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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・霊剣録 6

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    晴奈の話、第116話。
    霊剣V.S.魔剣。

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    「篠原ああッ! 出て来いやあああッ!」
     篠原の家に到着した藤川は、あらん限りの大声で篠原を呼んだ。
    「今、行く。……待っていろ」
     ぽつりと篠原の声が返ってくる。少しして玄関が開かれ、篠原と朔美が姿を見せる。
    「用件は、聞くまでも無いようだな。気付いたのだろう?」
    「ああ、そうだ。……イカれてんのか、てめえ」
     藤川は刀を向け、猛々しく怒鳴る。
    「家元に続いて、篠さまにまで謀反を起こすか、この狂人がッ!」
    「……結果として、そうなってしまったな」
    「何が『結果として』だ!? てめえが櫟坊ちゃんをさらったからこうなったんだろうがッ!」
    「……」
     篠原はうつむき、藤川から目をそらす。代わりに朔美が話し始めた。
    「藤川さん、どうか落ち着いて。これも天原家の、いいえ、央南のためを思ってやったことなのよ」
    「ああん?」
    「藤川さんも知っての通り、天原桂は政治家としては無能よ。でもわたしたちが桂を担ぎ上げることで、わたしたちは桂を、そして天原家、さらには央南政治をいいように操ることができる。その方が、桂が政治を執るよりどんなに……」「朔美ぃ」
     藤川の額に、青筋が走る。
    「それ以上、その良く回る口を開いてくれるなよ? でねーと、二度と閉じられないようにパックリさばくかも分からんぜ?」
     藤川は朔美を突き飛ばし、唾を吐きかける。
    「俺はこの外道と話をしてんだよ! 黙ってろ、雌猫がッ!」
    「……」
     真っ青になっている篠原に、藤川は畳み掛ける。
    「答えろよ、篠原。てめえ、天原家と焔流と俺の人生引っかき回して、何が面白えんだ?」
    「……」
    「大体、昔っからてめえはそうだった。自分ではお行儀が良くてよく気が付く、有能な人間だと思ってんだろうが、周りにとっちゃうっとうしい厄介者以外の何者でもねえんだよ。
     てめえがやってきたことはみんな俺たちの、俺の邪魔にしかなってねえんだよ! 焔流での謀反も、今回のことも、俺にとっちゃ腕を失い、塞を追い出され、主君を失ったって言う凶事中の大凶事だ!
     何が焔流のためだ! 何が央南のためだ! この疫病神め!」
    「……」
     返す言葉も無く、篠原は立ち尽くす。
     と、地面に倒れたままの朔美がぼそっとつぶやいた。
    「あなた、悩んでいらっしゃるのなら」
    「黙ってろって言っただろうが!」
     藤川が怒鳴るが、朔美は構わず言い切った。
    「悩ます人を消してしまえばいいじゃない」
    「……そうする、か」
     篠原は刀に手をかけた。藤川は一歩退き、篠原にもう一度怒鳴る。
    「篠原、てめえは使いっ走りかよ、その女の!」
     篠原は答えず、刀を抜く。
    「自分は悪くない、すべて朔美の指示通りにやっただけです、ってか! 大の男がそんな体たらくで、恥ずかしいたあ思わねえのか!?
     てめえはもう、侍でも剣士でもねえ! 俺が成敗してやらあ!」
     藤川も刀を構え、互いににらみ合った。

     正直なところ、篠原の心は相当参っていた。刀を構え、藤川と対峙するも、心の中は千々に乱れていた。
    (何故……、何故こんなことになっているのだ)
     藤川がゆらりと動き、篠原に迫る。
    (待て、藤川……)
     基本的に、藤川の動きは非常にゆっくりとしたものだが、何故か攻撃の瞬間だけが、目で追えない。
    (こいつの言う通りだ……。俺のやってきたことは何だったのだ?)
     それでも何とか太刀筋を読み、藤川の攻撃を弾く。
    「チッ……! 頭ン中は腐ってるくせして、剣の腕は衰えてねえってか!」
    (思えば俺はひたすら、朔美に踊らされている。家元に反逆したのも、天原家を混乱させたのも、すべて朔美の意志であり、俺のものでは無い)
     また、藤川の動きがつかめなくなる。はっと気が付いた時には、篠原の額から血がダラダラと流れ出していた。
    (俺は、俺は……、何をしているのだ? 一体、何がしたい?)
    「オラッ!」
     藤川がまた刀を振るう。何とか受けるが、篠原の体勢は大きく崩れた。
    (しまった……!)
     藤川がここで、刀を順手に持ち帰る。勝機と見て、とどめを刺すつもりらしい。
    「往生しやがれッ!」
     篠原はこれまでかと覚悟し、藤川が振り上げた刀を凝視していた。

     だが――藤川は刀を振り上げたまま、静止する。
    「……?」
    「て、めえ、この……」
     藤川がかすれた声で何かを言おうとしたが、言葉は途中から血の塊に変わった。
     そのまま藤川のひざががくりと落ち、背中に何かが刺さっているのが見えた。
    「……朔美?」
     二人の後方にいた朔美が、手を伸ばしている。もう一方の手には、長細い投擲武器――苦無が握られている。
    「危ないところだったわね、あなた」
    「とことん……、腐りやがったな……、後ろから襲わせるか……」
     倒れた藤川が、息も絶え絶えに非難する。
    「ち、違う……」「自分は関係、ありません、ってか……?」
     うろたえた篠原を見て、藤川は最期の力を振り絞ってなじる。
    「もう、てめえはおしまいだ……。己の、腕一つで、勝負が付けらんねえ。付く前に、誰かに、助けを、出されちまうほど、情けなく映ったって、こった……。
     改めて、言うぜ……。てめえは、もう、侍、でも、剣士でも、……無い」
     篠原は何も言えず、ただボタボタと汗を流し、棒立ちになっている。それを見ていた朔美が、冷たく言い放つ。
    「まだ息があるわ。とどめを刺してちょうだい、あなた」
     その言葉を聞いた篠原の、最後の良心が揺れる。
    (まただ……! また、朔美は俺を操ろうとしている! いかん! ここでまた言いなりになっては……)「言いなりになってはいかん、と?」「……!」
     朔美は篠原の動揺を見抜き、淡々と言い放つ。
    「ねえ、あなた。生きることは苦しいわよね。何故、苦しいんだと思う?」
    「な、何を……?」
    「自分の行動に、責任が伴うからよ。
     今日やったことが、明日誰かに非難されるかも知れない。そう考えただけで、大抵の人は今日の行いを悩むわ。
     でも、誰にも非難されないと分かっていれば、悩むかしら?」
    「朔美、一体……」
    「それなら、話は簡単じゃない。
     あなたが今、苦しんでいるのは、藤川が責任を追及しているから。そうじゃない? でも彼がいなくなったら、もう苦しまずに済むわよ」
    「う、う……」
    「篠原、聞くな……、そんな、下劣な屁理屈を、納得しちまったら、もはや……」
     死の淵にいる藤川が説得するが、朔美は無視して続ける。
    「これからも、そうしていけばいい。
     苦しいのなら、その苦しみを消せばいいのよ。そうすればずっと、楽でいられるのよ」
    「……」
     篠原はぶるぶると震えながら、いつの間にか落としていた刀を拾う。藤川はそれを見上げ、今にも消え入りそうな声でつぶやいた。
    「もはや、人ですらねえよ……。飼われた獣だ、てめえは」
     篠原は刀を構え、勢い良く振り下ろした。



     いつまで経っても父が帰ってこないため、霙子はべそをかき始めていた。
    「ひっく、ひっく……、お父ちゃん、まだぁ……?」
     がらんとした玄関に、夕日が差し込んでいる。と、その光が2つの影にさえぎられる。
    「……お父ちゃん?」
     霙子が顔を上げると、そこには父の友人だった篠原夫妻が立っていた。夕日を背にし、二人の顔は良く見えないが、声で彼らだと分かる。
    「霙子ちゃん、お待たせ」
     猫獣人の影が、優しげな声で自分を呼ぶ。
    「おばちゃん、お父ちゃんは?」
    「ちょっと、遠いところへ行かなきゃならなくなったの。しばらく、わたしたちと一緒にいてちょうだい」
    「え……?」
    「すまない……」
     今度は非常に疲れきった、低い男の声。霙子は何かあったのだろうと、直感で分かった。しかし何があったのか、聞くことはできなかった。
     二人が死神のように、真っ黒に染まって見えたからだ。

     それからの9年間、篠原一派は天原桂とワルラス卿の背後で暗躍し続けた。
     家督と政治地盤を継いだ桂を央南連合の主席に就かせるために、連合の議員たちをそれと分からない形で足止めし、主席に納まった後もなお、傀儡政治を持続させるために画策した。
     こうして央南連合は9年に渡り、政治腐敗に冒された。

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    2016.03.25 修正
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