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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・霊剣録 4

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    晴奈の話、第114話。
    伏線の交差。

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    4.
    「畜生、見つからねえ!」
     藤川とその手下たちは天玄から大月へと伸びる街道を何度も行き来し、櫟の行方を探り回っていた。
     しかし連日の捜査にもかかわらず、成果は一向に上がっていなかった。
    「見たってヤツはいねーのか?」
    「街道沿いの町村をしらみつぶしに当たってみましたが、それらしい報告は一件も……」
    「くそ……」
     手がかり一つ得られず、藤川は頭を抱えてうなる。
     手下たちは心配そうに、そんな藤川を見つめていた。
    「どうしましょう、お頭。このまま櫟さまがいなくなってしまうと……」
    「バカ言ってんじゃねえよ、まったく! そんな簡単に、いなくなられてたまっかよ。
     大月で見たって言う話も無かったのか?」
    「はい。見た者はいませんでした」
    「そうか。……もしかしたらよぉ」
     藤川はあごに手を当てて無精ひげをこすりつつ、推測を口に出す。
    「ハナっから大月にも、この街道にも来てねえのかも知れねえな」
    「と、言いますと?」
    「櫟坊ちゃんは天玄でかどわかされたかも知れねえ、ってことだ。一度天玄に戻って探してみようぜ」
    「承知!」
     藤川と手下たちは踵を返し、天玄へと戻っていった。



    「僕が今手がけている研究、最初はこの本がきっかけでした」
     そう言って桂は一冊の本を机に置いた。
    「これは?」
    「クリスとか言う『狐』の商人から買った本です。初めて読んだ時はドキドキが止まりませんでした、本当に。
     魔術、いや、錬金術の究極の夢が、具体的な形で描かれていたんですからね」
    「どう言う意味ですか?」
     朔美が尋ねた途端、桂の顔が非常に嬉しそうにほころぶ。
    「命を、命を創れるんですよ! 人形でも、そこらの木や岩でも、命を与えて人間にできるんです! 今までこの、究極の術を実現できた者は一人もいません!
     そう、あの『黒い悪魔』克大火でさえも! 彼にそんな伝説は一つも無いんですからね!」
     桂は上気した顔で、自分の発見を語る。
    「でもですね、カミサマが知らないような術だとは言え、やっぱり錬金術の原則『公平にして絶対』の、あの法則は成り立ってました。何かを代償にしないと、命を創れないんだそうです。
     その商人には義理の娘がいたんですが、何でも昔、どこかの古美術商が、その子を人形から創り上げたとか――その子が元は人形だったって証拠も、見せてもらいましたよ――でも、その古美術商は代償を定めなかったせいで、自分が人形になってしまい、死んでしまったとか。
     ともかく、この本は本物でした。試しにほら、このねずみを代償にして……」
     そう言って桂は、机に置いてあったねずみの置物を手に取る。
    「まあ、どう見てもこれは置物ですけど。でも、こっちを見てもらえば……」
     桂は一旦部屋から離れ、すぐに籠を持って戻ってきた。
    「……!」「うそ、そんな……」
    「元が懐中時計だったからでしょうか。この『ねずみ』、毎日きちっと同じ時間にエサをねだるんです。可愛いでしょ?」
     籠の中には鎖の尾を振りながらカチカチと音を立てる、真鍮色のねずみがちょこんと座っていた。
     驚く二人を見て、桂の魔術講義はいよいよ熱を帯び始める。
    「それで、他の術も色々試してみたんですけどね。これだけはまだ、試してなかったんですよ」
     桂が指し示した頁を見るが、篠原も朔美も、その内容が把握できない。
    「えっと……?」「何と書いてあるのです?」
    「ああ、すみません。えーとですね、そのまんま約すと『人間を人間から外す呪』」
    「……?」
     きょとんとする二人を見て、桂は嬉しそうに笑う。
    「簡単に言うと、人間を怪物に変える術、です」
    「それを、櫟さまに試すのですね」
    「……はい。殺すよりは、まだいいかなって」
     桂はまたうつむき――しかし、どこか嬉しそうな表情をして――本を手に取った。



    「お頭! やはり、櫟坊ちゃんは天玄でさらわれた可能性が高いようです。店や市場を探ったところ、行方不明になったと思われる日の前後、何人かに目撃されていました。
     その一方で、街の外で見たと言う者は一人も無く……」
     手下の報告を聞き、藤川は無精ひげを撫でながらため息を漏らす。
    「はー……。そっか、やっぱり俺の勘に間違いは無かったか。で、どの辺りで見かけたか、聞いてるか?」
    「はい。南区の赤鳥町で目撃されたのが、最後でした。恐らく、その近辺で行方不明になったものと」
    「よっしゃ! それじゃ全員戻ってきたところで、赤鳥町をしらみ潰しに探すぜ!」
    「承知! ……っと、もう戻ってきてますよ、お頭」
    「おう、そっか。
     ……全員って言やあ、篠原のヤツは何してやがんだ? 殿から俺と一緒に探すよう、命じられてたはずなんだがな」
     そう言って、藤川がイラついた様子を見せたところで――。
    「どうした、藤川?」
     その篠原が、ひょいと藤川たちの輪に割り込んできた。
    「あっ、篠原! てめえ、今まで何してやがったんだ!?」
    「お前たちこそ何をしている。往来でこんなに目立つ集まり方をして、隠密の自覚があるのか?」
    「そりゃこっちの台詞だ! 人が汗水垂らして方々探し回ってたってのに、今頃ノコノコ現れやがって」
     憮然とした顔をする藤川に、篠原は平然とこう返す。
    「我々は我々で、独自に探っていたのだ。なあ、朔美」
    「ええ、今の今まで、ずーっとね」
     篠原の後ろにいた朔美も、何事も無かったように答える。
     そんな二人に、藤川は左手をバタバタと振るいながら悪態をつく。
    「いけしゃあしゃあと、よくもまあ吹かしやがるぜ!
     まあいい、何か手がかりはあったりすんのか?」
    「ああ。この近辺で見たと言う話を、何件か聞いた」
    「そうかよ。まあ、そこら辺は俺たちと同等だな。じゃあ、手分けして探すぜ」
    「おう」
     藤川たちの捜査陣に篠原たちも加わり、数日間をかけて赤鳥町での捜索が行われた。



     だが、必死の捜索にもかかわらず、藤川たちは結局、櫟を見付けることはできなかった。ひどく落胆した藤川と篠に対し、篠原たちは表面上落ち込んだように見せかけつつも、内心では喜んでいた。
     いや――喜んだのは朔美と、桂だけである。篠原は己の主君を苦しめたことを、非常に後悔していた。

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    2016.03.25 修正
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