黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 2;火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・掲露記 3

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    フォコの話、399話目。
    半人半人形。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
    「火紅、ランニャ。西方で遭遇した、ゴーレムのことは覚えているか? あの、ピエロじみた奴らのことだ」
    「ああ……。マスタングとか、クーガーとか言うてたあいつらですな」
    「それが、どうかしたの?」
     大火は小さくうなずき、こう続けた。
    「奴らを『ゴーレムだ』と判断した材料は、俺やそいつらからの言葉以外に、何があった?」
    「え……? うーん、倒した時はこう、パーン、って砕け散ったから」
    「では倒す前、動いている時はどうだ?」
    「……うーん。滅茶苦茶な動きができたトコとか、気持ち悪いしゃべり方とか、人間じゃないなって、何となく」
    「見た目から判断はできたか?」
    「できなかった……、かな。みょんな格好だったけど、普通の人間っぽかったし」
     そこでもう一度、大火はうなずく。
    「だろうな。『奴』が直々に造ったものは、それだけ精巧、高精度だと言うことだ」
    「奴?」
     フォコの問いには答えず、大火は質問で返してきた。
    「ルピア、ランドが幼い頃、不思議に思うようなことが無かったか?
     そうだな、例えば……、傷を負った際、傷口から綿のようなものが出てきた、とか」
    「そう、言えば……」
     ルピアの目が見開かれる。
    「一度、家の玄関から滑り落ちた時、そんなことがあった。
     上着が破れて出たのが付いてたんじゃないか、と思っていたが、確かにあいつの膝小僧からずるって、綿を抜いた覚えがある。
     言われてみれば確かに、君の言う通りのことが起こっていた」
    「……ちょっと待ってください、タイカさん」
     思わずフォコは、声を挙げていた。
    「じゃあランドさんは、ゴーレムやったってことですか!?」
    「少し、違う」
     大火は懐から、金色に光る手帳を取り出した。
    「ランニャ、何か適当に、物を持ってきてくれ」
    「え? あ、うん」
     ランニャは台所から、ジャガイモを持ってきた。
    「持ってきたよ」
    「ランニャ、今お前自身が触って分かる通り、この芋は、自分から動かない。間違いないな?」
    「そりゃまあ」
     大火は手帳をぺら、とめくり、呪文を唱えた。
    「……え?」
     途端に、机にごろんと置いたジャガイモの表面に、もさもさと毛が生え始めた。
    「な、何したんだ?」
    「無生物に命を与える術だ。『生命転換の呪』と言うべきか」
     ジャガイモだった物体は黄土色の兎に姿を変え、ぴょん、と机から飛び降り、走り去ってしまった。
    「『奴』は自分の造り出した、恐ろしく精巧なゴーレムにこの術を用い、人間に変えた。
     それが、ランド・ファスタと言う人間の、出自なのだ」
    「う、嘘だろ……?」
    「俺がわざわざ秘術まで見せ、嘘を付くと思うのか?」
    「……」
     フォコ、ランニャ、そしてルピアの三人は言葉を失い、床で伸びているシロッコの鼻血をぺろぺろと舐める兎を、眺めていることしかできなかった。

     呆然としたままの三人に、大火は声をかける。
    「話を、続けるぞ」
    「……ああ」
    「『奴』はある計画を練っていた。それは言葉で言えば単純明快、大抵の子供や愚かな為政者、支配者が抱く夢想――世界征服だった。
     とは言え、これまで火紅やランドが戦ってきた相手のように、今ある世界を我が物にしよう、と言う生易しいものではない。『奴』は、己の創造物で世界を満たそうとしているのだ」
    「己の、創造物……」
    「天帝みたく、神様を気取ってるわけか」
    「そして裏を返せば、それは『既存の存在を、一片たりとも許さない』と言うことでもある。『奴』はこの世に存在する一切合財を、滅しようとしているのだ」
    「とんでもない奴ですな……」
    「だが現在、この世界に存在する人間は、央中地域だけでもおよそ400万人。世界全域で見れば、4、5千万人にも達する。それをすべて亡き者にするだけでも、途方もない手間がかかるし、不可能であると『奴』も理解している。
     そこで代替案として、己の創造物を世界全体の支配者にし、統治させようと目論んだわけだ」
    「……! ランドさんが、そいつの創造物と言うことは」
    「そう。まさにこの計画の通りだ。
     世界への野心をあらかじめ植え付けられていたあいつは、例え俺が関わらずとも、どのような形であれ、世界の首長に立とうと画策し、いずれは達成しただろう。その並外れた頭脳を以てして、な。
     そして計画の成就後、恐らく『奴』はランドと接触し、あいつの心の奥底に、密かに埋め込んでおいた、自分への服従心を目覚めさせ――世界征服を達成するつもりだったのだ。
     それ故、俺はあいつを封印した。一連の経緯は、理解してもらえただろうか」
    「……あれ? でも、それなら」
     ここでフォコが、手を挙げる。
    「西方でランドさん、タイカさんが落ちた後、あのピエロに狙われたと言うてましたけど、同じ側やったら、どうして狙うたんです?」
    「同じ側だったからこそ、だ。あいつらも『人間になりたい』、と渇望しているのだ。
     かつて同類だったものが、先んじて人間になった。それを静かに看過できるほど、奴らの自制は効くようにはできていない。
     あの時は恐らく、『奴』の命令よりも嫉妬心が先行し、『ついでに憎き元同類を、どさくさに紛れて殺してしまおう』とでも考えていたのだろう」
    「なるほど。……でも、それやったら今は」
    「そうだ。恐らく『奴』は動き出す。次の候補を用意して、な」
     大火はそこでようやく、敵の名前を明かした。
    「奴の名は、克難訓(なんくん)――どこまでも俺に牙をむく、甚だしく教え難い女だ」
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