黄輪雑貨本店 新館


    「火紅狐」
    火紅狐 第7部

    火紅狐・掲露記 4

     ←火紅狐・掲露記 3 →火紅狐・掲露記 5
    フォコの話、400話目。
    克大火の弟子;理を破りし者。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
    「ナンクン・カツミ……」
     言葉を繰り返したフォコに、大火は顔をしかめる。
    「と言っても、奴はその名を捨てているが、な。
     元々、最初に出会った時、奴には名前が無く、俺が『白雪』と号を与えた。奴は俺に比肩する魔術の才を持ち、また、極めて美しい容姿をしていた。
     俺が心を動かされ、愛したのは、奴だけだ」
    「えっ」「うそぉ」
     恋愛感情と言うものが彼に備わっていると、全く思っていなかったフォコとランニャは、同時に目を丸くした。
    「何がおかしい?」
    「いえ、なんでも」
    「……まだ奴が『克白雪』の時、俺は余すところなく、俺の知る術を伝えた。俺の、最初の弟子だったのだ。
     そのうちに、俺と奴は互いを認め合い、やがて結ばれることとなった。
     ところが『奴にはどうも、おかしな思考がある』と、そう気付いたのは」
     大火は左の革手袋を脱いでみせる。
     そこに現れたのは、薬指の無い左手だった。
    「奴が俺を裏切り、当時強い敵対関係にあったある男に、俺の身柄を売った直後だった。
     俺は愚かにも、奴と婚姻の契りを交わす際、『終生、伴侶を裏切らない』と言う誓いを指輪に込め、呪をかけていたのだ。その結果が、これだ。
     俺も奴も、未来永劫、指輪のはめられぬ呪いがかかったのだ。どれほどの治癒術を自分にかけようとも、この指は治らない。それは奴も同じく、どれほど姿を変えようとも、その指だけはごまかせないようになっているはずだ。
     そうだろう、シロッコ?」
     大火はいつの間にか目を覚まし、兎を抱きかかえて撫でていたシロッコに尋ねる。
    「あー、うん。手はずっと手袋で隠してた。でも、ランドを預かる時だけ、手袋を脱いでたんだけど、左手の指は、うん、確かに欠けてたよ」
     と、フォコがここで、大火に尋ねる。
    「ちゅうことはタイカさん、僕らに頼みたいことっちゅうのんは、そのナンクンって女を止めろ、と?」
    「それは不可能だ」
     大火はさらりと、そう返してきた。
    「俺に比肩する魔術の使い手であるし、何より神出鬼没。俺の力を以てしても、奴の消息をつかむことはできない。
     何より奴は――ランドを預けたことからも分かるように――己の存在を世に知らしめることを極端に嫌う。もしも万が一、奴を克難訓と分かった上で出遭ってしまったら、即座に殺されるだろう、な」
    「ふむ……」
    「え、じゃ、じゃあ僕、殺されるってこと? 先にルピアに殺されそうなんだけど」
     兎をぎゅっと抱きしめ、怯えるシロッコに、大火とルピアは同時に、ため息をつく。
    「奴も利用し終えた相手をわざわざ構うほど、暇ではあるまい。下手に動かない限り、殺されることは無いだろう。
     とは言え、この街に留まっていられるかも分からんが、な」
    「ああ。刀も打ち終わったし、私への口説き文句も結局、厄介払いをしたいがためと分かったからな。
     こんなクズを置いておくほど、私は寛容にはなれない。すぐにでも、出て行ってもらうぞ」
    「……そりゃ……まあ……君にランドを任せっ放しにしたのは、その、悪かったと思ってるけど、……でも、好きって言うのは嘘じゃないんだ」
    「だから? 私にもお前を愛せ、と? まだ殴られ足りないみたいだな」
    「う、その……」
     拳を固めるルピアの形相に、シロッコはうなだれる。
    「お前が私に好意を向けようが向けまいが、私をだまして厄介払いに利用したのは事実だろう? それを私が、にっこり笑って許してやると思ってるのか?」
    「……」
    「三度は言わんぞ。出て行け」
    「……分かった……。あ、でも」
     いまだ兎を抱えたまま、シロッコは上目遣いにこう尋ねてきた。
    「結婚式、僕がいなくても、……その、大丈夫なのかな?」
    「死んだことにしておく。それで構わんな?」
    「……はい」
     シロッコはそろそろと立ち上がり、がっくりと肩を落として、居間から出て行った。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    400話到達。
    最初の頃から、「火紅狐」は執筆に難航していたと何度もこぼしましたが、それでもここまで積み上げました。
    あともう少しで、完結します。最後までよろしく、お付き合いくださいませ。

    あと、もう一つ。
    「掲露」とは、秘密を明かすという意味です。
    ここに来て重大な秘密が二つ、明らかにされました。
    明日ももう一つ、秘密が明かされます。

    実は「蒼天剣」に出てきたあの子があの人とあの人のアレ、と言う……。
    (何が何だか分かりませんね、これでは。
    ともかく、明日をお楽しみに)
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ  3kaku_s_L.png 琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    • 【火紅狐・掲露記 3】へ
    • 【火紅狐・掲露記 5】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【火紅狐・掲露記 3】へ
    • 【火紅狐・掲露記 5】へ