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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・霊剣録 3

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    晴奈の話、第113話。
    英岡妖狐事件の発端。

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    3.
     桂の監視を始めてから2ヶ月が経った頃、ようやく朔美は篠原に結論を述べた。
    「わたしたちもワルラス卿に乗っかりましょう」
    「な、何っ!?」
     朔美は驚く篠原をなだめ、計画をそっと伝える。
    「ねえ、あなた。もしこのまま桂さまが主席になり、ワルラス卿の傀儡政治が始まったら、央南は滅茶苦茶になるわ。
     このまま桂さまを放っておく? それとも大義のために消す?」
     篠原はこの提案をすぐにはうなずけず、逡巡する。
    「む、う……」
     その戸惑いも見越していたらしく、朔美がたたみ掛ける。
    「そして、もう一つ考えがあるの。桂さまはあの通り、浮世離れした人よ。きっと天原家の財産も有効に使えずに食い潰してしまうわ。
     央南政治に深く関わり、長く良く治めてきた天原家の清浄な家督を、こんな馬鹿殿がでたらめに使って崩していくことを考えたら、もっと良識ある、大義ある人間が使った方が良くないかしら?」
    「それは、まあ、そうかも知れんが」
     篠原は朔美の論じていることが詭弁であると分かってはいても、反論できない。
    「分かるでしょ? このまま桂さまを放っていてはきっと、央南の汚点になるわ。だからわたしたちもワルラス卿の策略に加担して、桂さまを消しましょう。
     そしてゆくゆくは天原家の財産も吸い取って、わたしたちが取って代わりましょうよ」
    「……むう」
     反論したいが、篠原の弁舌では朔美に到底敵わない。篠原は結局、朔美の策に同意した。

    「桂さま……」「ひゃっ!?」
     篠原と朔美は、桂が研究室として使っている別宅に忍び込んだ。
    「だ、誰です!?」
     目を白黒させている桂に対し、篠原たちは静かに自己紹介を行う。
    「某、天原家隠密の篠原と申します。そしてこちらは、妻の朔美です」
    「はじめまして、桂さま」
     続いて二人は、篠が桂の調査を頼んでいたこと、そしてその関係でワルラス卿と密会したのを確認したことを説明した。
    「そ、そうですか。えっと、じゃあ、あの、僕のことを、母上に報告なさるんですか?」
    「その件で、お話にあがりました。
     忌憚無く意見いたしますが、恐らく数年のうちに篠さまは倒れ、あなたか、弟の櫟さまが次の当主になるでしょう」
    「ええ、まあ。多分そうなるでしょうね」
    「我々はそれを見越し、先んじて桂さまにお目通り願いたく参上いたしました」
     篠原の目的を聞いた桂はきょとんとする。
    「へ? えっと、じゃあ、母上が亡くなった後、僕の下に就いてくれる、と?」
    「その通りでございます」
     それを聞いて一瞬、桂の顔がほころぶが、すぐに曇る。
    「でも、無理ですよ。櫟の方が、政治に詳しいですし。人当たりもいいですから、間違いなく次の当主はあいつになります。僕に就いてくださっても、きっと無駄になっちゃいますよ」
    「ええ、皆そう思っているようです。同僚の藤川を筆頭として、彼の派閥は既に櫟さまに取り入っております」
     そこで朔美がうつむいた桂の横に立ち、やんわりと、しかし桂の不利をごまかすことなく、話を続ける。
    「でしょう? だから僕になんか……」「ですが、もしも櫟さまがいなくなれば一体、どうなるでしょうか?」
     桂は顔を上げ、目を見開く。
    「それは、どう言う……」「そのままの意味です。櫟さまには、いなくなっていただきましょう」



     それから数ヶ月が過ぎた頃、天原家で事件が起こった。
    「英心さん! 龍明さん! 櫟が、櫟がどこにもいないのです!」
    「な、何ですって!?」「それは一大事ですな、殿」
     驚き、二の句が告げない藤川に対し、篠原は平然を装って、篠に尋ねる。
    「確か今、櫟さまは天玄を出ておられると伺っておりますが」
    「ええ、ゆくゆくは私の後を継がせようと考え、央南各地を遊説させておりました。
     ですがつい先程、大月から『到着予定日を過ぎても一向に現れない』との連絡が入り、ここでようやく行方不明になったことが発覚しまして……」
    「じゃあ、大月へ行く途中で誘拐されたか、あるいは失踪したか……」
     藤川の顔色は真っ青になっている。
     その様子を横目で眺め、篠原は朔美が言っていたことを思い返す。
    (『藤川は既に櫟さまへ取り入っている』と言う話は確かなようだな)
    「何か手がかりは無いんですか?」
     その藤川の問いに、篠は力無く首を振って返す。
    「それが、まったく……。
     英心さんも、龍明さんも、急いで櫟の捜索を行ってください。もしあの子がいなくなれば、私は……!」
     そう言って、篠は顔を覆った。

    「ほ、本当に、やっちゃい、ました、ね」
     桂は始終、震えていた。
     目の前には袋を被せられ、その上から縄で幾重にも縛られた桂の弟、櫟が座っている。
    「うう、うー」
     櫟が何か言おうとしているが猿ぐつわを噛ませてあるため、彼はうなることしかできない。
    「藤川は大月への途上で誘拐されたと判断し、現在その方面を探し回っています。
     ここに櫟さまがいることには、まったく気付いていないかと」
     篠原の報告に桂は一瞬安心した表情を見せるが、すぐに不安な目つきで朔美に尋ねる。
    「そ、そうですか。……どうしましょう?」
    「どうしましょう、とは?」
    「櫟を、この後どうしておけばいいんでしょうか? このまま放っておくわけにも」
    「ああ、そうですね。それじゃ、殺しましょう」
    「ちょっ」「うぐっ!?」
     怯える桂と櫟を見て、朔美はクスクスと笑う。
    「嫌だ、と?」
    「そりゃそうですよ! じ、実の弟ですよ!?」
    「でも、このまま置いておくわけにも行きませんよ。殺すか、口を利けなくしないといけませんよ」
    「そ、そうですよね。
     ……じゃ、じゃあ。殺す代わりに、あの、実験台に……。それなら、殺すわけじゃないし、まだ、その方が……」
    「では、そうしましょう。ちなみに、どんな実験を?」
     桂はうつむきがちに、しかし――どこか楽しそうに、ぼそっと答えた。
    「に、人間を、その、人間以外の、……何て言うか、怪物にすると言うか、そんな実験です」

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    2016.03.25 修正
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