「双月千年世界 2;火紅狐」
火紅狐 第7部
火紅狐・大渉記 3
フォコの話、388話目。
宮中在魔、官心暗鬼。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
前回の、央南との交渉における大失態を受け、中央政府の閣僚・官僚たちは密かに、大火に対する協議を重ねていた。
「そもそも、カツミ氏は央中、央南側の人間だった。……であれば、もしかして」
「それは私も考えておりました。『黒い蓮』を追い返したり、北方における反乱を鎮圧したりなどの目くらましはあったものの、その本意は……」
「恐らくは、そうだろうな。
カツミ氏は我々央北の、取り分け中央政府の人間に対して、決して友好的ではない。いや、はっきり言ってしまえば、明確に敵意を持っていると考えていい」
「とすると……」
「ああ。占領後に起きた中央軍のクーデター鎮圧、天帝教の権力封印、央南独立の幇助……。どれをとっても、我々中央政府にとってはマイナス、勢力を減退させる事件だった。反面、央中・央南の人間にとっては、長きに渡る主従関係からの独立を、実質的に認められたわけだ。
そして中央軍、即ち我々の側の人間が立ち上がったのを無理矢理に抑えつけたのは、どう見ても我々に対する示威行動、即ち……」
「何らかの行動を、我々が勝手に起こそうものなら、容赦はしない。……と言うことですか」
「どれもこれも、結局は我々の地位・権力を貶めるものだ! このままでは、かつては世界中にその威光を示していた我々の力は、雲散霧消してしまう」
小役人の集まりといえど、彼らは非常に賢しい部類に入る人間ばかりである。
大火の思惑を見抜き、そしてその結論から、彼らはこんな対策を打ち出した。
「早急に、カツミ氏を主権の座から、下ろさねばなりませんね……」
「その通りだ。そうしなければ、今度は央中までもが、我々に牙を剥くことになる。いや、先の戦争で既に剥かれてはいるのだが、このまま看過すれば、それこそ我々の制御ができない事態に陥るだろうな」
「少なくとも今度予定されている、央中との関係を明確にする協議の場には、彼を出してはまずいでしょうね」
「うむ。もしカツミ氏がこちらの代表として出席すれば、恐らくは裏の裏で話がまとめられ、央南の時と同様に、一方的な内容で終わってしまうのは目に見えている。
何としてでも、カツミ氏は協議の場に出してはなるまい」
「……しかし、そう上手く行くでしょうか? 何と言っても、彼は今、我々の上に立っている状態です。勝手に話を進めれば、それこそ逆鱗に触れるのでは」
ある官僚の言葉に、そこにいた皆は顔をしかめる。
「むう……」
「どうすれば、彼を出し抜けるか……?」
と、会議の中心にいた長耳の外務大臣、ヘンリー・ランフィールド卿が提案しようとした。
「とりあえず先手と言うことで、央中名代とは連絡を取っている。それから交渉の場を……」
そこへ官僚が、慌てて転がり込んでくる。
「た、大変です!」
「騒がしいな……。一体どうした?」
「カツミ様より、『央中名代との交渉の場をサウスボックスに立てている。外務大臣、政務大臣、そして両名下に属する大臣、次官級の者は早急に、そこへ向かうように』との指示がたった今、下りました!」
「……な、なに?」
「バカな、今その話を我々が……」
「……先手を打たれたのは、我々の方だったか」
ランフィールド卿は、苦々しくそうつぶやいた。
右往左往しながら密議の場所を飛び出した閣僚たちを、大火は城の窓から眺めていた。
(ここまでは予想通りだ。常にあいつらの一歩前に進んでいるよう、話を進めてきた。
もう少し進めば、奴らが慌てふためいている間に、話は全て終わる)
と、会議に加わっていた大臣の一人が、ゼェゼェと荒い息を立てながら、大火の前に現れた。
「かっ、カツミ、様、……、こ、困ります」
「うん?」
「我々に、何の、相談も無く、このような、ことをされては……。我々の方にも、色々と、準備がある、と言うのに……」
「交渉に当たっての、前政府が有していた央中に関する諸権利のまとめか? それとも名代一族に対する、損害賠償などの請求の算定か?」
大火は窓の外、先程まで密議が交わされていた外務院を指差す。
「そう言ったものはすべて、お前らが前もって、あの院で揃えていたと考えて見ていたのだが。俺の誤解だったか?」
「うっ、あ……、そ、それは」
顔を真っ赤にしていた大臣は、途端に真っ青になった。
「……まとめて、あります。では、旅支度をしてまいります。失礼いたします」
「15時に城を出る用意をさせている。それまでに準備をしておけ」
「は……」
大臣は逃げるように、その場から立ち去った。
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宮中在魔、官心暗鬼。
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前回の、央南との交渉における大失態を受け、中央政府の閣僚・官僚たちは密かに、大火に対する協議を重ねていた。
「そもそも、カツミ氏は央中、央南側の人間だった。……であれば、もしかして」
「それは私も考えておりました。『黒い蓮』を追い返したり、北方における反乱を鎮圧したりなどの目くらましはあったものの、その本意は……」
「恐らくは、そうだろうな。
カツミ氏は我々央北の、取り分け中央政府の人間に対して、決して友好的ではない。いや、はっきり言ってしまえば、明確に敵意を持っていると考えていい」
「とすると……」
「ああ。占領後に起きた中央軍のクーデター鎮圧、天帝教の権力封印、央南独立の幇助……。どれをとっても、我々中央政府にとってはマイナス、勢力を減退させる事件だった。反面、央中・央南の人間にとっては、長きに渡る主従関係からの独立を、実質的に認められたわけだ。
そして中央軍、即ち我々の側の人間が立ち上がったのを無理矢理に抑えつけたのは、どう見ても我々に対する示威行動、即ち……」
「何らかの行動を、我々が勝手に起こそうものなら、容赦はしない。……と言うことですか」
「どれもこれも、結局は我々の地位・権力を貶めるものだ! このままでは、かつては世界中にその威光を示していた我々の力は、雲散霧消してしまう」
小役人の集まりといえど、彼らは非常に賢しい部類に入る人間ばかりである。
大火の思惑を見抜き、そしてその結論から、彼らはこんな対策を打ち出した。
「早急に、カツミ氏を主権の座から、下ろさねばなりませんね……」
「その通りだ。そうしなければ、今度は央中までもが、我々に牙を剥くことになる。いや、先の戦争で既に剥かれてはいるのだが、このまま看過すれば、それこそ我々の制御ができない事態に陥るだろうな」
「少なくとも今度予定されている、央中との関係を明確にする協議の場には、彼を出してはまずいでしょうね」
「うむ。もしカツミ氏がこちらの代表として出席すれば、恐らくは裏の裏で話がまとめられ、央南の時と同様に、一方的な内容で終わってしまうのは目に見えている。
何としてでも、カツミ氏は協議の場に出してはなるまい」
「……しかし、そう上手く行くでしょうか? 何と言っても、彼は今、我々の上に立っている状態です。勝手に話を進めれば、それこそ逆鱗に触れるのでは」
ある官僚の言葉に、そこにいた皆は顔をしかめる。
「むう……」
「どうすれば、彼を出し抜けるか……?」
と、会議の中心にいた長耳の外務大臣、ヘンリー・ランフィールド卿が提案しようとした。
「とりあえず先手と言うことで、央中名代とは連絡を取っている。それから交渉の場を……」
そこへ官僚が、慌てて転がり込んでくる。
「た、大変です!」
「騒がしいな……。一体どうした?」
「カツミ様より、『央中名代との交渉の場をサウスボックスに立てている。外務大臣、政務大臣、そして両名下に属する大臣、次官級の者は早急に、そこへ向かうように』との指示がたった今、下りました!」
「……な、なに?」
「バカな、今その話を我々が……」
「……先手を打たれたのは、我々の方だったか」
ランフィールド卿は、苦々しくそうつぶやいた。
右往左往しながら密議の場所を飛び出した閣僚たちを、大火は城の窓から眺めていた。
(ここまでは予想通りだ。常にあいつらの一歩前に進んでいるよう、話を進めてきた。
もう少し進めば、奴らが慌てふためいている間に、話は全て終わる)
と、会議に加わっていた大臣の一人が、ゼェゼェと荒い息を立てながら、大火の前に現れた。
「かっ、カツミ、様、……、こ、困ります」
「うん?」
「我々に、何の、相談も無く、このような、ことをされては……。我々の方にも、色々と、準備がある、と言うのに……」
「交渉に当たっての、前政府が有していた央中に関する諸権利のまとめか? それとも名代一族に対する、損害賠償などの請求の算定か?」
大火は窓の外、先程まで密議が交わされていた外務院を指差す。
「そう言ったものはすべて、お前らが前もって、あの院で揃えていたと考えて見ていたのだが。俺の誤解だったか?」
「うっ、あ……、そ、それは」
顔を真っ赤にしていた大臣は、途端に真っ青になった。
「……まとめて、あります。では、旅支度をしてまいります。失礼いたします」
「15時に城を出る用意をさせている。それまでに準備をしておけ」
「は……」
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