「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第3部
蒼天剣・霊剣録 5
晴奈の話、第115話。
真実を告げる手紙。
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5.
息子を失った心労からか、篠はがっくりと老け込み、健康を著しく損ねた。そして双月暦507年、失意のうちにこの世を去った。
篠の存命中、篠の弟である椹(さわら)やその娘、棗などが当主になってはどうかとも提案されたが、どう言うわけか椹は篠が亡くなる2週間前に倒れ、棗もどこかへ雲隠れしてしまった。
候補者が次々と消え、最後に残ったのは桂だけとなった。
「ああ、ひでえ有様だ」
主を失い、次の主君に就きそびれた藤川は、茫然自失の状態となっていた。
かつては栄華を極めた家も、いつの間にか妻が去り、友人や手下も離れ、すっかり荒みきっていた。残っているのはわずかな金と刀、そして娘の霙子だけとなっていた。
「くそ……、すまねえ、霙子。お父ちゃんのせいで、こんな苦しくて寒い思いをさせちまって」
「ううん、いいの。へいきだよ」
左手に抱える霙子の気遣いに、藤川は思わず涙がこぼれそうになる。
「……っと、目にゴミ入っちまった。
ま、しゃあねえか。6年前に逆戻りしたってだけだし、お前がいるだけ俺は幸せ者だ」
藤川は霙子を抱き上げたまま、玄関に向かう。
「一から出直しだ。付いてきてくれよ、霙子」
「うんっ。
……あれ、お父ちゃん。おてがみ、とどいてるよ?」
霙子が郵便受けからはみ出している、白い封筒に気が付く。
「お? 霙子、ちっと降りてくれ」
「はーい」
霙子を腕から降ろし、封筒を手に取る。
「……あー、と。霙子、封筒開けてくんねえかな。お父ちゃん、手が片方しかねえからよ」
「はーい。……よいしょっ」
霙子に封を切ってもらい、藤川は手紙に目を通す。
「……!? 何だと……、いや……、まさか。しかし、それだと辻褄が合いやがる……」
手紙を読み、藤川は愕然とする。
「畜生……! もっと早く気が付きゃあ!」
「お父ちゃん?」
「……霙子、ちっとだけ、ここで待っててくんな。お父ちゃん、やんなきゃなんねえことができたからよ」
藤川は霙子を玄関に待たせ、どこかへと走り去っていった。
「お父ちゃん……」
霙子は玄関に捨てられた手紙を手に取り、眺めた。
「えっと、……かわ……こころさまへ。このようなおて……を……お……しすることをご……、わかんないや」
「藤川英心様へ
このようなお手紙を突然お渡しすることを、ご容赦ください。
わたくしは常々、不安でなりませんでした。櫟おじ様がいなくなり、桂おじ様が増長された頃から、このようなことが起こるのではないかと危惧していたのです。
先日、父が倒れたことはご存知かと思います。表向きには突然死としておりましたが、実は刀で斬られ、殺されたのです。父の体には手紙が添えられており、『この件を公表すれば、貴様らの命は無い』と書かれていたため、この件を伝えることができませんでした。
そしてわたくしも、命を狙われております。ついこの前、突然黒ずくめの者たちに囲まれたのです。その際は偶然通りかかった、樫原と言う剣士様にお助けいただき、事無きを得たのですが、いつ何時、同じ目に遭うやも知れません。
わたくしは樫原様の助言に従い、彼の故郷へと避難することにいたしました。
わたくしはその黒ずくめの者が何者か、また、櫟おじ様を誘拐したのが何者か、知っているつもりです。
これらは間違い無く、桂おじ様の仕業でしょう。桂おじ様が抱えている隠密たちがやったことだろうと、確信しております。
藤川様も篠伯母様に就いていた隠密であると言うことは、重々承知しております。ですが、現在桂おじ様に就いてはいないと言うことも承知している故、このような手紙を出させていただきました。
わたくしの父、そして櫟おじ様の仇を討って、とは申しません。できる限り早急に、その街を離れられた方がよろしいかと思われます。桂おじ様は間違いなく、篠伯母様の裏を知っている者たちを全員、消すおつもりです。
娘様ともども、どうかご自愛なさるようお願い申し上げます。
天原棗より」
(棗嬢ちゃん、ありがとよ。間抜けな俺も、ようやくからくりが分かった。全部あの、篠原の大バカ野郎の仕業だったんだな。
くそ……! 俺があいつを呼び込まなきゃ、こんなことにはならなかったってか!?)
藤川は心中で己をなじりつつ、篠原の家へと向かった。
だが、その途中で――。
「藤川英心! 殿のご命令により、お命頂戴いたす!」
篠原の放った隠密たちが、藤川の行く手を阻む。
「うるせえ、雑魚どもがッ!」
しかし片腕とは言え、一時は篠原と並び称された剣の達人である。音も無く刀を抜き、逆手に構え、風のように敵の間をすり抜ける。
「ま、待て、……ぐはっ!?」
「逃がすか、……ぎゃあっ!?」
藤川が抜けた直後、敵はバタバタと倒れていく。
(音も無く敵を討ち、妖怪や霊魂のごとく斬り進む、これぞ『霊剣』の極意なり、……ってな)
その後も何度か篠原一派に遭ったが、どれも藤川の敵ではない。
藤川は一直線に突き進み、ついに篠原の家に到着した。
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真実を告げる手紙。
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息子を失った心労からか、篠はがっくりと老け込み、健康を著しく損ねた。そして双月暦507年、失意のうちにこの世を去った。
篠の存命中、篠の弟である椹(さわら)やその娘、棗などが当主になってはどうかとも提案されたが、どう言うわけか椹は篠が亡くなる2週間前に倒れ、棗もどこかへ雲隠れしてしまった。
候補者が次々と消え、最後に残ったのは桂だけとなった。
「ああ、ひでえ有様だ」
主を失い、次の主君に就きそびれた藤川は、茫然自失の状態となっていた。
かつては栄華を極めた家も、いつの間にか妻が去り、友人や手下も離れ、すっかり荒みきっていた。残っているのはわずかな金と刀、そして娘の霙子だけとなっていた。
「くそ……、すまねえ、霙子。お父ちゃんのせいで、こんな苦しくて寒い思いをさせちまって」
「ううん、いいの。へいきだよ」
左手に抱える霙子の気遣いに、藤川は思わず涙がこぼれそうになる。
「……っと、目にゴミ入っちまった。
ま、しゃあねえか。6年前に逆戻りしたってだけだし、お前がいるだけ俺は幸せ者だ」
藤川は霙子を抱き上げたまま、玄関に向かう。
「一から出直しだ。付いてきてくれよ、霙子」
「うんっ。
……あれ、お父ちゃん。おてがみ、とどいてるよ?」
霙子が郵便受けからはみ出している、白い封筒に気が付く。
「お? 霙子、ちっと降りてくれ」
「はーい」
霙子を腕から降ろし、封筒を手に取る。
「……あー、と。霙子、封筒開けてくんねえかな。お父ちゃん、手が片方しかねえからよ」
「はーい。……よいしょっ」
霙子に封を切ってもらい、藤川は手紙に目を通す。
「……!? 何だと……、いや……、まさか。しかし、それだと辻褄が合いやがる……」
手紙を読み、藤川は愕然とする。
「畜生……! もっと早く気が付きゃあ!」
「お父ちゃん?」
「……霙子、ちっとだけ、ここで待っててくんな。お父ちゃん、やんなきゃなんねえことができたからよ」
藤川は霙子を玄関に待たせ、どこかへと走り去っていった。
「お父ちゃん……」
霙子は玄関に捨てられた手紙を手に取り、眺めた。
「えっと、……かわ……こころさまへ。このようなおて……を……お……しすることをご……、わかんないや」
「藤川英心様へ
このようなお手紙を突然お渡しすることを、ご容赦ください。
わたくしは常々、不安でなりませんでした。櫟おじ様がいなくなり、桂おじ様が増長された頃から、このようなことが起こるのではないかと危惧していたのです。
先日、父が倒れたことはご存知かと思います。表向きには突然死としておりましたが、実は刀で斬られ、殺されたのです。父の体には手紙が添えられており、『この件を公表すれば、貴様らの命は無い』と書かれていたため、この件を伝えることができませんでした。
そしてわたくしも、命を狙われております。ついこの前、突然黒ずくめの者たちに囲まれたのです。その際は偶然通りかかった、樫原と言う剣士様にお助けいただき、事無きを得たのですが、いつ何時、同じ目に遭うやも知れません。
わたくしは樫原様の助言に従い、彼の故郷へと避難することにいたしました。
わたくしはその黒ずくめの者が何者か、また、櫟おじ様を誘拐したのが何者か、知っているつもりです。
これらは間違い無く、桂おじ様の仕業でしょう。桂おじ様が抱えている隠密たちがやったことだろうと、確信しております。
藤川様も篠伯母様に就いていた隠密であると言うことは、重々承知しております。ですが、現在桂おじ様に就いてはいないと言うことも承知している故、このような手紙を出させていただきました。
わたくしの父、そして櫟おじ様の仇を討って、とは申しません。できる限り早急に、その街を離れられた方がよろしいかと思われます。桂おじ様は間違いなく、篠伯母様の裏を知っている者たちを全員、消すおつもりです。
娘様ともども、どうかご自愛なさるようお願い申し上げます。
天原棗より」
(棗嬢ちゃん、ありがとよ。間抜けな俺も、ようやくからくりが分かった。全部あの、篠原の大バカ野郎の仕業だったんだな。
くそ……! 俺があいつを呼び込まなきゃ、こんなことにはならなかったってか!?)
藤川は心中で己をなじりつつ、篠原の家へと向かった。
だが、その途中で――。
「藤川英心! 殿のご命令により、お命頂戴いたす!」
篠原の放った隠密たちが、藤川の行く手を阻む。
「うるせえ、雑魚どもがッ!」
しかし片腕とは言え、一時は篠原と並び称された剣の達人である。音も無く刀を抜き、逆手に構え、風のように敵の間をすり抜ける。
「ま、待て、……ぐはっ!?」
「逃がすか、……ぎゃあっ!?」
藤川が抜けた直後、敵はバタバタと倒れていく。
(音も無く敵を討ち、妖怪や霊魂のごとく斬り進む、これぞ『霊剣』の極意なり、……ってな)
その後も何度か篠原一派に遭ったが、どれも藤川の敵ではない。
藤川は一直線に突き進み、ついに篠原の家に到着した。
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2016.03.25 修正
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2020.07.23 誤字を修正
2016.03.25 修正
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