んでみてください」
    「は、はい。……むむ、これは、……なかなか」
     教本を開いた桂は深くうなり、しきりに眼鏡を直しつつ読み始めた。
    「……ふむ。……へぇ。……嘘だろ!?」
    「いえいえ、黒炎様は嘘や冗談がお嫌いな方です。ここに書いてあるのは紛れも無い真実、……のはずですが、どうにも納得が行かない箇所がありまして」
    「なるほど、そこを解明したいと。……少しお時間をいただいても、よろしいでしょうか?」
    「ええ、構いません。どれくらいかかりますか?」
    「そうですね……、半月、いや、1週間で」
    「分かりました。それではまた次週、この場所で」
     ワルラスは一礼して席を立ち、桂を残して店を出て行く。
     残った桂は、嬉しそうな笑い声をあげていた。
    「……ウフ、フフフフ」

     その後も何度か桂とワルラスの会話を盗聴し、篠原たちはワルラスの意図を見抜いた。
     ワルラスは黒鳥宮に納められている貴重な教本、魔術書を交換条件として、桂に天原家の家督を継ぐよう指示していたのだ。
    「ワルラス卿は央南への布教を任されているらしいの。桂さまに近付いたのはきっと、彼を傀儡として央南の実権を握るためよ」
    「央南の実権? どう言うことだ、朔美」
    「天原家の家督を桂さまが継げば、自動的に政治地盤も彼のものになるわ。そう、政界の重鎮である篠さまの権力がそのまま、桂さまに移るのよ」
    「ワルラス卿の狙いはそれか……!」
     朔美はため息をつきながら、その後の政局を予想する。
    「篠さまは既に齢60を越えている。恐らく、寿命はあと10年ほどでしょうね。その後桂さまが天原家を継ぎ、連合の主席に収まれば、後はワルラス卿の思い通りに央南を動かせるわ。
     まさに暗黒の時代の到来、ね」
    「そんな馬鹿なことが起こると言うのか!? 焔流が必死で、西の端でせき止めてきた黒炎の勢力が、そんなに易々となだれ込むと言うのか!」
    「起こりうるわ。あのワルラスと言う男、相当にしたたかで強運よ。よくもまあ、これほど都合よく『役立つ操り人形』が現れたものね」
     朔美の桂に対する表現に、篠原は顔をしかめる。
    「朔美、いくらなんでもその言い方は」
    「間違って無いわよ。あのお坊ちゃんは自分のやりたいことしか眼に映らない愚物。
     もしわたしがワルラスなら、『自分の野望を満たす美味しい獲物』にしか見えないわね」
     言い切ったところで、朔美は腕を組んだ。
    「……わたしが、ワルラスなら、……ね」
     何かを考えだし、沈黙が流れる。焦れた篠原が尋ねてみたが、朔美は何も答えなかった。

     その時はまだ、朔美は「このことはしばらく、篠さまには内緒にしましょう。わたしに、考えがあるの」としか言わなかった。
     朔美の頭の良さを良く分かっている篠原は、素直に朔美の言うことに従い、そのまま結論を待つことにした。

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    2016.03.25 修正
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